氷渡(すがわたり)洞・後編


みごとなつらら石

真っ暗な洞窟の中でくりりんちゃんの悲鳴が・・・いったい何が起きたんだ?

くりりん:何か踏んだと思ったらこうもり踏んづけちゃいました。・・・死んじゃったかな?
大崎さん:う〜ん、かろうじて息はあるみたいですが、かなり弱ってますね。これは踏まれたからというよりは、弱ったから落ちゃったんでしょう。 ・・・ところでこの辺はこうもりが多いんですよ。

辺りを見回すと無数のこうもりがぶらさがりながら冬眠している。
数々の洞窟を征服してきた我々、飛んでいるこうもりを目にしたことは幾度があるが、これだけの数、さらに冬眠しているこうもりというのは初めて見た。
なかなか貴重なものが見れたと思う。

物珍しいのでライトで照らして見ていると、体がぐらぐらしてきた。
いけない、ここはこうもりたちの世界なので安眠妨害しては申し訳ない。
急いでライトを違う方向に向ける。

まあ、しかしよくぶらさがって眠れるものだ。
朝の電車の中でつり革につかまりながら居眠りしている隊長にもいつか挑戦してもらいたいものだ。


こうもり冬眠中
自由の塔

こうもりのいた場所からさらに先へ進み、ようやく巨大な石柱「自由の塔」までやってきた。
氷渡洞のシンボル的存在で柱の高さは5mに及ぶ。
石灰岩の成分を含んだ水が上から垂れて、上につらら石、その下に石筍を作り出し、上下両方から成長したものがくっついたもので、これができるまで数百万年かかったそうだ。
う〜ん、自然の作り出すアートだ。

大崎さん:驚くのはまだ早いですよ。この奥にさらに美しい鍾乳石が見られますから。
大崎さんの言葉に背中を押されさらに奥へ

以前来た時には「自由の塔」を過ぎて少しのところに「きらめく星座」があったと思ったんだけど、もう少し先だったかな?
くどいようだが各自頭につけている「川口浩」の照明しかないので暗くてよくわからん。
大崎さん:ストップ、ストップ!「きらめく星座」通り過ぎちゃいましたよ!
やっぱり通り過ぎてたか。

きらめく星座
フラッシュに反射してキラキラ輝いてます

きらめく星座は壁面状の鍾乳石「フローストーン」の中に方解石の結晶が含まれていて光を受けてキラキラと輝くのだ。
あまりの美しさに呆然と立ち尽くす隊員一同。
オレと隊長は2度目の対面になるが、やはりすごいな。

「きらめく星座」は前回の探検コースの終点になっていたので、ここから先はオレたちにとってまさに「未踏の地」だ。
大崎さん:ここまでは「岩泉市」の土地なんですけど、ここから先は個人の土地なんですよ。うちは許可をとってますから問題ありませんよ。
なるほど、それで前回参加した探検コースはここまでだったのだな。

ここからは「龍の背(たつのせ)本洞奥」に入る。
「不帰の道」があった分岐点から地底湖は1本道になっており、龍の背に例えられているのだろう。
これまでは足場の悪いところにはしごがあったりしたが、この先はいっさいの人工物はなくなるのだ。

ある時は岩をよじ上り、ある時はくぐったりしながら進んでいると・・・おおっ、これはすごい!
一面が真っ白なフローストーンに覆われた場所に出た。

大崎さん:これは石灰華段(せっかいかだん)といいまして、地下水に含まれる炭酸カルシウムが沈殿し、 高さが異なる何段もうろこ状に並んだ地形になっています。
Pi-子隊長:すごいね〜「自由の塔」は例えるならケーキって感じだけど、「石灰華段」はアイスクームだね。

どうして例えが食べ物(甘味)なんだ!?
くりりん:ダブル、トリプル・・・いや、もっとですね。
つきあわなくていいから、くりりんちゃん。


何段も重ねたアイスクリームの様 溶け方(?)もリアル
石灰華段(せっかいかだん)


大崎さん:じゃあ、みなさん、段の一番上まで上がって、その場で座ってください。
隊員一同、一番上の段に上がり、言われた通り適当な場所で腰を下ろした。
大崎さんは下にいて、写真を撮ってくれたが・・・記念撮影だけというわけではなさそう

大崎さん:座りましたね。ではライトを消してみてください。
全員の川口浩を消灯
まぶたを開けても閉じてもかわらない真の闇というものを体感
地上にいれば例え真夜中だって月や星の明かりがあってこんなに真っ暗ということはありえない。
こんなところで生息すれば確かに目は退化するな。
ちなみに洞窟の住民、こうもりは音の反射を利用して生活しているので目が見えなくてもまったく問題ないのだ。

大崎さん:ここまで来て、鍾乳石って意外とすべらない、って思いませんでした?まぁ、水が流れているので全然滑らない わけじゃないですけど、光合成をしないのでコケが一切生えないからなんですよ。普通の川とかの岩ってもっとつるつる滑るでしょう。
確かに。光がないのだから光合成なんかするわけないんだ。

大崎さん:あ、ライト点けていいですよ。先に進みましょう。
あれ?
今、違和感を感じたのだが、川口浩を点けてびっくり!

ピッキー:大崎さん、どうやってそんなところに!!
なんと、まだ石灰華段の下にいると思っていたのに、いつの間に我々の背後(高台)にまわっていたのだ。
ゴルゴ13なら「オレの背後にまわるな!」と怒るだろうが・・・オレたちはゴルゴじゃないからそんなことはいいや。

まる子:今、全員ライトを消して真っ暗だったのに!?
大崎さん:この辺はもう慣れてますから。目をつぶっていてもどこの岩に足をかけて上ればいいのか、体で覚えてますよ。
(笑)
目をつぶっても開けても同じぐらい暗かったんですけど。
大崎さん、本職は忍者なんじゃないですか?

一同尊敬のまなざしで大崎さんを見ながら、先へ進むと早速現れたのは巨大な水溜まり。
今までのはちょっと横にそれたり、手ごろな石を見つけてぬれないようにしてきたが、この水溜まりの中を通って行かないと先へ進むことができない。
ここは思い切りが大切だ。ジャージの裾をめくって、GO!

つ・・・冷たい!!

思わず入水鍾乳洞を思い出す。("茨城・福島編"参照)

そうだ、オレたちはあの入水鍾乳洞を征服してきたんじゃないか!
勇気をふりしぼって、一歩、また一歩、と前進。
水位はひざ上ぐらいもあり、事前に長靴の方がいいか?と大崎さんに尋ねたら、長靴は中に水が入ると重くなり、動きにくくるのでやめた方がいい、と言われていたのも納得。

冷たい水もなんのその!
最後の難関、滝登り


水溜まりを超えると、どこかで水の音が聞こえる。
しかもハンパでない、まるで滝の流れるような音・・・と思ったら本当に滝が現れた。
大崎さん:最後の難関、滝登りです。とはいえそれなりに流れもあり、危ないので、滝の両側の岩に足をかけながら上ってくださいね。

ゴォォォォォ〜ッ!!

「鳴龍の滝」という名前の通り、物凄い音が響いてます。
洞窟の中である故にエコーもきいているんだろうが。

全員、脱落することなく滝を登り終えると今回の目的地、地底湖とようやく対面。
湖面に灯りを当ててみる。
これがエメラルドグリーンに光り輝く地底湖「青き地底湖」か・・・きわめて透明度の高い水で、ライトの明かりでも底がくっきりと見て取れるが、いかんせん暗すぎて色まではよく分からない。
が、龍泉洞と負けないぐらい美しいのだろう。


最後はゴムボートで漕ぎ出すのだ!
洞窟の脇には二人乗りのゴムボートが用意されており、これで「青き地底湖」へ漕ぎ出すのだ。
ピッキー:どこまで行っていいんですか?
大崎さん:どこまでも・・・と言いたいところですが、30〜40メートル位行くと行き止まりになります。ムリして行こうとしないでくださいね。鍾乳石の先端部 にひっかかってゴムボートに穴が開いたら、当然ですが沈みますよ。
ピッキー:ちなみに深さは?
大崎さん:場所によりますが水深10メートル位です。
ピッキー:・・・絶対にムリはしません。


鍾乳石に接触しないようオール(というか水かきの先端)で微調整しながら進む。
漆黒の闇の中のブルーの水は怖いくらいに静かで神秘的だった。
水深10メートル位というが、本当に透明で、深さの感覚が狂うのかあまり怖いという感じがしない。
ハンパに高いビルの上から下をのぞくと怖いけど、下がよく見えないぐらいの高いビルだと怖くないといったところかな。

おおっと、ここから先へは行かないな。
大崎さん:そこから奥に印があるのが見えますか?
印?できるだけ遠くにライトをあててみる・・・あ、あれかな?
ピッキー:見えました。
この印は調査のときにつけた目印なのだそうだ。

ちなみにこの先にも洞窟があることは調査されているそうだが、完全に水没している場所が何箇所かあり、ちゃんと装備をして潜水しなければ行けない。
大崎さん:潜らなくても行ける道がないか今探しているんですけど、見つかってないんですよ。
今後の探索の成果に期待したい。

Pi-子隊長:発見されたらまた参加しますよ。
るむ:でもそれって何時間コースになるんでしょうね?
大崎さん:何時間ぐらいだろう?ところで、洞窟に入ってからどのぐらい経ったか分かりますか?
くりりん:あ・・・時計置いてきちゃいました。2時間ぐらいですか?
大崎さん:3時間になりますよ。
Pi-子隊長:ええっ、そんなに?私もまだ2時間経つか経たないか、ってとこかと思いましたよ。
大崎さん:暗いと時間の感覚が狂うもんです。まぁ、帰りは行きほど時間はかからないと思いますが、1時間ぐらいですかね。

暗さと夢中になっていたのとで全員時間の感覚がマヒしていたのだろう。

帰りは比較的早く出口(入口?)までたどり着くことができた。
もちろん覚えている場所もあったり、体も慣れてきたこともあるだろう。
行きに説明されたことを復習しつつ、名残り惜しみつつの帰路となった。

外に出ると時間は17:30
明るい時に洞窟に入ったのに、辺りは真っ暗・・・とはいえ、もっと真っ暗な場所から出てきたので別段どうということもなく、川口浩を点けたまま車を向かう。
行き3時間、帰り1時間(大崎さんの予想通り)たっぷり4時間近くは洞窟にいたことになる。
まあ、たっぷり楽しんだというわけだ。

事務所(元郵便局)まで戻り、皆、着替えたりしている時に大崎さんから洞窟の未公開の場所の写真を見せてもらった。
中は今日見た場所以外も想像以上に壮大なスケールで広がっているようだ。
今後がますます楽しみな洞窟である。

大崎さん:今日どれくらい歩いたかわかります?
ピッキー:2〜3キロくらいですか?
大崎さん:800mです。
ピッキー:げっ!往復1.6キロを4時間近くかけたのか。

改めて洞窟とは距離感も時間も全て失われてしまうところだと感じる。

そうこうしているうちに女性陣も着替えを終え、未公開部分の写真を見て、大崎さんを囲んで洞窟話に花が咲き出した。
Pi-子隊長:すみません、宴もたけなわではございますが、18:30過ぎたのでそろそろ宿の方へ向かいたいと思いますが・・・
ピッキー:何時到着って言ってたっけ?
Pi-子隊長:18:00頃って言ってある。
ピッキー:もっと遅い時間にしておけばよかったのに。じゃあ、連絡しておかないと
Pi-子隊長:しかし連絡をとることはできない。
ピッキー:圏外?
Pi-子隊長:いや、電話がないのだよ。
ピッキー:ドジ〜!洞窟内で落としたら見つけられんで

大崎さん:事務所の電話使いますか?
Pi-子隊長:そうじゃなくて、先方に電話がないんですよ。
大崎さん:えっ、電話がない宿なんてあるんですか?
Pi-子隊長:古民家をそのまま民宿にしている宿で電話をひいていないというので。
ピッキー:そういえば宿泊の予約は手紙で申し込んでいたな
まる子:じゃあ電子メールは?
Pi-子隊長:ないでしょ、電話はおろか、電気すらないらしいから。
ピッキー:誰か伝書鳩を飛ばせる人間はいないか?
るむ:さすがに無理ね。蝙蝠でもたたき起こす?


さすがに伝書蝙蝠は聞いたことは無い。
よしんばできたとしても冬眠中なので迷惑であろう。

こうしている間にも時間は刻々と過ぎていく。
携帯電話に慣れた我々にはもどかしい事態だが、連絡をあきらめ、まずは急いで向かうことにしよう。

(ピッキー)




(お役立ちリンク)
ケイブレンジャー記in岩泉&・・・  本文で登場しているケイブレンジャー・大崎さんのブログ。安家洞(あっかどう)と氷渡洞(しがわたりどう)を案内してくれます。
石丸謙二郎 Off time 「世界の車窓から」のナレーションで有名な石丸謙二郎のブログ。検索に「氷渡鍾乳洞」と入力すると石丸さんの洞窟探検記が見られます