音楽家インタビュー・アーカイブ・シリーズ 2 寺嶋民哉さん(作曲家・編曲家)p.4

2000/05/30 掲載
(2007/10/23一部改訂)
Interview & Text by Ikuko Asai
◆音楽文化の伝統と新しさ

―音楽は文化の一つで、前の時代を受け継ぐという側面があります。受け継ぎながらも、次の時代の新しい音が聞えてくるというのが音楽の楽しみでもあると思うのです。例えば、寺嶋さんの音楽には、チャイコフスキーやジョン・ウィリアムスの影響を、私は感じるのです。

「昔、ある映画の音楽を作った時、ジェームス・ホーナーのオーケストレーションに似ているのが気になると言われたことがありました。同じメロディを使っていると言うのか? と聞いたら、そうではなく、オーケストレーションが似ているんだと言うんだな。だから、それは当たり前だと僕は言ったんだ。なぜなら、ジェームス・ホーナーが憧れている作曲家と僕が憧れている作曲家は同じなんだから。ジェームス・ホーナーは、コープランドとかガーシュインがおそらく好きなんですよ。それはつまり今のハリウッドの音楽スタイルを作った作曲家が好きだということです。彼はそういう音楽を伝統として受け継いでいるし、ジョン・ウィリアムスもそうです」

―受け継いでいるのに新しい。そこがその作曲家の魅力になるわけですね。

「そう。だからジェームス・ホーナーとジョン・ウィリアムスが似ていたら文句を言うのかと思うよね。当然二人のオーケストレーションには似ている部分がありますから。ハリウッドの作曲家が必ずもっている手法なんですよ。そして、それが大事な部分。伝統ですし」

―例えば、リヒャルト・シュトラウスの曲を聴くと、ハリウッドに近い響きが聞こえますよね。でも、音楽の世界はグローバルになっていますから、これからはアジアがもっているものがうまく組み合さっていくと、ポップスの新しい流れのひとつになっていくんじゃないかと言う期待があります。つまり、黒人と白人の音楽の融合はなされたし、民族音楽を取り入れた音楽も活発です。でも次は、アジアがもっているものをもっと融合していけたらというイメージがあります。寺嶋さんが『月下の棋士』の音楽でやられているジャパネスクはすごくカッコイイ。無理なく作っていて、自然に寺嶋さんの中にあるものが出ているように感じるんです。

「そのドラマの打ち上げの時に、僕は全く同じことを言いましたよ。気負うことなくすごく自然に作れましたと」

―寺嶋さんが小さな頃から映画音楽や様々な洋楽ポップスを聞いてきたものはご自身の中のルーツになっていらして、そこに日本的なルーツが融合されたという自然さを感じるんですね。

「歌もできれば日本語で歌うべきだと僕は思っていて、アメリカ人になっちゃおうというスタイルは問題です。カッコ悪いんですよ。もしベトナムのバンドがいて、彼らが日本人の真似をしていたら、僕らは注目しないと思うんですね。やっぱりその現地ならではの感覚をもっていないと、魅力はないものですよ」

―何がカッコイイか、ということですね。

「黒澤明さんの映画が世界的に人気があったひとつに、日本人をカッコよく描いていたというのがあると思うのです。だから彼の映画を見た外国人が、日本人に憧れをもちました。今の僕らは、西洋の音楽的なものを原点にありながら、日本の音楽文化にたいして知らないことがたくさんある。日本の音楽の響きには、西洋音楽にはない不協和音とか面白いものがあるから、今の僕は、日本をいっぱい知りたいという気持ちをもっていますね」

―ますます寺嶋さんならではの新しい音を作り出してほしいと思います。今日は長い時間、ほんとにどうもありがとうございました。

(おわり)
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