いま、会いにゆきます/市川拓司 2003年 評価:4


 芸術には無頓着な妻が、暇つぶしに何か本を借りてきて欲しいというので、私自身、映画版が大好きであり、内容的にもロマンチックで難しいところがなく、すぐに読みきれそうな本作を借り与え、私も読んでみた次第である。

 作者は本作のみの一発屋っぽくなっている事実が示すとおり、文章が稚拙だし、伊坂幸太郎に似た、登場人物の性格に沿ったものではなく、自分の知識をひけらかすような記述も多く、正直、文体は嫌いなほうである。こういう文章のほうが今は一般受けするのかもしれないが、芸術性も感じたい私にはこの点はやはり合わない。そのため評価5にはならないが、あえて反論があるのは承知の上書くと、文章自体の高尚性に目を瞑れば、純粋で真面目な者同士の惑うことなき純愛を描いた点で、これは現代版の「愛と死」/武者小路実篤ではないか。信頼できる者同士の、何の策略も無い恋愛。根が真面目で、付き合った人も真面目な人ばかりの私にとって、これほど胸を打つものは無い。

 映画版が大好きなので、どうしてもあの出演者以外の顔が思い浮かばない点はある意味マイナス(ただ映画版が嵌っていたのでマイナスとも言い切れないが)だし、ストーリーがわかっているので驚きや新鮮味を感じられないのは致し方ないが、ファンタジーの部分はあくまで主軸を描くためのひとつのアクセントであり、そこを許容できるのであれば、プロット的にもおかしいところは無く、非常によく出来た純愛小説であり、間違いなく私の心の琴線を弾く。この構成は私の大好きな映画、「ある日どこかで」にも通ずるものである。ちなみに、映画版で好きだった、主人公巧に好意を寄せる同じ職場の女性のエピソードは小説にはなく、映画版もとてもよく出来ていたことにも気付かされた。

 ファンタジー系が嫌いな妻は特に良いとも悪いとも言わなかった。こんなところからも女性より男性のほうがロマンチストなんだなぁと再認識させられた次第である。