「ある日どこかで」 80年米  評価5(5点満点) メジャー度2

監督:ヤノット・シュワルツ
出演:クリストファー・リーヴ、ジェーン・シーモア、クリストファー・プラマー他

 最近実に10数年ぶりに長編小説を読んだ(昔はいわゆる名作といわれるものは片っ端から読んだものだ)ことから、その久しぶりに呼んだ長編小説であり、かつラヴ・ストーリーとして私の最も好きなこの映画を13年ぶりに観てみた次第である。

 若き劇作家リチャードは1972年、自分の戯曲の初演日の祝賀パーティーで見知らぬ老女から「私のもとに帰ってきて」と言われる。8年後、どうにも仕事が上手くいかないリチャードは湖のほとりのグランドホテルで休暇をとるが、そこの史料室にある昔の女優エリーズ・マッケナの写真にえも知れぬ魅力を感じる。彼女について調べていくと実は彼女は8年前のあの老婆であり、また、1912年の宿泊者名簿に自分の名前があることが判明する。身につけるもの全てを1910年代のものにし、精神統一することで過去へとスリップしたリチャードは運命の人エリーズと出会う。

 当時全く話題にならなかった映画だが、次第にファンクラブなども出来、カルト的な人気さえ誇るようになった。装置を使うわけでもなく精神集中をすることによる過去へのタイムスリップがとても身近で可能性を感じさせ、最後突然来るラストの急展開が観るものに鋭い喪失感、哀愁を植え付ける。派手さはないが、品のあるそれでいて良くまとまっている秀作である

 今回原作である長編小説を読んだ。原作でのリチャードは脳腫瘍で助からないという絶望感から旅にでた。そして、話はリチャードが脳腫瘍が原因で見た幻影であろうということになっている。確かに現実逃避の理由としてはそちらの方が強いだろうし、タイムスリップや、エリーズとの遅々とした関係の構築に力点がおかれ映画版よりもっと切実で、エリーズももっとその当時の淑女っぽい。勿論長編であるがゆえ、全てを映画で描くことは不可能ではあるが、原作の方がより信念も心情も深いことは否定できない。

 しかし、あの当時の純粋な気持ちも憧れもなくなった今後、自分が最も好きなロマンス映画をこれから観る映画の中から選ぶのはどうだろう?錆付いた純情からでは純粋なロマンスに心が触れることは少ない。だからこそ、映画の挿入曲であるラフマニノフのラプソティの曲番を最後の字幕からかろうじて読み取り(確かピアノ協奏曲の43番)、CDショップでそれを探し回ることさえしたあの時の純情を思うとき、やはりこの映画は私にとってのNo.1ロマンス映画であると、かすかな疑問を持ちながらも心の奥底にしまわれた純情が訴えるのである。