真価を見つめる

 生徒の答案からコンピューターが自動的に「弱点対策プリント」を作成し、これを繰り返し行って弱点を克服していくというシステム導入している塾はよくあり、30万とも70万ともいう問題から生徒1人ひとりに異なる弱点を的確に把握するといいます。極端に言えば当塾は、生徒が「ある問題をできるかできないか」には興味がありません。当塾では生徒に問題を与え解かせるとき、この問題を与えたら生徒は「このようなことを感じ取り、ここでつまずき、このような疑問をいだくだろう」と常に考えをめぐらせています。問題を解かせて、間違えたらその単元を重点的に行うなどという家でもできる作業を弱点克服なんて呼んでほしくありません。若い頃の学習は機械的な作業を多く強いられます。問題を解く、間違える、直す、また問題を解く。このような単純作業も大切です。当塾はそのような基本の繰り返しに加え、『問題によって考えさせられ、答えに近づく感触をつかむ学習』を理想としています。

 世界的な生態学者、宮脇昭さんの師であるドイツ人のチュクセン教授は研究者駆け出しの宮脇さんにこう言ったことがあります。

 「現代の人間には、2つのタイプがある。見えるものしか見ようとしないタイプが半分。この人たちは計量化できる要因をコンピューターにインプットして、その資料からいろいろな判断をしていく。経済効果を求めたり、一面的な対応をするには非常に効率がよく、モダンに見えるかもしれない。しかし案外長もちしないぞ。もう1つのタイプは、見えないものを見ようと努力するタイプだ。実は現代の科学技術で計量化でき、見通せるものはまだまだ少ない。むしろ我々はコンピューターにインプットできない見えないものを見る努力をこそするべきだ。それが生物の、そして人類の最後に残された英知ではないか。」

 チュクセン教授の下で、朝から晩まで植物を調べたり、土を掘って酸性化の状態を調べる毎日を回りくどく感じ、宮脇さんは「もう少し科学的な研究をしたい」と進言したことがありました。

 教授はじっと私の目を見ながら言った。「科学的な研究とは何か」
「たとえばボン大学でこの論文もあの論文も読みたい。またベルリン工科大学であの教授の話も聞きたい」と言うと、チュクセン教授は「お前はまだ本を読むな。書いてあるのはだれかが書いたやつの引き写しかもしれんぞ。お前はまだ人の話を聞くな。だれかのしゃべったことの又聞きかもしれないぞ。見ろ、この大地を。地球上に生命が誕生して39億年、巨大な太陽のエネルギーのもとに、人間活動によるプラスやマイナスの影響も加わった、ドイツ科学研究財団が何千万マルクの科学研究費をくれてもできない本物の命のドラマが展開しているではないか。お前はまず現場に出て、自分の身体を測定器にし、自然がやっている実験結果を目で見、手で触れ、匂いをかぎ、なめて、触って調べろ」と言われた。(鎮守の森/宮脇昭)

 先生が本当に生徒のことを考えているのは、答え合わせをしているときではなく、問題を作成あるいはその子にあった問題を選んでいるときです。答え合わせは、アルバイトやコンピューターでもできますが、問題の作成や選定は、これを与えたら生徒はこのようなことを考え、結果、何を得るだろうという予想する作業です。この予想する作業には目には見えない愛情がたくさんつまっています。当塾では生徒が何を考えながら問題に向かっているかを観察する時間を非常に大切にしています。そうしてじっくり見つめることによってはじめて、塾生一人ひとりの、頭のどの引き出しに何が入っているか、学んだ知識をどの程度使いこなせるかを知ることができます。さらに、生徒が塾の外へ出たときにどのように戦っているか、他者に対してどれだけ優位に立てるかもわかるのです。そこまで見るから、生徒に対して励ましやエールなどではなく、自信たっぷりの本音が言えるのです。それができるのが当塾の一番の強みです。(09’4月塾通信より)