薫風連句  捌 窪田薫 連句集


窪田薫さんのこと


蜉蝣尻取り『去年今年』の巻 (K98-3-A)

蜉蝣尻取り『黄金』の巻 (K98-3-C)

歌仙尻取り『札幌の立春』の巻 (K98-26)  縦書きgif


半歌仙尻取り『福は内』の巻 (K98-28)


『昭和戊辰式目』








蜉蝣尻取り『去年今年』の巻 (K98-3-A)

   
   去年今年虎の尻尾を踏む如く      窪田  薫
    篤と見定む破魔矢破魔弓       笠間 文子
   湯水などたっぷり遣ふ福鍋に      鈴木  漠

    紅などつけていいのですかね?        薫
月  鐘が鳴る髪結うて待つ月おぼろ        文子
    ぼ ろ
    襤褸まとふともこころ春風          漠

   ぜんまいののの字ばかりの浄土じゃの      薫
    蛇の目傘さし靴でゆくわよ         文子
   和洋折衷冷奴にもマヨネーズ          漠
    図解明快迷ふことなし            薫

   新郎の愁眉開きし夜長にて       佛淵 健吾
    手柄顔なる猿酒の壺         椿  紀子
花  忙裏閑などと逍遙大花野           文子
    ナノもミクロも霧立ち昇る          漠

   ボルテージ上げて晩秋駆け抜ける    平野 ユミ
    塁から塁を盗むイチロー       齋藤 吾朗
   浪人の足元掬ふ道の雪         斉藤 基生
    逝き損って永劫回帰す           ユミ

   粋筋の噂に未練ありすぎて           薫
    疑点占ふ 恋の行方は?       平田 真理
花  はかなさを口には出さず櫻花      石井  檀
    菜種のフグがふっとふくるる     西王  燦

   累々と捨蚕積まれていたりけり     武下奈々子
    蹴り勝ち錦飾る故郷             薫
   砂糖黍畑を走る夏の汽車           吾朗

    車掌さんなわて本気どす       森  俊彦
月  ドスかざし月を背にして迫りたる    佐藤俊一郎
    樽で鰯のへしこ商ふ           奈々子


平成10年元旦起首 4月8日満尾
   


薫風連句の目次




蜉蝣尻取り『黄金』の巻 (K98-3-C)

   黄金の虎を浮かばす屠蘇の盃       笠間 文子
    沛然として朝の御降(おさがり)    鈴木  漠
   がり勉の學成らずして早も老い      窪田  薫
   
    追分節に負ひ目などなく           文子
  泣く子にも地頭にも照る朧月           漠
    帰雁を仰ぐ元右大臣              薫
    
   仁義立てして春の風邪貰ひたる         文子
    タルトは伊豫の銘菓なるべし          漠
   新聞社旗をなびかせ坂下り        宮下 太郎
    立候補した女優ゐる町         佛淵 健悟
    
   チマチョゴリ来てをり襞の正しさよ    椿  紀子
    小夜の中山また越えゆかむ          太郎
  簡単な恋もあるのだ花石榴        藤谷 和子
    黒髪が怺れいたいあたまぞ       杉野百蛇夫
   
   マゾヒストなどと呼ばれる覚えなし    園田夢蒼花
    しっかり還俗しておりますが         紀子
   清やかな気分で乾らぶ鵙の贄      河村まさあき
    円卓会議銀杏降りつぐ         中 まり子
    
  ぐづる子にほら三日月をとりに行こ    神田 かこ
    これは身に入む野ざらしの声      浅沼  璞
   肥馬車の静々くぐる大鳥居        小原 洋一
   いさな 
   勇魚が潮を吹くの見たよね           かこ
   
   米澤の一刀彫の土産買ふ         西王  燦
    不意に背骨に出刃を打ち込み      武下奈々子
   混み合へる時が安全サブウェイは     杉浦 清志
   
    言はずにわかる多羅尾伴内          洋一
  行き違ふアリスの花菜明かりにて       まり子
    似ても似つかぬ蝌蚪産まれたか         薫

平成10年元旦起首  5月1日満尾  捌 窪田 薫

薫風連句の目次





歌仙尻取り『札幌の立春』の巻 (K98-26)

  
   札幌の立春雪の降りやまず      窪田  薫
    ずいと手の伸び攫ふ草餅      三栗  健
   持ち帰る土産に蕗の薹を摘み     芝崎正寿郎
   罪ほろぼしと月に言ふだけ     村田 治男
   煙ある所必ず火がありて       稲用 飛燕
    亭主の好きな鰻蒲焼            薫
    
   着古せる浴衣姿も板につき      永田 圭介
    突きかへされし文の口惜しさ    高橋昭八郎
   さめざめと泣き濡れてゐるパソコンも 西王  燦
    戻り橋にて待つと伝へて      武下奈々子
   てにてかんもなしと鳥の渡るなり      治男
    なりなりて夜は菊の酢の物     長手 漠子
  ものがたり姫はかくやと望の月        健
    つきず次々涌くが如くに        正寿郎
   二三四五 六七八と数へてた       昭八郎
    建具鳴らして隙間風吹く          燦
  苦も楽もこきまぜ花の嫁と婿       奈々子
    仔馬めんこいお前めんこい     平田 真理
    
   来い来いと呼ばれし遠い地日の永き  菊田 琴秋
    きれいな空の底をステップ        飛燕
   プリンスはプリン飽きたともう食べず    真理
    ずっとずぅっと狙っていたのさ   平野 ユミ
   颯爽と戯れてをり夏の蝶       新保 昭市
    朝刊報ずクロサワの死去      西脇 智子
   競争をする如蓮の実飛んでをり       飛燕
    流星網で掬ひ上げたる       齋藤 吾朗
  たるむ眼で大物を期す月の海        圭介
    味噌汁の味思ひ浮かべて         昭市
   転勤のしがらみ捨てる心良さ        智子
    よさこい節を唄ひ老いける     笠間 文子
   
   るるるるる唇すぼめ尖る耳      原 九糸郎
    ミシンあるのでフリルさしかへ   四方 章夫
   飼へますかゴジラ熱燗好きですか   中村 あや
    スカンクならば嫌だ勿論      平野 ユミ
  ロンドンの塔からお洒落なる花見       燦
    見境ひもなく石鹸玉吹く        奈々子

平成10年2月4日起首 12月30日満尾 捌・窪田薫

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歌仙尻取り『したたかな』の巻 (K98−27)

  したたかなブーツ来向かふ春の雪    三栗  健
   行き交ふ中に受験する子等      柴崎正寿郎
 コラムからおぼろおぼろの月が出た   村田 治男
   ただ大きくて丸いお守り       稲用 飛燕
  森しじま遠郭公の木魂して       窪田  薫
   手紙にもふと夏の句を添へ      永田 圭介

  炎昼の地べたと見つめ合へる吾     高橋昭八郎
   連絡船を化粧して待つ        西王  燦
  つばくらめ帰るを約し翻り       武下奈々子
   理念とはほら爽やかなもの         治男
  物々し琥珀に潜む月の影         長手 漠子
   げのまたげんとふ墨あったげな        健
  下男また枯山水を掃き清め         正寿郎
   余命は知らずめぐるオリオン       昭八郎
  オンドルのかたはら猫が座を占めて       燦
   点点点と草が角ぐみ           奈々子
 緑なす柳に補色の花紅(くれない)    平田 真理
  いつも笑顔の石鹸玉追ふ         菊田 琴秋

  宇宙には漂ふやうに霞こめ          飛燕
   めでた発生したか泡粒           真理
  仏滅にぱあぁっぱあぁっとやっちゃって  平野 ユミ
   天窓に見る星の涼しき         新保 昭市
  利かん気の教師出て来いGTO      西脇 智子
   亭主kinki・kids唄ふよ       飛燕
  芙蓉咲く小路で事業占へる        齋藤 吾朗
   得るも選ぶもとりいれの果          圭介
 照る月を肴に地酒一人者            昭市
   ノーかイエスかクリントン揺れ       智子
  練炭の穴に青い火赤い火が        笠間 文子
   がぎぐげごとは奥歯ひずみて     一原 九糸郎

  てれ臭い変なリズムでやってくる     四方 章夫
   くるす隠して遊女絵を踏む       中林 あや
  ふむふむと信じてみれば万愚節        ユミ
   土筆摘みつつ迷ふともなし          燦
 梨の花散るも散らずも辻ごとに       奈々子
   鰊の焼けるいい匂ひする            薫

  平成十年二月二十四日首 十二月三十日尾

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半歌仙尻取り「福は内」の巻(k98-28)

    福は内・・・・・口へ投げ込む甘納豆     窪田薫
     当分糖分補給耐寒           椎木英輔
    閑寂と冴えたる月は中天に         多田零
     逃げた大魚を小魚追っかけ      武下奈々子
    掛替へのない息子だがベンツとは      西王燦
     永久に幸あれ常春にして           薫
 花  手鏡を眺める花の長閑さよ        佛淵健悟
     さよりを焼いて君を待つ午後        英輔
    極楽とうららかにただ抱かれつつ        零
     つらい辛いと鳴いて帰るか          燦
    ルカ伝を読めと牧師の電話来る        英輔
     くるり回れば夜叉の顔なり        奈々子
    緑蔭に金利の払ひたたぬ目処          零
     どっこいおいら生きてゐる蝦蟇        薫
    股下は短かけれども力あり           燦
     離郷三年風が身に沁む           英輔
 月  虫の音のさざなみ集め池の月        奈々子
     茸ごはんの匂ひ立つ宿            零

    平成10年2月4日起首 5月12日満尾 (文音)

    



薫風連句目次


半歌仙尻取り「紅梅や」の巻(K98-10-C) 捌 窪田薫
    紅梅やシリアスといふ未来がある        武下奈々子
    留守を守るは一対の雛              西王燦
 月 鄙びたる湯に酔ふ月の朧にて            窪田薫
    手のかかる子に飴をねぶらせ           奈々子
   螺旋とはねぢねぢと巻く辛螺(にし)の貝        燦
    海岸に沿ひ続く松原                 薫
   辣腕ともう誰からも言はれずに           多田零
    忍耐を知り恋を知り初む            椎木英輔
   ソムリエが前戯の前に蘭の酒              燦
    ケーナの音色部屋に露けく              零
 月 鯨尺あててみやうか月高し             奈々子
    四十振袖死語の現代                英輔
   大根の葉の流れゆく芥川                薫
    忘れ物ふと思ひ出したり               燦
   龍を駆る夢より覚めてデパートへ          奈々子
    遍路のための数珠を選る姉              零
 花 根尾谷が埋もれそうな花吹雪             英輔
    不器用生まれ付きぢゃ麗らか             薫

    平成10年元日起首 4月20日満尾 
薫風連句の目次



『春寒し』の巻 (K98-47)

  春寒し七十四の誕生日           窪田 薫
   びくともせずにのどか壮健       平田 真理
  喧嘩にも素手で呼び出す若草野      白石 悌三
   飲む打つ買ふで貯金などなし      杉浦 清志
月 滴れるビールのジョッキ月涼し      大須田一彦
   ずしりと重いメダル確かめ          悌三

 
  瓶に入れ何を埋める庭の隅           清志
   見られちや困るマル秘恋文           薫
  踏み外す鎧露けし道行に         原崎 恵三
   二枚挿したる櫛も冷えつつ        多田 零
月 月白の鏡の部屋に迷ふとは         西王 燦
   怒髪逆立てたくも秋風         小出きよみ
  課税する税務署々員が押し寄せて         薫
   テレビアニメの義士はジャンプし       恵三
  霜柱ふみ砕かれてばらばらに       武下奈々子
   丹塗りの鳥居遠景の杜             燦
花 もりあがり唄へ狂への花の宴           薫
   えんやあどつと陽炎も揺れ        椿 紀子

 
  連絡船通ふ海峡朧にて          清水 利章
   煮てたべようか今朝のトンカツ     小原 洋一
  つつましき暮らしもすでに付焼刃         燦
   木場の兄貴は粋でいなせで         奈々子
  溺愛の猫の葬儀に蝦蟇も居て          紀子
   天瓜紛いまベビイパウダア          一彦
  藍よりの青きリフォーム多事多難     西脇 智子
   なんじやもんじやは笑ふゲラゲラ       利章
  げら刷りの活字踊つて虹矧鳴く      宮本 修伍
   胡桃割らむと捜す金槌             燦
月 地価下落月の栖家となり果てて        奈々子
   転戦関取 五つ星あげ            智子

 
  厳重な緘口令が生きてをり         佛淵健悟
   折りとりて嗅ぐ冬の薔薇を          修伍
  ビオラ弾くプリンス讃へ雅子姫      中野 嘉弘
   非命の碑銘きざみたる塔        村岸 明子
花 遠縁の旅籠で花の湯浴して           恵三
   私邸ひそかに珍蝶を飼ふ           健悟


平成10年3月7日起首、10月25日満尾 文音。


  

     

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蜉蝣尻取り『めでたさよ』の巻(K98-10-B)

  めでたさよ来世紀まで後二年        村岸 明子
   ねんこロリコンさあ姫始め        家柳 速雄
  自鳴琴のどかな曲を鳴らしゐて       窪田  薫

   ゐても立つても蛙をられず           明子
 ずっしりと月の朧を受ける肩           速雄
   固き約束むすぶ盃                薫

  勤務先倒産かーさんどーしよう       矢崎  藍
   陽気に歌はう跿足で踊らう        野間 幸恵
  老人も子供もみんな輪になって       白石 悌三
   鉄路の旅に粧へる山               藍
  やまないよ遊びの好きなきりぎりす         薫
   栗鼠の団栗蟻に盗まれ             速雄
 レッテルと花嫁大量生産す            幸恵
   サンスクリットの御経もてもて      森  俊彦
  持成にあらずしゃぶしゃぶ撮み食ひ     安部みち子
   区費を全納して日記買ふ         林 とく子
  ふつうよりすこしいいこと脚注に      西王  燦
   似たる二人がこぼし合ふ愚痴       武下奈々子

  蝶々がはるばる来たぜ函館へ            薫
   手偏の漢字浮かべ田を打つ        斎藤 吾郎
  つれだつて妻いとけなし花疲れ          俊彦
   可憐なカレンに惚れなほしたる      佐藤俊一郎

  ルビ無しで読めと言はれし面河渓        奈々子
   計算途中湧いた発想               燦
  ソーダ水青酸カリをちと入れて       山元志津香
   てんやわんやでやつさもつさと      横山いさを
 遠ざかる宇宙船あり月の基地          俊一郎
   きちんと観測済ませ爽やか            薫

平成元年元日起首 5月8日満尾
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蜉蝣尻取り『前門の虎』の巻 (K 98-10-C) 

  前門の虎去年今年禅問答          家柳 速雄
   どうです松竹立てた校門         窪田  薫
  文なしのあっけらかんの大笑い       村岸 明子

   らひらひらひひ流氷が鳴き           速雄
 君知るや南の國の花ざかり             薫
   リボンの解けた春カウボーイ       矢崎  藍

  今はただ囀りの中たゆたへる        野間 幸恵
   減るものでなし愛惜しみなく       白石 悌三
  頸すぢの青い血管唇づけて             藍
   化天の下に修羅の信長              薫
 
  凱旋の行列乱す夏嵐               速雄
   茂る鳥なり飛ぶ魚なり             幸恵
 なり余る身をもてあます良夜に       森  俊彦
   二転三転しょせん団栗          阿部みち子

  グリードは高脂肪なりき黄落す       林 とく子
   薬玉割れず何度引いても         小出きみよ
            ゆ
  手盛山殿のお好きな温泉がありて      中野 嘉弘
   典雅な調べ雪を降らせり         大橋 忠雄

  淋巴腺の熱高くなりうつとりと       八木 荘一
   刺ある言葉子供恐れず          海野 金魚
 寿命経いづことしなく花の寺        西王  燦
   螺鈿細工の重に草餅           武下奈々子
 
  稚鮎採り放つを省きテンプラに         みち子
   逃げるが勝と神に背を向け        椿  紀子
  芥子ひらく骨肉の縁免れず            明子

   ずんぼろ坊の布を脱ぐ蛇           とく子
 ヘビメタの少女と仰ぐ後の月          奈々子
   金の芒(すすき)もきらりきらりと        燦

   平成10年元日起首 4月20日満尾