オフォト鉄道監禁事件
(A Case of Confinement on Ofoten Line)



吹雪が俺を呼んでるぜ!



最後のバスを見送ってから、吹雪はますます強くなってきたみたいだ。

妙ちゃん:ところで、この列車何時に発車するか、車掌さん言ってました?
Pi-子:あっ、聞いておかなかった。バスが行ってしまったらすぐに発車するんだろうな〜って思ってたんだけど、 出発しそうにないからねぇ。車掌さん探して聞いてみよう。
ピッキー:それから、腹減ったから食堂車に何か食べに行こう。

昼時も過ぎていたし、その意見には全員賛成だった。

車掌さんは食堂車にいて食事をしていた。
この様子じゃ出発はまだだな。
Pi-子:あっ、あの、すみません。この列車は何時に出るんですか?
車掌さん:えっ?え〜と
(時計を見ながら)16:30頃かな。あと4時間後だね。

Pi-子&一同:え〜〜〜〜〜〜っ、4時間後ぉ〜!

車掌さん:そうだよ。さっきナルヴィクへ行ったバスがまた戻ってきて、乗客を乗せたら戻るんだ。

そ・・・そうなんだ。そうと知ってればナルヴィクへ行ったのに!!

貴ちゃん:・・・なんか、いっきにお腹が減ってきた。何か買ってこよう。
妙ちゃん:私も・・・
ピッキー:俺も・・・俺はさっきから腹減ってるけど。

もちろんPi-子もお腹が減ってきたので、何でもいいからオーダーしようとするが・・・


ウェイトレス:列車が動いていない時間は閉店だからダメ。
ピッキー:飲み物は?
ウェイトレス:飲み物もダメ。さ、食堂車から出て。

このウェイトレス「にこり」ともしないで言い放つ

車掌さん:食堂車と1等客席以外はどこへいてもいいよ。昼寝でもすればあっという間だ。
Pi-子:この辺に食事ができる所とか、ヒマつぶしができるお土産屋さんなんかはありますか?
車掌さん:はっはっはっ、見ての通りこの辺には何もないよ。

そうなんです。見たからに倉庫みたいなのとか、民家とかしか見当たらないんですよ、この辺は。

どんなに言っても無愛想なウェイトレスのお姉ちゃんは食べ物はおろか、飲み物も売ってはくれないのであきらめてもといた席に戻る。

ピッキー:飲み物ぐらいいいじゃんか・・・
Pi-子:紅茶とポテチがあったじゃん!遭難対策バッチリだね!
ピッキー:紅茶はさっき全部飲んじゃった。
Pi-子:あ、ポテチ食べます?昨日スーパーで買ったんですけど、量が多かったから持ってきちゃったんですよ。
貴ちゃん:ありがとうございます。でもポテチ食べるとノドが渇くから。
Pi-子:そうなんですよね〜。日本みたいに自動販売機があればいいのに!

妙ちゃん:
(外を見ながら)吹雪、ますます強くなってますね・・・
ピッキー:そうですね・・・あっ

ピッキーが何かを発見したようだ。

Pi-子:何?どうしたの?
ピッキー:あそこ、トナカイがいる!

窓の外(当然)、ピッキーが指差した方向にトナカイが2頭いた。

Pi-子:囲いがあるように見えるけど・・・まさかノラトナカイじゃないよね。
ピッキー:行ってみようか。どうせヒマだし。


全員ダウンを着て、手袋をはめて外に出る。

雪・・・誰にも踏まれたことがないおNEWな雪・・・子供の時、家の近所(Pi-子は関東地方在住)で雪が降って、新雪を踏むとうれしくなったもんだけど ここのは新雪っていうか深雪なもんで、軽く踏んで確かめながら歩かないと、足のつけねまで埋もれてしまう。

何回か埋もれそうになりながら進む。
トナカイがいたのは、ちょっとした丘陵だったもんで、たどり着いた時は体が暖かくなっていた。
気温は間違いなく零下だったんだけどね。

トナカイは柵に囲われていた。
Pi-子:やっぱり、飼いトナカイか。・・・トナカイって飼ってどうするんだろうね?
ピッキー:ペットっていうより、実用目的なんじゃないか・・・ミルク?ミルクは出るのかな?
貴ちゃん:ソリを引かせて物を運んだり、人を運んだり・・・まさにサンタクロースだね。
ピッキー:それとも食用?トナカイの肉って売ってるんだよね?
妙ちゃん:それはかわいそう。かわいいのに。
Pi-子:サンタのソリ専用と思っておこう。


動かないで立ち話をしていると、かなり寒くなってきたので、早々に列車に帰ることにする。

おしゃべり以外に特にやる事もなく、やっと3時間半が経過。

Pi-子:今、何時?
ピッキー:やっと4時。
貴ちゃん:4時だ〜、もう少しだ〜
妙ちゃん:食堂車、準備ぐらいは始めてるかもしれないから見に行ってみない?

そう。全員、空腹で限界だったんです。

食堂車へ行くが・・・
ウェイトレス:まだよ。列車が動いてから食堂車がオープンすんの。

・・・ほんと、無愛想なウェイトレスだなぁ・・・

仕方なく、再び座席に戻り、ナルヴィクから帰ってくるバスを待つ・・・が

貴ちゃん:もう4時半過ぎたけど、バス、来ないね・・・
Pi-子:うん・・・

そこへタイミングよく車掌さんが通った。

車掌さん:みんな寒くない?大丈夫?
Pi-子:大丈夫だけど・・・バスは4時半に着くんじゃなかったの?
車掌さん:ん〜、ちょっと遅れてるんじゃないかな。よくあることだよ。

「しょうがないよ」と言って笑いながら去っていく車掌さん。

バスが戻って来ない → 列車が発車しない → 食堂車がオープンしない → 食べ物にありつけない

貴ちゃん:「よくあること」じゃないわよっ、大問題よっ!!
ピッキー:腹減ったな〜・・・
Pi-子:・・・なんか、さっきのトナカイ、おいしそうに見えてきた。

窓の外に目をやると先ほどのトナカイがよく見えてます。

妙ちゃん:確かホテルのレストランに「トナカイのステーキ」ってメニューがあったよね。
ピッキー:トナカイのステーキっ!食いて〜!
Pi-子:ああっ、トナカイのステーキ・・・どんなんだろ、食べた〜い。

みんな、さっきまでトナカイはかわいいだの、食肉にしてしまうにはかわいそうだの、と言っていたのにっ!
人間はなんて残酷な生き物なんだろう・・・でも、みんな自分がかわいいのさっ。ヽ( ´ー)ノ フッ

ひまひまひま〜、お腹へった〜!
それにしてもお腹が減った(T△T)ぐ〜
Pi-子:お腹減ったから、禁断のポテトチップに手ぇ出しちゃおっと。
ぱりんっ・・・ああっ、こんなにポテチがおいしいと思ったことはないっ。

ピッキー:ノドかわくぞ・・・でも俺も食べよ。(ぱりっ)
貴ちゃん:(ごくり)・・・ちょっともらっていいですか?
Pi-子:もちろん。妙ちゃんは?
妙ちゃん:いいんですか?いただきます。

バリバリ、パリパリ、ぱりん・ぱりん、かりっ・ぱりっ・・・

全員黙々とポテチを食らう。

Pi-子:ああっ、ちょっとは満たされたかな。
妙ちゃん:うん。ありがとうございます。
ピッキー:残るかと思っていたポテチがこんなに役に立つと思わなかった。

みんなちょっとは満たされたらしく、和やかムード

外に明かりが見えた。車のヘッドライトのようだけど・・・
Pi-子:あっ、あれ、バスが到着したんじゃない?
全員窓にはりついて表を見るが・・・トラックだった。
時間は5時を過ぎたところ。すでに夜になってしまったので光以外はよく見えないのです。

妙ちゃん:あれじゃないの?
またしても車のヘッドライトが近づいてくる。
希望的観測を持って見るが・・・通り過ぎてしまった。

貴ちゃん:どのみち、もうすぐバスが着くと思うから食堂車の前で待ってようか?
Pi-子:行列ができる食堂車・・・そんなにおいしいもんがあるわけでもないけど。
妙ちゃん:でも、あのウェイトレスのことだから「まだよ」って言われて追い払われそう。

うん、多いにあり得る。

また車のヘッドライトが見えた。
どうせまた通りすぎるか、荷台かなんかでしょう、と思ったら・・・待ちに待っていたバスだった。

\( ̄▽ ̄)/\(^。^)/\(*^o^)/\(^O^)/ ばんざ〜い

これほど1台のバスが来たのをうれしいと思ったことはなかった。

バスは何台かに分かれて到着。
乗客が全員乗り込み、列車が発車したのは6時近くになっていた。

発車の直後、4人はやっと食にありついたのだった。
軽食しかなかったけど文句は言うまい。

貴ちゃん:いや〜、これでオーロラが見れたらいいね。
Pi-子:うん。今日はオーロラ見れるかな?


列車の中が明るくて、外が見えにくい為、コートを頭からかぶって影を作り、窓にぴったりはりついて観測するが・・・ああ、現地の人の冷たい視線を感じる。

Pi-子:いや、オーロラが見れるかな?って思って・・・
できるだけ周りに聞こえるように、隣のおっちゃんに弁解してみる。
おっちゃん:オーロラなんて今日はでてないよ。おととい、きれいなオーロラが見れたがね。
おととい?到着した日じゃないか。

Pi-子:何時頃?私たちおととい着いたんだけど。
おっちゃん:それほど遅い時間ではなかったね。10時頃かな?

イェリバーレ空港に着いたのがすでに12時近かったかな。
その数時間前にオーロラが見えてたんだ〜 (ToT)

おっちゃん:天気次第だから、また見れるよ。
見れるといいんだけどね・・・。


発車が遅れたのだから当然到着も遅れ、8時45分頃イェリバーレ駅に到着。
朝の8:45発の列車に乗ったわけだから、実に12時間列車の中にいたのであります。

へ(×_×;)へ どっと疲れが・・・

ホテルへ帰って、ベッドに倒れこみたい・・・ところですが、その前に返金してもらえるんだろうか?
それを確認してみたく、ホテルのレセプションへ行く。
でも時間は9時。日本人スタッフさんはもういないかもしれないな・・・。

スタッフ:おかえりなさい。
しかしながら日本人スタッフさん、いた。
貴ちゃん:私たち、今「オフォト鉄道でいくフォヨルドの旅」のオプショナルツアーから帰っていたんですが・・・
貴ちゃんが今日の出来事をスタッフさんに説明してくれた。

スタッフ:それは、それは・・・たいへんでしたね。ちょっと確認しますので、お待ちください。
スタッフさん、1,2ヶ所に電話をし、おそらく事実確認をしていたのだろう。

スタッフ:お待たせして、どうもすみません。全額お返ししますね。
お金は全額戻ってきたのでひとまずよかったが・・・

Pi-子:あっ、9時過ぎちゃった。今日こそサウナに入ろうと思ってたんだけど、サウナ9時までだったんだよね。
スタッフ:あ、サウナ入りたいですか?私がカギを持っているのでいいですよ。
Pi-子:いいんですか?じゃ、お言葉に甘えて。
スタッフ:今日の疲れを癒してください。




あ〜、サウナ暑かったけど気持ちよかった。
ピッキーはまだ出てきていないみたいだな。
Pi-子:どうもありがとうございました。少し生き返りました。
スタッフ:よかったです。今日は本当に散々でしたよね。

話しながらも黙々と仕事するスタッフさん。

Pi-子:あの・・・1日何時間ぐらい働いてるんですか?朝から晩までずっといるような気がするんですけど。
スタッフ:う〜ん、ほぼ1日かも。でも休んでいる時間もありますよ。今は交代要員がいるので休みの日ができたんですけど ちょっと前まで日本人スタッフは私一人でずっと休みなしだったんですよ。

1日働いていて、なおかつ休みもなし〜!いくら仕事が好きでもちょっとそれはキツい・・・

おばちゃんたち:あ〜、今日はもうダメね〜
3,4人の日本人のおばちゃんが入ってきた。外でオーロラ観測をしていたのだろう。
Pi-子:今日はオーロラはどうですか?
おばちゃんたち:ダメ、ダメ。雲が出てきちゃった。
スタッフ:この辺は天気が変わりやすいから、もう少し経ってからもう一度外に出てみたら雲がなくなってるかもしれませんよ。


ピッキーが長湯(?)しているようなのでおばちゃんたちも加わって世間話を始める。

おばちゃんたち:え〜、じゃあ今日は12時間も列車の中にいたの?
Pi-子:そうなんですよ。参りましたよ、せっかくここまで来たのにフィヨルドが見れなかったんですから。
おばちゃんたち:いや〜、私たちは昨日行ったんだけどね、きれいなだったわ〜、感動しちゃったもの。ねっ

おばちゃんたち数人に囲まれ「きれいだったわねぇ」を連発される。
・・・そんなにきれいだったのか。
おばちゃんたち:あなたも昨日行けばよかったのにね〜
当初の計画ではそうだったんだけど・・・

Pi-子:あとは、せめてオーロラ見たいですよ。
おばちゃんたち:私たちももう1回見たいわ。最初の日にちょっと見たっきりで。

「最初の日」というのはおそらくPi-子たちが到着する少し前のことだろう。列車の中でおっちゃんが「10時頃にオーロラが出た」って言ってたっけ。
しかし1回見れただけでもいいじゃないか。

おばちゃんたち:私たちの前にいた人たちなんて毎日見れたって言ってたのにねぇ。
なぬ!?Pi-子が来てから出なくなるとはどういうことだ!

その後、何度か外へ出て空を見上げてみましたが、オーロラは全く姿を現しませんでした。

(Pi-子)