平成30年6月12日から厚生労働省労働基準局長の下で「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が始まりました。解雇の金銭解決制度についての法技術上の問題点を検討する会です。実は2015年10月から2017年5月まで、同じく労働基準局長の下で「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」が開かれており、この中でも解雇の金銭解決制度が取り上げられました。この検討会は2017年5月に報告書を出していますが、ほとんどが金銭解決制度の法理論上の議論に終始していて、ざっと目を通しただけで気にもしていませんでした。しかし今回この報告書を受けて検討会が始まったことをきっかけに改めてじっくり読んでみると、どうも解雇の金銭解決制度の創設に向けて流れができてしまっているように思います。
国家戦略特区法に従って平成26年4月に決定された「雇用指針」(「解雇特区構想は消えたのか」参照)とこの流れを重ねてみると、経営者に都合の良い労働環境への転換という安倍政権の労働政策(「安倍政権における労働政策の経緯」参照)とは別のもう一つの目的が見えてくるように思えます。
目次
わが国では解雇は強く制限されており、労働契約法16条で、
解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。
と定められています。不当な解雇は無効となるのです。
不当な解雇を受けた場合は、裁判で解雇無効(地位確認)を訴えることになります。解雇無効が認められると解雇が無かったことになり、雇用契約が継続していることになりますから、職場に戻る権利を得ることになります。
しかしながら、会社と争った後に会社に戻っても、居づらいという場合が多いでしょう。このため実際には裁判の途中で和解し、会社が労働者に解決金を払うことで労働者が退職に合意する場合が多いのです。また裁判に至る前に、都道府県労働局によるあっせんや、労働審判による調停が行われ、解決金の支払いで合意し退職というケースも非常に多いです(詳細なデータは「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」に厚労省が提示している資料「労働紛争解決システムの概要と現状」参照)。解雇を金銭により解決するわけです。
解雇の金銭解決制度とは、和解や調停で金銭を払うことで解決するのではなく、金銭支払いで解雇を認めることを制度として設けようということです。例えば、労働者が解雇無効を主張するのではなく、不当解雇だから解決金を払えという請求をすることができたり、解雇できる正当な理由はないが解雇したい労働者を金を払うことで解雇できるようにするということです。
先に書いたように、金銭の支払いによる解決は現在でもあっせんや労働審判、裁判における和解の中ですでに行われていることです。改めて制度を設けなければならない理由が良くわかりません。一方、制度を作るとするとよっぽど注意深くルールを定めなければ、不当な解雇でも金銭を支払えばできるという、使用者側の都合による安易な解雇に利用されかねません。労働者にとっては制度を作るメリットが不明で、悪用される危険のみ存在するように見えます。
解雇の金銭解決制度については、労働契約法の制定に向けて、「今後の労働契約法制の在り方に関する研究会」、またその後の労働政策審議会労働条件分科会でも議論されました。平成18年12月17日の労政審の答申「今後の労働契約法制及び労働時間法制の在り方について」では、平成18年4月に労働審判制度が始まったこともあり「労働審判制度の調停、個別労働関係紛争制度のあっせん等の紛争解決手段の動向も踏まえつつ、引き続き検討することが適当である」と実質上棚上げになっています。この結果労働契約法(平成19年12月5日公布)には含まれていません。
第2次安倍政権になってから、この金銭解決制度について、急ににぎやかになります。まず平成25年3月15日の産業競争力会議で武田薬品工業の会長である長谷川 閑史議員(当時代表取締役社長)が「再就職支援金、最終的な金銭解決を含め、解雇の手続きを労働契約法で明確に規定する」(「人材力強化・雇用制度改革について」)を重点政策の一つとして主張します。これをうけて、平成25年3月28日の規制改革会議・雇用ワーキンググループの鶴座長が「産業競争力会議等で雇用ルールの議論が行われている」としつつ、「解雇補償金制度」の創設を掲げます( 「雇用改革の「3本の矢」〜人が動くために〜」)。
このような動きがマスコミで取り上げられます。これに対し、規制改革会議雇用ワーキンググループの会合と同時に行われていた3月28日衆議院予算委員会で野党の質問に対し安倍総理は解雇の金銭解決制度は導入しないと答弁します。ところがその後平成25年4月2日の衆議院予算委員会で、否定したのは事前型の金銭解決であると答弁を修正します。事前型、事後型については後程説明しますが、この時の答弁が現在にも尾を引くことになります。
日本再興戦略は第2次安倍内閣が発足した翌年平成25年6月14日に閣議決定された成長戦略です。その後平成28年まで毎年改定されています。平成25年版では、上記のように各方面から批判が殺到したためか金銭解決制度には触れられていません。
しかし平成26年版ではほとぼりが冷めたということなのか、「雇用制度改革・人材力の強化」の節に次のような項目が入りました。
予見可能性の高い紛争解決システムの構築
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A透明で客観的な労働紛争解決システムの構築 主要先進国において判決による金銭救済ができる仕組みが各国の雇用システムの実態に応じて整備されていることを踏まえ、今年度中に「あっせん」等事例の分析とともに諸外国の関係制度・運用に関する調査研究を行い、その結果を踏まえ、透明かつ公正・客観的でグローバルにも通用する紛争解決システム等の在り方について、具体化に向けた議論の場を速やかに立ち上げ、2015年中に幅広く検討を進める。
平成27年版ではさらに露骨に次のようになっています。
予見可能性の高い紛争解決システムの構築等
労働紛争の終局的解決手段である訴訟が他の紛争解決手続と比較 して時間的・金銭的負担が大 きいこと等から訴訟以外の解決手続を 選択する者もあり、その場合には、訴訟と比較して低廉な額で紛争が 解決されていることや、労使双方の事情から解雇無効判決後の職場 復帰比率が低いこと等の実態があることから、「あっせん」「労働審 判」「和解」事例の分析・整理の結果や諸外国の関係制度・運用に関 する調査研究結果も踏まえつつ、透明かつ公正・客観的でグローバル にも通用する紛争解決システムを構築する必要がある。このため、解 雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の 性質・水準等)とその必要性を含め、予見可能性の 高い紛争解決シス テム等の在り方についての具体化に向けた議論の場を直ちに立ち上 げ、検討を進め、結論を得た上で、労働政策審議会の審議を経て、所 要の制度的措置を講ずる。
平成29年からは未来投資戦略という名称になりますが、平成30年版ではもうすっかり遠慮していません。
解雇無効時の金銭救済制度の検討
・解雇無効時の金銭救済制度について、可能な限り速やかに、法技術的な論点についての専門的な検討を行い、その結果も踏まえて、労働政策審議会の最終的な結論を得て、所要の制度的措置を講ずる。
規制改革会議は平成27年3月25日に 「労使双方が納得する雇用終了の在り方」に関する意見」を発表します。以前マスコミにたたかれた経験からか「復帰が困難な場合に、不当解雇に対する権利行使方法として労働者側に金銭解決の選択肢を付与することで、ニーズに沿った早期解決が期待できる。」といかにも労働者のためであるかのように装い。また、
訴訟の長期化や有利な和解金の取得を目的とする紛争を回避し、当事者の予測可能 性を高め、紛争の早期解決を図ることが必要である。このため、解雇無効時におい て、現在の雇用関係継続以外の権利行使方法として、金銭解決の選択肢を労働者に 明示的に付与し(解決金制度の導入)、選択肢の多様化を図ることを検討すべきであ る。またこの制度は、労働者側からの申し立てのみを認めることを前提とすべきで ある。
と、「労働者からの申し立てのみを認めることを前提とする」としています。この事情については、規制改革会議委員の鶴慶大大学院教授(元官僚)が「労使双方が納得して議論を前に進めるためには、これが非常に必要である。」「その判断をするときに、実は清水の舞台から飛びおりるような状況でして」と、話を進めるためには已むを得ないという判断であったことを後の「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」第12回の会議で述べています。
しかし、一方で、「雇用開始時に終了事由を含めた就業規則や労働条件が明示され、労使双方が納得した上で労働契約が締結されることが何より重要である」などと、とんでもないことが書いてあり、衣の下の鎧が透けて見えます。契約締結時に解雇の要件・手続きを明確化し、契約条項に基づく解雇を有効とするというのは、国家戦略特区で導入されそうになり、「解雇特区」と各方面から猛反発をくらった主張です。
この規制改革会議の意見書を受けて、平成27年版日本再興戦略と同日の平成27年6月30日に閣議決定された規制改革実施計画では、次のような「規制改革の内容」が含まれました。
労働紛争解決システムの在り方について、紛争解決の早期化と選択肢の多様化等の観点に立って、労使の代表者や法曹関係者、学識経験者等を幅広く参集した議論の場を速やかに立ち上げ、「『労使双方が納得する雇用終了の在り方』に関する意見」(平成27年3月25日規制改革会議)に掲げられた課題等について、論点を整理した上で検討を進める。
平成27年中、可能な限り速やかに検討開始
「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」は前節の平成27年版日本再興戦略と、規制改革実施計画に基づき、厚生労働省労働基準局長の下に設けられた会議です。平成27年10月29日から平成29年5月29日まで2年間にわたり20回開催されました。
平成29年5月31日に報告書を提出しています。
この報告書の基幹部分は、「現行の個別労働関係紛争解決システムの改善について」「解雇無効時における金銭救済制度について」「その他個別労働関係紛争の予防や解決を促進するための方策について」の3つの部分からなります。
「解雇無効時における金銭救済制度について」については、ほとんどが法理論上の問題点の議論に終始しており、多くは各論併記で結論が出ていません。しかしよく読むと、次のように、結論めいた記載がされている所があります。
事後型とは裁判等において「解雇無効」とされた場合に限り金銭解決を認めるというものです。これに対し、解雇無効について争う前に金銭支払いと引き換えに解雇するものを事前型と言います。事前型は平成25年の衆議院予算委員会の首相答弁で明確に否定していますので(前出)、そうせざるを得ないということなのだと思います。
これに対しては、解消金が支払われた場合、解雇された時点にさかのぼり労働契約が終了するという考え方がありえます。もしさかのぼるとすると、事前型で解決金を払うから解雇とされて、労働者が不当である(解決金を払うことによって解雇できる要件が成立していない)と争って敗訴した場合と効果は同じです。そうすると予め排除されている「事前型」というのは解雇できる要件が違う、すなわち金銭を払うことで解雇権濫用法理を無効にするものに限られるということになってしまう気がします。そんな限定はどこにもされていないわけですから妥当と考えます。
金銭解決は労働者側から申し立てる制度のみを対象とするということです。
(1)(2)については首相答弁に合わせるということでしょう。(4)については委員からの反対もありましたが、意見の大勢はこの通りであるように見えます。受け入れやすい制度という点から考えてもこうならざるを得ないのではないでしょうか。
問題は(3)でしょう。委員の意見は賛否両論ですが、どちらかと言えば上限、下限を設けるべきではないという方が強い気がします。少なくとも設けるべきということに結論付けるのは強引に思えます。これはこの検討会の開催が日本再興戦略に基づくものであり、その日本再興戦略に、前出の通り「解 雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の性質・水準等)とその必要性を含め、予見可能性の 高い紛争解決システム等の在り方についての具体化に向けた」と「補償金の性質・水準」「予見可能性の高い」と謳われていることによるものでしょう。つまり、結論ありきであった感が否めません。
さらに問題なのは、金銭解決制度がそもそも必要なのかという点です。この検討会の開催要領には検討事項として「解雇無効時における金銭救済制度の在り方(雇用終了の原因、補償金の性質・水準等)とその必要性」とあります。事後型の金銭解決は、既に和解や労働審判として行われており、それで十分である。改めて制度を作る必要はないという考えもあります。
しかし、報告書では必要性について両論併記の上委員のコンセンサスが必ずしも得られていないと認めたうえで、次のように強引に必要という方向の結論にし、問題を法理論、金銭の水準、現行のシステムに関する影響等に対する検討の必要性にすり替えています。
しかし、解雇紛争についての労働者の多様な救済の選択肢の確保等の観点からは一定程度認められ得ると考えられ、この金銭救済制度については、法技術的な論点や金銭の水準、金銭的・時間的予見可能性、現行の労働紛争解決システムに対する影響等も含め、労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当と考える。
報告書の「必要性」についての記述については報告書案についての第19回の会議(平成29年5月22日)で議論になり、その結果、
なお、これについては、現行の労働審判制度が有効に機能しており、こうした現 行の労働紛争解決システムに悪影響を及ぼす可能性がある等の理由から、金銭救済 制度を創設する必要はないとの意見があった。
のところが
これについては、現行の労働審判制度が有効に機能しており、こうした現行の労 働紛争解決システムに悪影響を及ぼす可能性があることのほか、労使の合意による 解決でなければ納得感を得られないので、合意による解決を大事にすべきというこ とや、企業のリストラの手段として使われる可能性があること等の理由から、金銭 救済制度を創設する必要はないとの意見があったことを、今後の議論において、十 分に考慮することが適当である。
となり、”反対意見はあるが必要である”、というニュアンスが、”反対意見があるので今後の議論において考慮することが適当である”に変えられる等の多少の変更はみられます。しかし「必要」という方向にリードしている書き方である所は基本的には変わらないように思います。つまり、ある種の官僚作文であり、必要かどうかの議論が必要ということではなく。「金銭解決制度は必要である。ただし今後の検討に当たっては必要でないという意見にも配慮する」ということにしかなっていないのです。
つまるところ、「金銭解決制度は必要であり」「金銭水準を設定することが適当」という日本再興戦略に合わせた結論ありきの会議であったと思われても仕方ありません。政策のアリバイ作りに検討会を利用するという安倍政治のいつものやり方です。
そして、平成29年12月8日に閣議決定された「新しい経済政策パッケージ」では
解雇無効時の金銭救済制度の検討
- 解雇無効時の金銭救済制度について、「透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会」の検討結果を踏まえ、可能な限り速やかに、労働政策審議会において法技術的な論点についての専門的な検討に着手し、同審議会の最終的な結論を得て、所要の制度的措置を講じる。
とやはり、金銭解決制度の設定が既定路線であるかのように書かれています
前節の検討会の報告書で「労働政策審議会において、有識者による法技術的な論点についての専門的な検討を加え、更に検討を深めていくことが適当と考える。」とされたことを受けて、平成29年12月27日の労働政策審議会労働条件分科会でこの報告書が取り上げられます。
しかし、結論は「法技術的な論点についての専門的な検討について、さらに有識者による議論を行うべき」ということでした。この結果「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」が立ち上がります。
しかしここで注意しなければならないのは「さらに有識者による議論を行う」趣旨について、委員によりずれがあるということです。
労働者側委員(村上連合総合労働局長)
私どもとして、ここに割くエネルギーはもう必要ないのではないかという考え方は変わるものではありませんけれども、仮に検討するのであれば、法技術的な論点の整理ということになろうかと思いますが、それはあくまで議論の整理ということであって、結論を縛るとか、そういったものではないということをぜひ要望しておきたいと思います。
使用者側委員(輪島経団連労働法制本部長)
私どもとしては、先ほど余り紹介されませんでしたけれども、使用者申立てについても、私どもとしては何度か注文といいますか、意見を述べたのですけれども、検討会では、使用者申立てについては諦めてねという発言もあって、そういう意味ではニュートラルな法技術的な論点を今後期待したいと思っているところでございます。
つまり、結論を出すのではなく単に議論の整理だけのためという意見の一方で、検討会の結果をひっくり返すようなことも期待するという意見もあるという状態です。
「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的論点に関する検討会」は平成30年6月12日に第1回が開催されました。一応開催要項の検討事項では「解雇無効時の金銭救済制度に係る法技術的な論点についての整理」とされています。
ところが、当日厚労省が用意した資料「解雇無効時の金銭救済制度に係る主な法技術的論点について」の説明において厚労省労働関係法課の猪俣課長補佐が次の様に発言しています。
「2.解雇無効時における金銭救済制度について」というところの「(3)解雇無効時における金銭救済制度の必要性」の「コ」というところで、「解雇無効時の金銭救済制度の必要性については」と冒頭にありまして、中盤の下線部のところに行きまして、「解雇紛争についての労働者の多様な救済の選択肢の確保等の観点からは一定程度必要性が認められ得ると考えられ」るということで結論付けております。
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これを受けて昨年の12月8日に閣議決定された「新しい経済施策パッケージ」においても、「3 解雇無効時の金銭救済制度の検討」ということで、「解雇無効時の金銭救済制度について、『透明かつ公正な労働紛争解決システム等の在り方に関する検討会』の検討結果を踏まえ、可能な限り速やかに、労働政策審議会において法技術的な論点についての専門的な検討に着手し、同審議会の最終的な結論を得て、所要の制度的措置を講じる」ということで、政府として閣議決定しているという状況でございます。
と「金銭解決制度は必要である」という結論が出ているということになっています。以降、資料にも、説明にも「必要性」についての話は出てきません。資料や説明からは、本会議は「論点の整理」ではなく必要という前提に立って「どういう制度構築が可能か」を議論する会議であることが伺われます。
この段階では、本会議は必要性を議論する会議ではなく、必要性については労働政策審議会で議論するという言い訳が成り立つかもわかりません。しかし、多分、いつの間にか必要性についての議論は霧散してしまうのでしょう。金銭解決制度構築に向かって流れができてしまった感が強いです。
平成27年の日本再興戦略に沿って、ごまかし的なアリバイ形成が着々と進行していると思われ、なし崩し的に金銭解決制度構築に向かって流れができてしまっているのではないか、ということを前節までで説明しました。今後は、現在開催されている検討会で制度構築は困難という結論に至るとか、世論の猛反対が起きるとかのことが無ければ、制定されてしまうのではないでしょうか。
それにしても、事後型に限るとか使用者指定制は認めないとか、大きな反発が予想され成立の障害になりそうな論点は予め除いてまで、なんで金銭解決制度を設けたいのでしょうか。事後型金銭解決は実際上は和解の結果として行われていることであり、もしあっせんにおける解決金と裁判における和解の解決金が差があることが問題というなら、何らかの形で相場を明らかにすればよいことです。
目につくのは「予見可能性」というキーワードです。ここで、思いが至るのは、国家戦略特区法(「解雇特区構想は消えたのか」参照)に基づいて平成26年4月2日に定められた「雇用指針」です。この雇用指針は厚労省のホームページでは
国家戦略特別区域法(平成25年12月13日法律第107号)第37条第2項に基づき、新規開業直後の企業及びグローバル企業等が、我が国の雇用ルールを的確に理解し、予見可能性を高めるとともに、労働関係の紛争を生じることなく事業展開することが容易となるよう、「雇用指針」が別添のとおり定められました。
とされています。
この雇用指針は本当に厚労省が作成したものなのかと思われるほど奇妙な内容です。労働関係法の素人が作成したか、または労働関係法に詳しいものが、素人をごまかすために作成したか、どちらかではないかと思われるほどです。
また日本では金銭解決が可能であるかのように強調している記述も見られます。
どうもこの文書は、外資系企業が日本に法人を作った場合、解雇に困ることはないとアピールするためのものに見えます。目的は外資の投資を促すか、あるいは、解雇を簡単にせよあるいは予見可能性を高めよという実際の圧力を受けていてそれに対する言い訳ではないでしょうか。そうだとすれば、相手先は解雇大国アメリカでしょう。
金銭解決制度を、どんな形でも良いから制定しようというのは、同じ目的ではないかという気がします。予見可能性を重要視し、解決金の上限・下限の設定に拘るのもそう思わせます。
個人的には結局は公益委員の意見で決まり、それが厚労省にリードされやすく見える労働政策審議会はあまり頼りにならない気がしています。変な制度が制定されないためにはマスコミによる正しい報道と世論の形成が必須と思っています。いまのところマスコミがあまり取り上げていないのは困ったことだと思います。
初稿 | 2018/9/17 |