「いま、会いにゆきます」 04日 評価5(5点満点) メジャー度5
監督:土井裕泰
出演:竹内結子、中村獅童、武井証他
2004年に封切られた時から、話の内容的にも映画の雰囲気的にも私の好きそうな映画だなと思っていたが、なかなか観る機会がなかった。満を持してやっと見ることが出来たわけだが、泣いた。慟哭しそうになった。いろいろ意見はあると思うが私の琴線は見事に激しくはじかれた。
妻・澪が亡くなってから1年。澪が残した言葉や絵本から夫・巧と息子・佑司は雨の季節に澪が帰ってくると信じている。はたして雨の季節、巧と佑司の遊び場である廃墟に澪は戻ってきた。記憶をなくして。うれしくもどこか信じられない二人だったが、澪と暮らし始めて3人の暮らしを取り戻していくなかで、愛を一から築きなおしていく。しかし予言どおり澪は雨の季節が終わる6週間後に姿を消す。澪はなぜ死んでからまたこの世に戻ってきたのか。その現象の裏にある青春時代からの純愛と佑司を生むことの厳しい選択を主に解き明かしていく中で、男と女、家族の愛を描き出した傑作。
死人が蘇るところはかなり好きな部類の「異人たちとの夏」を思い起こさせるし、ありえない設定の中での純愛は、私がロマンス映画No.1としている「ある日どこかで」に通じるものがある。また、最後の15分間ほどの展開で、それまで「?」と思っていたセリフや表情がパズルを組み立てていくように納得できていく様は「シックス・センス」のようだ。要はそういう好きな映画を足して3で割ったような映画で、いや、これはロマンス映画のNo.1に踊り出るかも、という気が今、している。
成功の要因はいくつもある。まず、泣かせようというあざとい演出が全くないことだ。澪は戻ってきたが、巧はそれが長く続かないことをどこか感じ取っているし、澪もその運命を受け入れながら6週間を大切に過ごしていく。それだからこそ別れのときに過剰な演出がなく、さわやかといっても良い終幕となった。また、巧を診る診療所の先生とのシーンや、巧の働く税理士事務所の雰囲気など、全編がゆったりとしてせわしいところがなく、主人公二人の物語を決して邪魔しないのも、元の物語のよさを生かしきっている要因。さらに、後に結婚することになる竹内と中村のラブシーンが凄く自然で暖かいのは、極めてこの映画を包む雰囲気を現実的なものに引き寄せるし、ぬくもりを感じさせる。竹内結子は鼻の穴が目立つし馬面で、特に美人とは思わないのだが、本作の彼女は凄く良い。そんな普通っぽいところがこの映画ではとても重要であり、元々演技力はある人だから、繊細でありながら芯が強い澪をとても瑞々しく演じきったと思う。
細かく言えば「?」のままのところもあるし、エンディングにORANGE RANGEのラップを使うのはどうか?(印象的なテーマ曲があるのに…)というところはあるが、そんな細かいところはこの際どうでも良いだろう。全編を覆う詩情、時間を追って築き上げる愛情、青春時代を振り返るシーンでの純情、そして構成としての映画の楽しさと、胸を揺さぶる材料がここまで揃っては最高点を進呈せずにはいられない。