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音楽家インタビュー・アーカイブ・シリーズ1 阿部 寛さん(ギター・バンジョー奏者)p.4
2001/05/18
(2007/08/27 改訂)
interview&text by Ikuko Asai
◆トラディショナル・ジャズこそ本当のジャズだ!

―阿部さんは、ギターの先生には一度もレッスンを受けたことはないのですか?

「一切ないですよ。誰にもついたことがない。だから、気軽と言うか、誰かに“先生”と言う必要がない」

―ギターの練習はずっと独学ですか?

「練習・・・うーん、若いうちは、毎日触って、身近に置いて・・・今でもとにかく毎日触っている。無理のない程度で曲を弾くことだね。僕は、はっきり言ってスケール練習などはしたことがない。もちろんスケールはできるよ。ただ、“テクニックを身につけたカッコイイギタリストになる”なんて本があるけど、あれは、やりたい人はやってもいいけど、“歌うメロディ”が弾けなくなってくるよ。パッと譜面を見た時に、スケールだけが頭に浮かんできちゃうようになると思う。速く弾けると一見上手く聞こえるんだよ。でも、聴いていて面白くも何ともない。それは自分のアイデアじゃないだろうと。頭のなかで思いついたメロディじゃなくて、単なる手ぐせじゃんとね。そういう人はけっこういる。だから、練習ではとにかく自分の好きな曲を弾くことだね」

―自分が好きな曲を、自分がイメージするように弾く。

「そう。スタジオ・ミュージシャンの仕事の現場では、“ここをこういう風な感じでやってください”と依頼者から言われますから、その依頼された意見を汲み取って、いかに弾けるかです。音楽の仕事は、対楽器だけじゃなくて、対人間。相手が望んでいることはなんなのかを察知するのがプロ」

―では、テクニック以外で勉強すべきことはなんだと思われますか。

「まず、テクニックなんて勉強する必要はない。いや、テクニックをつけてもいいけど、言葉と一緒で、言葉は知らなければ話せないから、ある程度勉強することが必要だよね。でも、言葉が多くなればなるほど人には伝わりにくくなる。たとえば短歌のような、いろんなことを凝縮した文化というのがあるでしょ。音楽も同じ。テクニック勉強して、速弾きなんてすればするほど内容がない音楽になっていく。基本的なテクニックは必要だけど、ある程度身につけたら、後は人の感性とか、気持ちとか、歌う様に弾くとか、別な感性を鍛えた方がいいよ。短いフレーズで人を満足させられるか、そういうことで自分も満足するわけだから、とにかくテクニックにおぼれてはダメ。簡単なことしかやってないんだけど与えるインパクトが大きい、僕はそっちになりたい。そういうほうの音楽性を身につけたい。だから、僕は自分の信念に基づいて、なるべく単純に、リズムを前面に押し出して、スイングさせることに力を注いでいるわけ。それができて、上手くリズムが合った時、演奏をしていると本当に楽しいんだよ。そんな風に、単純で且ついっぱいのものを相手に伝えられるサウンドを出せたらいいなと思う。そういうことを一生努力したいなと思っている。でも、これが一番難しい」

―その通りだと思います。

「僕がなんでトラディショナル・ジャズがいいかと言うと、これこそ本当のジャズだから。打ち合わせも何にもなく始めて、演奏している最中に打ち合わせしながら進行する。どう終わるか、誰もがおぼろげにやっている。それが本来のジャズだと思わない? 途中のキーも打ち合わせないんだよ。目配せでやるだけ。お互いの信頼関係と、お互いがそれだけのレベルに行ってないとこれはできない。それがジャズ」

―それがジャズだと私も思います。

「ジャズをやるんだったら、そこが究極の面白さだよね。一つの主題があって、この曲をやるぞと言ったら、最初のキーだけを決めて、後はたいした打ち合わせはしない。演奏しているうちにどんどん変わって行くから、毎回同じことはやらない、と言うよりもできない。決めごとの多いジャズとは全然違う。こういう演奏をするには、ものすごく経験がないとできない」

―難しいですね。集中力も半端じゃなく、メンバーみんなが同じレベルがあって、自分勝手もできないけど、自己主張もしなきゃいけないと言うイメージでしょうか?

「そう。それをやらなきゃいけない。でもそれが面白いの。だから、僕は一つの曲をやるにしても、いろんなキーでできるように練習している。本番の時、どんなキーで来るかわからないからね。その瞬間に3度上げたらいい展開になるかもしれない可能性があるのなら、できるようにしておかないと」

―それが音楽の本来の面白さですね。お話を伺っているだけで、ワクワクしてきました。今日はとても得がたいお話をたくさん聞かせていただき、ありがとうございました。

(おわり)

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