音楽家インタビュー・アーカイブ・シリーズ 2 寺嶋民哉さん(作曲家・編曲家)p.3

2000/05/30 掲載
(2007/10/23一部改訂)
Interview & Text by Ikuko Asai
◆映像音楽の醍醐味とは!

―東京に来てからのお話をお聞かせください。

「東京に来てからの最初の仕事は、ゲームの音楽のアレンジの仕事でした。その仕事がある映画プロデューサーの耳に留まって、映像音楽の仕事がくるようになりました。アマチュアの頃、オーケストラの音をやりたいというイメージがあって、シンセを使ってその音に近づけようと、自己流で試行錯誤やっていたんですが、それがいつのまにか僕の手法として確立しちゃったようです。こんなことは誰でもやっているだろうと思って東京に出てきてみると、案外あまりいなかった」

―オーケストラの音を全部シンセで作っちゃうということですか?

「そうです。そういう人は他にももちろんいるんですけど、シンセか、オーケストラか、わからないくらいに作るというものは少なかったかもしれませんね。もちろん耳のいい人が聴いたらわかりますよ。でも、そのことを突き詰めた人ってあまりいなかったみたいなのが幸いしました」

―それから、テレビドラマの仕事もするようになりました。

「初めて手がけたのは、1996年の『南くんの恋人』です。でも、これはかなり難産で。まず、メイン・テーマのメロディのデモ・テープをくださいと言われたんです。それが何度出してもNGをもらっちゃう。そのうち先方が何を求めているのか僕にはぜんぜんわからなくなってきた。ディズニーっぽいのがいいと言われて、最初そういうの書いたつもりなんだけど、なにか違うと言われる。次に他の人から夜の8時台だからもっとヒット曲っぽいものがいいと言われる。次第に、自分で何をしているのかがわからなくなってきた。元々のコンセプトからどんどん離れていってるわけなんですよ。それで、もう一度ちゃんと打ち合わせしてみると、最初に書いた曲が一番近かったということになり、その後は、きちんとコミュニケーションがとれ、帰りの電車の中でもう書いちゃいました。こういう仕事というのは、人間が2人いると、言うことが違ったりすることが多いんです」

―映像音楽の仕事で、寺嶋さんが好きな部分はどこでしょうか?

「制約のあるところが楽しいです。脇役でいられる快感があるんです。みんなで作っているという総合作業の楽しさですね。醍醐味はそこだと思いますよ。自分の作ったものもひとつの要素になっているという感じが楽しいんですよ。見方が変わってくる面白さとかね」

―アメリカの巨匠映画監督が言った言葉がありまして、クラシック音楽を自分の映画に使用することについてなんですが、「映像は映像で完成されている。クラシック音楽は既に完成されている。完成されたものと完成されたものがぶつかった時、全く新しい物が生まれる。僕はそういうのが好きだ」と。でも、反対に、映像に合わせて音をつけるという考え方もありますね。映像に音をつけるということに関して寺嶋さんの考え方やポリシーをお聞かせください。

「今言われた通り、ふた通りのやり方があるんですね。だから、この映画はどちらの選択肢かなと言うのをまず自分で考えます。音楽が主役の一人のように創るやり方は、映像とは関係なく“はずす”といった考え方。もうひとつは、空気のように作るというのがあります。徹底して空気のように・・・」

―空気のように・・・というのは、その映像にとって空気のようにということですか?

「そうです。そんなに音楽を覚えなくてもいいよ、という創り方です。見ている人にね、ストーリーに没頭させたいという音楽の作り方」

―映像を見ている人が、自然と映像やストーリーを受けとられるよう、あえて音楽を意識させないようにするんですね。にもかかわらず、その音楽がなければ映像やストーリーが伝わりにくいという作り方でしょうか?

「そういう作り方、僕は好きなんですよ。でも、日本の場合は、音楽が主役を張ってくれという風に頼まれることのほうが多いですね。つまり、音楽は音楽で一人立ちできるようにということが求められます。それはそれでいいと思いますが、自分が思うところの映画音楽の醍醐味というのは、それだけじゃないぞというのがありますね」

―空気のような音楽のほうですね。ハリウッド映画のほうが空気という考え方をもっているような気もするんですが。

「そうなんですよ。例えば、ジョン・ウィリアムスが曲を書いた映画でも、映画を観ている時には音楽は覚えていないんですね。映像や映画全体から出てくるエネルギーのようなものがすごいから。でも、あとからその映画のサントラを聴いてみると、音楽はこういうことやっていたんだ! とわかる。僕は映像音楽の仕事をやっているけど、個人で映画を観ている時は、音楽は聞えてこないんです。優れている映画ほど音楽はあまり聞こえてこないと思う。だから、言い方悪いんですが、あまりいい映像じゃなかったら、音楽で助けてあげようと思っちゃうかもしれない。その映像にとって空気のような音楽の仕事ができるというのが一番いいんです。オーケストレーションとしては非常に凝ったことをやっているのに、映像の中では単なる一つの小さな要素に過ぎないというのがカッコイイんです」
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