/ポストカード音楽会 /インパクトある一枚

 

 

 

マルシュアスの皮剥ぎ

 

 

 4803

4803  Tiziano Vecellio, gen, Tizian 1488 - 1576  Die Schindung des Marsyas (Ausschnitt) 1575/76
The flaying of Marsyas (detail)  Kunsthistorisches Museum Vienna  2008・1・2入手  楽器

 

 

のカデンツ

 

↑ これは ウィーン美術史美術館にある 

かの有名なティッツイアーノの 最晩年の絵。

らしくない暗いトーンですが それもそのはず かなり凄惨な場面なのです。

↓ ヴァイオリンと シュリンクス(パンの笛) が描かれていますので 

ポストカード音楽会としては このカードを外すわけには まいりません。

 

 

 カードにある The flaying of Marsyas とは マルシュアスの皮剥ぎ。

それも さかさまに吊るされて 生きたまま ・・・ なんて残酷な場面でしょう!

 

その後 これと同じシーンの ↓ カードを もう一枚 入手しましたので

 ついに この展示室を作ることを 決意しました。

↓ こちらで 皮を剥いでいるのは 

このポストカード音楽会のヒーローの一人 アポロンさま!

グエルチーノの絵です。

 

8104

8104  GUERCINO  マルシャスの皮を剥ぐアポロ  Apollo che scoftica Marsia  1618  olio su rela
Firenze, Palazzo Pitti, Galleria Palatina Su concessione del Ministero dei Beni e delle Arrivica Culturali e del Turismo
2015・5・2入手  ヴァイオリン

 

楽器は カードの右上に。

 

それでは アポロンと マルシュアスが この場面にいたるまでの お話を。

ゼウスの可愛い娘 アテナ(ミネルヴァ)は 

ある日 鹿の骨から アウロス(二管笛)を作り 

神々の饗宴で 得意げに披露しました。

頬をふくらませ 真っ赤な顔で演奏するアテナをみて 

ヘラ(ジュノ)とアプロディア(ヴィーナス)が笑いを堪えているのを知り

演奏している自分の顔を川面に映してみたアテナは すっかり嫌気がさし 

アウロスに呪いをかけて 川に投げ捨てました。

そのアウロスを拾ったのが サテュロスの一人 マルシュアス。

やがて 彼はアウロス演奏の達人となり  

それに聴き惚れたプリギュア人たちは 

このマルシュアスの笛には 太陽神アポロンのキタラ(竪琴)も かなわない 

と噂します。

それを聞きつけたアポロンは 気分を害し 

神々の前で マルシュアスと 音楽の腕比べ・コンテスト をすることにしました。

 (マルシュアスが 太陽神アポロンより自分の方が上手い 

と自らアポロンに試合を挑んだ との説も)

このコンテストでは 勝者が 敗者に何をしてもよい ということに決まります。

審判は アポロンを補佐する 9人のムサイ(ミューズ)たち でしたので 

結果はもちろん アポロンの勝利。

 それでマルシュアスは プリギュア地方の カレーネの洞窟で

 ↑ 上の2枚のカードのような残酷な結末を 迎えることになったのです。

彼を悼んで 仲間のニンフやサテュロスたちが 大量の涙を流し

それが 今のマルシュアス川となったとか。

ただ  ↑ 上の2枚のカードでは  

アポロンの楽器は どちらも キタラではなくヴァイオリンで

マシュアスの楽器も 

ティッツイアーノ の絵では  (アウロス・二管笛) ではなく 

(シュリンクス・パンの笛) になっています。

 

↓ こちらのカードは ヴェネチアのグリマーニ館 の天井画に描かれた 

このコンテストの場面ですが

ここでは マルシュアスは 本来の楽器 アウロス(二管笛) 

アポロンの楽器もキタラ系 で登場しています。

 

7749

7749 Vebezia Plazo Grimani  Francesco Salviati (1510 -1563)
Camerino di Apollo, Soffitto, particolare de la contesa tra Apollo e Aarsia  2014・6・30入手  楽器

 

 

じつは アポロンの音楽の腕比べ・コンテストには もうひとつ 別ヴァージョンがあります。

それは アポロンと競う相手が マルシュアスではなく  

アルカディアの森深くに住む半獣神の パン。

この牧神パンは シュリンクス(パンの笛)の名人。

パンは ニンフやサテュロスたちと いつもお酒を飲んでは歌い踊り 

パンの奏でるシュリンクスの音色で 仲間たちを すっかり陶酔させていたのですが

 ある時 パンは 太陽神アポロンと 音楽コンテストをすることになりました。

今回の審査は 山の神トモロスや ミダス王 たちに決まります。

結果は ミダス王ひとりが 牧神パンを推したのですが 

あとのみんなは アポロンに軍配をあげました。

 

ルーベンスの ↓ この絵は そのコンテストのシーンです。

山の神トモロスから 勝利の月桂樹の冠を 受けるアポロンと

負けてしまった 牧神パンを 残念そうに見つめるミダス王・・・

いえいえ そうではありません。

このシーンには もうひとつの ミダス王のエピソードが 描かれているのです。

 

 5377

5377  RUBENS Peter Paul  (1577 - 1640)  Apollon et Pan  Musees royaud des Beaud-arts de Belgique Bruxelles
2008.9.21入手 楽器

 

 

 

その前に ミダス王自身のエピソードを ご紹介をしておきましょう。

視覚デザイン研究所 編  『ヴィーナスの片思い』  に

黄金好きのミダス王は アポロンが黄金の光をムダ使いしている と非難した。

アポロンは ミダス王の 「手に触れるものすべてを 黄金に変えて欲しい」 

という願いを叶えることで 報復する。

食べ物まで黄金に変わってしまったため 飢えたミダス王は

アポロンへの無礼を詫び 報復から ようやく解放された

と紹介されています。

が これにも 別ヴァージョンがあって

ディオニッソスの育ての親の 年老いたシレノス(サテュロス)が 

仲間からはぐれて プリギュアにある ミダス王の屋敷に迷い込んでしまった時

智恵もの として知られていた年老いたシレノスは 

ミダス王から 丁寧なもてなしを受けます。

(シレノスは半馬半人  サテュロスは半山羊半人 で描かれることが多いようです )

このことで ディオニッソスから感謝されたミダス王は 

願い事をなんでも叶えてもらえることに なりました。

そこで 『手に触れるものすべてを黄金に変えて欲しい』 と 

ディオニッソスに頼むところは 同じで

食べ物や 可愛い娘まで黄金になってしまったため

困ったミダス王が やっぱり その願いを取り消してもらうところも 同じです。

ただ ミダス王の相手が 

アポロンだったり ディオニッソス(バッカス)だったり するんですね。

 

↓ このカードは ディオニッソス(バッカス)と ミダス王の 面会シーン。

手を差し伸べているのが ディオニッソス  ひさまずいているのが ミダス王。 

さて ご褒美をもらうところなのか 取り消してもらうところなのか?

題名は 『ミダス王とバッカス』 

 

 3589

3589   NICOLAS POUSSIN (1594 -1665)  Midas und Bacchus Leinwand 98/153 cm
Bayerische Staatsgemaldesammlungen, Munchen  Alte Pinakothek  2005・4・22入手 二管笛

 

 

ディオニッソス(バッカス) の後ろでは アウロスを吹く牧神パンの姿も確認できます。

 

 

手に触れるものすべてを黄金に変える力 から やっと解放され 深く反省したミダス王は 

 王を退き 緑豊かな田園の地で 牧神パンやサテュロスたちと 楽しく暮らします。

↓ こちらは そんな ミダス王。  (右の青服)

牧神パンたちの音楽を楽しみながら  ここでの生活に 

すっかり満足している様子が伝わってきますね。

 

 5377

5377  JOHANN GEORG BERGMULLER  (1688-1762)  KingnMidas Listening to Pan's Song 1746
oil/Canvas   63.5 x 87 cm  RESIDENZGALERIA SALZBURG  2008・5・2入手  宴祭り踊り

 

 

さてさて

 ずいぶん脱線してしまいましたが 

先ほどのルーベンスの絵画 ↓ アポロンとパンのコンテスト に話を戻しましょう。

 

 

コンテストに勝利し 山の神トモロスから 月桂樹の冠を 受けるアポロン。

 ただ ミダス王だけは 仲良しのパンに軍配をあげたのでしたね。

 そのことで ミダス王は アポロンの怒りをかってしまいます。

月桂樹を受けるアポロンが 指さして抗議している相手は ミダス王。

『おまえみたいに 音のわからないやつは ロバの耳がピッタリだ』 

と ミダス王の耳を ロバの耳にしてしまったのです。

『王様の耳は ロバの耳』 のお話は ここから。

このミダス王の情けなそうな顔は 牧神パンに同情しているのではなく

ロバの耳にされた自分を 憐れんでいるところ。

 

 

↓ こちらのカードは

アポロンと牧神パンのコンテストで

 審査員の中でただ一人 ミダス王が 

牧神パンに 軍配をあげているところでしょうか。

ミダス王 すでに ロバの耳になっていますけど。

 4787

4787   Martin Johann SCHMIDT  "Kremserschmidt" (1718 - 18019)
Der Schiedsspruch des Konigs Midas zwischen Apoll und Marsyas 1768   157 x 120cm
Wien, Osterreichische Galerie Belvedere  2008・1・1入手  楽器

 

 

↑ ん? カードの記載では パンではなく マルシュアスとなっています。 

ミダス王がいるなら これは牧神パンのはずでは・・・?

それに マルシュアスとのコンテストなら 

9人のミューズが 審査しているはず・・・

楽器は マルシュアスのアウロス(二管笛)でも 

シュリンクス(パンの笛)でもなく 普通のたて笛みたいです。

 

 

 

アポロンは 竪琴

 

う〜〜ん 神話の世界って混沌としているので こんがらがってしまいます。

整理するため  あれこれ ググってみたところ 

 サテュロス(マルシュアスもサテュロス)も 牧神パンも 半人半獣で 

ギリシャ神話のサテュロスは精霊で 

しばしば ローマ神話のパンと同一視される とも。

だから ややこしいんですね。

またサテュロスは ディオニソス信仰と強く結びついていて 

ディオニソスもパンも サテュロスも みんな仲間。

サテュロスが持つ 楽器も 多彩で

アウロス シンバル カスタネット バグパイプ などなど。

牧神パンは アルカディアの神で パンの崇拝者もみな アルカディア人。

アルカディア地方は ギリシャ人の居住地だったのですが

 この地のギリシャ人は ポリスを形成せず

より古い時代の 村落共同体的牧民の生活をしていた そうです。

なので 

アポロン 対 マルシュアス は ギリシャ人 対 プリギュア人(スキタイ人)

アポロン 対 パン は ギリシャ人 対 アルカディア人

に転換して考えられる とも ありました。

なんだか ややこしすぎて よく解りませんが

ご紹介したカードのなかで 

 ↑ 4787   Martin Johann SCHMIDT のカードは

英訳では  The Judgment of King Midas bietween Apollo and Marsyas

アポロン対マルシュアス の審判を下すミダス王

ということなので 

マルシュアスと牧神パンが 同一視された例 でしょうか。

ミダス王は プリギュア地方の王だったのに

黄金の件で猛省し 王を引退して アルカディア地方に移り住んだのですよね。

プリギュア地方にある カレーネの洞窟で 生皮を剥がされたのは 

サテュロスの一人 マルシュアス。

マルシュアスは 時々 牧神パンと同一視されるとはいっても

牧神パンが生皮を剥がされる場面は 見たことも聞いたことも ないですよね。

まあ    としては 

 アポロンやマルシュアスや牧神パンの持つ楽器は 絵画によって さまざまですが 

基本として

 アポロンの楽器は 竪琴     

マルシュアスはアウロス(二管笛)

  牧神パンはシュリンクス(パンの笛) 

と抑えておけば  良しとしましょうか。

 


 

アポロンの竪琴について   参照→  元祖アポロンの竪琴 

牧神パンのシュリンクス(パンの笛)について  参照→片思い

 


/ポストカード音楽会 /インパクトある一枚   楽器ジャンル  画家索引  参考文献一覧