私が旅に出た理由



宿舎4Fの娯楽室(集会室)


クリスマスの少し前だったと思う。
中国人学生との親睦会が行われた。

お決まりな感じで歌を歌ったり、おしゃべりをしたり。
みんな楽しく過ごしていた・・・そう、私以外のみんなは。

別に誰かにいじわるされたわけじゃなくて、無視されてたわけじゃなくて、むしろ輪の中に入れてくれようとしていたのだけど・・・それが苦痛。
だって、みんなが何をしゃべってるのか全然分からないんだもん。

みんなが怒っている状況が分からないよりも、みんなが泣いている状況が分からないよりも、みんなが笑っている状況が自分だけ分からないのってけっこう辛いもんだな。
楽しいはずの親睦会で辛いことが悲しい。

・・・気がつくと涙が出ていた。

帰り道、泣いているのを気づかれたくなくて、みんなから離れて歩く。

スタスタ、スタスタ・・・

右を曲がれば留学生宿舎だけど、まだ涙止まってないし
その辺一回りしてから帰ることにしよう。

スタスタ、スタスタ・・・

電力事情が悪いせいか街灯が暗い。
工事中のマンホールのふたが開きっぱなしだったりするので、普段は「危ないじゃん!」なんて文句を言っているが、こんな時は誰にも表情を見られないからよかったと思う。

今日だけじゃないんだよね、ここんとこ、授業でも買い物でも中国語を聞いて、分からないのがイヤになっちゃって、なんかひきこもり。
どうしたんだろう、いままでこんなことなかったのに。

焦ってるのかな?
焦ってもしょうがないのに?



冷たい風にあたって歩いていたら落ち着いてきたので、そろそろ帰ろうかなっと。

宿舎の近くまで来くる、浩子(ハオズ)らしき人影が立っているのに気づいた。
浩子、浩子だよな?こんな暗くて寒いのに、外につっ立って何やってるんだろ?

Pi-子:浩・・・
浩子:いた〜!!今までどこに行ってたのよ!?
団長:みんなに心配させやがって!!

はい?心配?

浩子:藤田(トンティエン)と門馬(メンマ)さんなんか捜しに行っちゃったよ!!
Pi-子:うそ〜
団長:最近、この近くで殺人事件が起きたんだぞ、忘れたわけじゃないだろうな!?

あ、そうでした。(実は忘れてた)

Pi-子:ごめん、ちょっと散歩に・・・(^_^;
なんて言い訳が通じるわけもなく、宿舎の娯楽室(集会室)で吊るし上げ(?)られることに・・・

宿舎4Fの娯楽室(集会室)にて
Pi-子:こっちに来てもう3ヶ月経とうとしているのに、なんか全然進歩してないような気がして・・・なんか自分が情けないかな、と。
藤田(トンティエン):そんなのオレだって同じだよ。全然中国語できなかったんだし。
門馬(メンマ)さん:でも、買い物なんか1人でできるんだろう?
おねえたま:そうだよ進歩してるじゃない。来た時は数字だって聞き取れなかったでしょ。

Pi-子:うん、まぁ、買い物とか授業で使う言葉はね。9月には「今月中に授業で使う言葉だけでも覚える」って目標たてて、それはなんとかクリア できたけど・・・なんかそれだけ。

そうそう、初めはうれしかったんだよね。
先生や宿舎の中の人、町の人に言いたいことが伝わった!って感動したり
おせじだと分かってるけど「中国語うまいね」ってほめられたりするのがうれしかったけど・・・

Pi-子:歩きながらいろいろ考えてたんだけど・・・誰かと一緒にいるとどうしてもその人に頼っちゃうから、ちょっとその辺に買い物ってのじゃなくて ちょっと遠くに、1人旅?・・・そんなに大げさなものじゃないけど、ちょっと出かけてみようかな、って思うんだ。
門馬さん:気晴らしで?「自分を試す」なんてわけじゃないよね?
Pi-子:・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

図星だったので答えられず (^_^;

藤田:行ってみて「やっぱり自分はダメだった」なんてなったら、どうすんだよ?
そうか、そうゆうこともあり得るのか(←考えてなかった)

Pi-子:・・・仕方ないよそうなったら、自分はそれまでの人間だったってことで、どうなるかなんて分かんない。
門馬さん:ふ〜ん、じゃオレも一緒に行こうかな、気晴らしで。


はい!!!???

それじゃ、私のチャレンジ1人旅にならないじゃん!?
・・・とは思いつつ、断る理由も見つからず「門馬さんは旅行の手配を一切しない」という条件と一緒に行くことになってしまった。



数日後、私は長距離バスターミナルの切符売り場の前にいた。


長距離バスターミナル
行き先は開封と決めていた。
鄭州からは列車で1時間、バスで1時間半ぐらいと近いし、ここまで来る時に一緒に来た留学生たちともまた会いたいし。

鄭州→開封は往来も激しいし、(バスの)本数は多いから当日でも切符は帰ると思うけど、念のため前もって買っておいたほうがいいだろうな。
ちなみに切符は発車日の3日前から購入出来ます。
また春節、労働節、国慶節といった長期休暇前は5〜10日前から購入可能だそうですよ。(バス会社によって違うので要確認)

門馬さんに前売りの売り場と買い方は聞いておいたのだけど・・・買えるのだろうか・・・とたじろぐぐらい窓口は混雑していた。
人民の皆さん「行列」ということを嫌うので、窓口はおしくらまんじゅう状態。
窓口もやる気がなさそうで、これだけ購入したいという人間がいるのに(窓口の)半分がクローズしてますが!?

旅行社へ行って手数料払えば、この大混雑の中に入らずとも切符を買うことはできるだろうが・・・門馬さんやみんなに「旅行社で買ったの?」とか言われるのはイヤだ!!

ええい!!
決心して混雑の中へ入っていく。かなり激しいバーゲンだと思えばいいんだ。

肩で負けずに割りこんでいき、窓口までリーチ!という距離まで行くと、手にしていた紙を窓口の係員さんに渡した(無理やり窓口に手をねじこんだと言うか)
言葉だと「听不(言っている事が分からない)」と言われる可能性がなので行き先と希望のバスの発車時刻を紙に書いてきたのです。
聞き間違えられて違う場所の切符を買わされても困るし。

Pi-子:はぁ・・・
もみくちゃにされながらも切符ゲット!
2枚のゲットした切符を手に持ちながら切符売り場の外に出るといきなり腕をひっぱられた!!

謎のおばちゃん:£#@§☆%&*★
はい?方言がキツすぎて何を言ってるのか全然分からない。
Pi-子:何?もう一回言ってください。
おばちゃんに5回ぐらい同じことを言わせてから「開封に行くならこのホテルに泊まってください」と言われていたのにやっと気づいた。
客引きだったんですね・・・ (^_^;A

Pi-子:ごめんなさい、もう泊まる所決まってるんですよ。
すでに河南大学の"招待所"に泊まろうと思っていたのですよね。
(呼和浩特編でも触れましたが)中国の殆どの大学や専門学校には"招待所"と呼ばれる宿泊所があり、本来は学校の関係者や政府機関の人が訪れた際に備えているもの だけれど、空きがあれば一般の旅行者(留学生とは限らず)も泊まれたのです。
今でもこのシステムはあると思うけれど、これから中国へ旅行へ行こう、という人は確認してください。なんせもう十数年前のことなので。

私の言っている事が通じているのか、いないのか分からなかったけど、おばちゃんがなおも勧誘を続けたが、なんとか振り切ったのだった。
なんかねぇ、本当にしつこいんだよねぇ・・・客引きが。

(Pi-子)