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音楽家インタビュー・アーカイブ・シリーズ1 阿部 寛さん(ギター・バンジョー奏者)p.2
2001/05/18
(2007/08/27一部改訂)
interview&text by Ikuko Asai
トラディショナル・ジャズは原点の音楽

―阿部さんは仕事では様々なタイプの音楽を演奏されてますが、なかでもトラディショナル・ジャズトラディショナル・ジャズとは?に傾倒されているそうですね。

「長い間いろんなバンドをやってたんだけど、ある時、遊園地でやっているバンドにエキストラで頼まれて行ったことがあるんですよ。そのバンドが日本で言うところのディキシーランド・ジャズのバンドだったんですね。そこではギターも弾いたけど、バンジョーを弾いてくれと頼まれた。最初は昔の音楽で古臭いし、当時の録音を聞いても録音状態も悪く聞こえるし(大変良い録音が多いことを後に知る)、ジャズといってもこれはカッコ悪いなあと思ってね。当時の僕はモダン・ジャズが好きでしたから。でも、週一回の1日三回ステージをやっているうちに・・・。ディキシーのレコードを貸してもらってどんどん聴くようになったら、なかには心動かされるものがいっぱいあるわけ。そこでよく考えてみたら、ジャズと言ったって最初からモダン・ジャズがあったわけじゃなくて、古いジャズがあっ、だんだんと、ビ・バップやクール・ジャズなどへ発展していき、今の音楽があるわけだからね。やっぱり古いものもちゃんとやっておいたほうがいいなと思ったんですよ。そうなると僕はとにかく資料をいっぱい集めちゃうタイプ。資料を集めて、いいバンジョーを模したり、調整したり、ついには楽器まで作り始めるようになった。それが20代後半ですね。1,2年の間にはもう20年も30年もトラディショナル・ジャズやってきた人よりも調べてしまう。国内にあるほとんどの資料や曲を集めたね」

―ギターよりもバンジョーの方が好きになった?

「今でもギターの音のほうがやっぱり好きなんですよ。だから今では“ギターを主にしたトラディショナル・ジャズ”をやっているのです。はまると勉強しますよね。知識が増える。資料も増える。トラディショナル・ジャズを演奏する仲間も増える。そうなると楽しい(笑)。それまで好きだったモダン・ジャズをやっているよりも、トラディショナル・ジャズの方が、やってて楽しいなと思うようになったね。トラディショナル・ジャズはリズムがメインにあるものだから躍動感があるのです。アメリカでは、“ジャンピン・ジャズ”とか、“ノスタルジック・ジャズ”、“クラシッ・クジャズ”などとも言われています。聴いているお客さんもリズムが躍動しているのが楽しいようですね」

―トラディショナル・ジャズを聴きに来るファン層というのはどんな感じですか?

「やはり年配の人が多いけれども、若い人もけっこういますよ。早稲田大学の“ニューオリンズジャズ研究会”と言うのもあるし、学生のなかには、昔のスタイルの音楽が好きな人がいて、そういう人たちが来てくれます」

―トラディショナル・ジャズって当時は作曲家と演奏家は同じ人だったのでしょうか。

「同じ場合もあるし、違う場合もある。でも作曲家が演奏家だよね。作曲だけする人はいない。作曲家はみんな何らかの楽器をやっていて、自分のバンドのために作曲していたわけ。録音のない時代だから、舞台のショーのために作曲してたんですね。そして、アメリカ中を周って生で自分の曲を聴かせていた。ニューヨークにはティン・パン・アレーと言う場所があるんだけど、そこではそういう曲の楽譜を出版して売っていたのです。集まっている人たちに曲を聴かせて楽譜を売っていた。ファンは楽譜を買っ来て自分で演奏を楽しむという時代。僕はトラディショナル専門ですから、なんでも持っています(笑)。 これが当時のティン・パン・アレーなどで売られていた本物の楽譜。たまにアメリカへ行って、レコードやこういう資料をいっぱい買ってくる。アメリカには専門のお店があって。ここにあるのは特に僕の好きな曲ばかりで、1920年代から40年代の楽譜だね。ビング・クロスビーが好きなので、彼のが多い。彼はティンパンアレーの楽譜1ティンパンアレーの楽譜2、だいたいのジャズのスタンダードを歌っている。だから好きにならざるを得ないと言うこともある。最初にクロスビーが歌っている曲というのが多いんですよ。でも、こういう当時の楽譜を僕がどうして集めているかというと、実は最初のメロディが何かを知りたいからです」

―最初のメロディ?

「つまり、作られた当時のオリジナルのメロディを調べるため。本物を見てから、自分でアレンジするわけ」

―ああ、なるほど。クラシックで言えば原典版の楽譜ですね。

「そうそう。それをやらないと、その曲を途中で誰かが違えて演奏しているかもしれないから。だから、元をちゃんと知ってから自分でアレンジすると言うのが、オリジナルの楽譜を求める一番の目的だね」

―トラディショナル・ジャズの曲はっていわゆるスタンダード・ジャズということですね。

「“スタンダード”ってどうしてそう言うか知ってる? 当時のティン・パン・アレーで、定期的に、つまり、スタンダードにリクエストが来る曲ということでジャズのスタンダードの曲を“スタンダード”と言うようになったんだよ。ピアニストに“またあの曲やってくれ”という注文が定期的にある曲ということだね」

―実は私もこのあたりの音楽は好きなんですよ。ちょうど私が中学生の頃にMGMの『ザッツ・エンターテインメント』が封ぎられて、それを観に行ったら、感動して、アメリカの古いミュージカル映画に興味をもちました。そのおかげで、アメリカのスタンダードを知りました。それから、レコードを探して、特に私はジュディ・ガーランドやフレッド・アステアが好きで。その後、日本のレコード会社各社がスタンダードの復刻版シリーズを出してというちょっとしたブームがあって、ジョー・スタッフォードやミルトレッド・ベイリーなどの女性ヴォーカルが好きになりました。もともとエルヴィス・プレスリーなどのロックンロールが大好きだったのですが、いわゆるアメリカのルーツ音楽、ブルース、カントリー、そしてスタンダードに興味をもつようになったんです。クラシックを勉強してたのですが、同じくらいにアメリカのルーツ音楽が好きになりましたね。古いアメリカ音楽には本当に魅力を感じます。

「クラシックとこういうアメリカのトラディショナル音楽が僕も本当に好きですね。クラシックはバンジョーをやってるおかげで、バンジョーを弾く人できちんと譜面が読めて(指揮)棒が見られる人ってあまりいないんだよ。だから最近、ガーシュインをやる時は必ず僕のところに依頼が来る。ガーシュインは必ずと言ってよいほど、バンジョーを書いているんですよ」


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