『昭和戊辰式目』 連歌ゲームの規則17条 窪田薫
1 連歌(俳諧=連句)とは、数人の作者(連衆)により、五七五の長句と、
七七の短句とを、一定の規則に従って、交互に連ねてゆく、一種の定型詩
である。中世では百行連ねる「百韻」が、芭蕉以後では三十六行連ねる
「歌仙」が、スタンダードの形式とされている。
2 「歌仙は三十六歩なり。一歩も後に帰る心なし。」
これが連歌一巻を巻く基本精神。この基本精神に基づき、重複、反覆、停
滞、同趣、同種、同景などは許されない。常に前進し新趣向を求めること
が好ましく、繰返し、停滞、後へ戻ることを嫌ふ。
3 一つ置いて隣る句(打越)と、同類、同趣(素材・文字・文体などに於い
て)になることは、観音開きといって特に忌避される。繰返し、後戻りに
なるからである。
4 同類・同趣の句が隣るのは(流派によっては、「付き過ぎ」といって嫌ふ
ところもあるが)「すりづけ」といって一応は許容される。
5 初折の表には、神祇、釈教、恋、無情、病体、闘争、追憶、地名や人名な
どの固有名詞は避ける。但し発句だけは別で、この制限を受けず、何を詠
んでもいい。
6 発句には必らず当季の季語を入れる。また「や」「かな」などの切字は発
句に専属で他の句に使ってはいけない。
7 脇には発句と同じ季の季語を入れる。留字は体言漢字留とするのが建前。
8 第三の留字は「て」「にて」「に」「らむ」「もなし」や用言連用形にす
るのが古来の例。発句が「かな」留のとき「にて」は観音開きと見なし避
けること。
9 春・秋の句はそれぞれ三乃至五句、新年・冬・夏の句はそれぞれー句乃至
三句続けること。但し巻尾ではこれより句数が少くても構わない。秋の句
の続くところでは必ず月の句を入れること。月のないのは素秋といって嫌
われる。
10 異った季の句の間には無季(雑)の句を挟むのが普通。雑の句を挟まないこ
とを季移りといひ、避けることが望ましい。但し冬から新年、新年から春
への移りは雑の句を挟まなくてよい。
11 月、花の句は連歌の種類により句数が定まっている。歌仙では二花三月。
12 月、花の句は、それぞれ同一面ではー句のみ。どこに出しても構わないが、
折立・追立・綴目・折端はなるべく避けること。
13 花の座の語として認められる語を「正花」という。連歌では「花」は桜と
限定せず、賞美に値する花やかさの抽象概念を指す語。
▼正花として扱う語。
春----花車、花衣、花筏、心の花など。
夏----余花、若葉の花、花茣蓙、残る花など。
秋----花火、花踊、花もみぢ、花相撲、花燈篭など。
冬----帰り花、餅花など。
雑----花婿、花嫁、花鰹、花莚、作り花、花塗、花かいらぎ、花形、燈火
の花など。
▼花の字があるが非正花(似せものの花)とされ、正花として扱われない語。
花野、湯の花、火花、浪の花、雪の花など。
(花野については後年、窪田氏は「正花」にしたい、と主張)
▼「虚の花」として正花に扱われる語。
花の波、花の瀧、花の雪など。
▼花の字のない単なる「桜」は正花としない。
14 月の字があっても「月次(つきなみ)の月」(マンス)は月の座の句とし
て扱わない。星月夜も月の座にしない。
15 月の字を使わないが月として扱う語。
有明・玉兎・桂影・常娥・既望・桂男・盃の光・ささらへ男・弓張など。
宵闇も使い方により月の句として扱う。
16 恋の句は初折表を除き、どこで詠んでも構わない。各面に一ヶ所程度。
五句まで続けてよいが、普通は二句続け、一句で捨てない。恋の座どうしは
最低五句の間隔を置くこと。恋句のない連歌は端物(はしたもの)といい、
一巻とみなさない。
17 恋の句として、古典では次のような語がある。参考までに。
恋・思ひ・涙・情(なさけ)・傾城・野郎・娘・嫁入・婿入・妾・女・衣々
・むつ言・かねごと・ささめ言・別れ・枕ならぶる・思ひ寝・独り寝・夢・
文・玉章(たまずさ)・契り・伊達・人目・人目の関・人目しのぶ・神を祈
る・物憂き・色好み・かこつ・はづかし・名の立つ・乱れ心・妻・侍宵・姿
見の鏡・占(うら)・かたみ・出家落ち・夫婦・ささやく・化粧・柳腰・丸
ひたひ・のろふ・えにし・よすが・乱れ髪・すくせ・悋気・恨・妬・嬲・口
説・忍・俤・指切・手枕・流し目・ゑくぼ・添寝・爪紅・白粉・垣間見・袖
の涙・逢瀬・匂袋・待侘・妹背・心中・孕・出逢宿・比翼の仲・連理の仲・
寝物語など。