音楽家インタビュー・アーカイブ・シリーズ 2 寺嶋民哉さん(作曲家・編曲家)p.2

2000/05/30 掲載
(2007/10/23一部改訂)
Interview & Text by Ikuko Asai
◆子供時代の音楽体験について

―映像音楽に関してもともと興味があったのですか?

「ありましたね。5歳の頃、家にいろんなレコードが並んでいたんですね。マヒナスターズもあれば、ビートルズもあり、子どものために買ってくれた童謡もあるという風にね。そこでレコードをかけることが、子どもだった僕の遊びのひとつでした。このレコードはどんな音楽だろうなあ? と片っ端からかけていたようです。そんな中でもすっごく気に入った曲があって、擦り切れるくらい聴いたレコードが、チャールトン・へストンが主演した映画『ベン・ハー』のメイン・テーマのシングル盤。映画の音楽かどうかは、子どもだから知らなかったし、なんか、ひろーい感じがしたんですね。気持ちいい」

―わくわくしたんでしょうか。

「そう。ジャケットの絵があるでしょ? 馬が走っているんだな。その絵を見ながら音楽を聴いて、広〜い世界を空想していた気がしますね。この時のイメージが今でもあるんですよ。僕の原点ですね」

―寺嶋さんの音楽にもそういう感じがありますね。

「なんか広いのが好き(笑)。一言でいうとそれ。小学校の高学年になってくると、友達にも映画が好きなヤツがいて、そいつと毎週、映画館に行き出しましたね」

―実は、寺嶋さんのお父さんは音楽の教員をされていたんですね。寺嶋ご自身が考える子どもにいい「音楽体験」とはどういうものでしょうか。

「子どもにたとえ才能があったとしても、放っておいただけでは開花しないよね。親がひと押しする環境づくりは必要でしょう。でも、それってぜんぜん難しいことではなくて、昔ならレコード、今ならCDをただ並べておけばいいんじゃないのかな。これは自分の経験で言ってるわけだけど、大事なのは、好きなものを子どもに自分で選ばせること。例えば、子ども専用のCDをかけられるプレイヤーを与えちゃうのもいいかもね。生活の中に普通に音楽があって、他にも絵があったりという、当たり前の環境を作ってやればいいと思う」

―子どもの「音楽教育」についてはどうでしょう?

「苦痛やプレシャーだけを感じての音楽レッスンをやらせてしまったらだめだよね。そこで重要なのは、親の直感と、親が情報に惑わされないこと。これは音楽に限らないことだけど、最近の状況を見てちょっとどうかと思うのは、子どもが自分一人で考えたり、遊ぶ時間を、親はおろそかにしているのではないかなということですね。音楽を聴いている時に大事なことは、聴きながら空想しているという部分なんだよ。それって一人遊びの中でしか生まれない。空想力がつかなければ音楽なんて楽しめないし、作れない。だから、子ども専用のプレイヤーを与えることが重要なのは、遊びと同じだからだね。なんかさ、誰かと常につながっていないとだめという、最近の風潮が僕は少し気になるんだな。わからないことがあったときに自分で考えるという時間や環境というのが、人間にとって必要でしょう。今の人は、簡単に答えを求めすぎる傾向があるよね。子どもの頃の一人遊びというのはとても大事なことだと思う。その子のペースでその子なりに失敗したり成功したりして身につけていくことがきっとあるはずだからね」
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