独断的JAZZ批評 657.

KYLE SHEPHERD
スタンダード・ナンバーは一体どんな風に弾くのだろうか?
聴いてみたい 
"A PORTRAIT OF HOME"
KYLE SHEPHERD(p), SHANE COOPER(b), JONNO SWEETMAN(ds)
2009年8月 ライヴ録音 (fineART MUSIC : FAM4564-2)


南アフリカのピアニストだという。勿論、初めて聴くピアニストだ。
KYLE SHEPHERDは1987年のケープタウン生まれ。未だ23歳という若さだ。南アフリカというとすぐさまDOLLAR BRAND(現在名:ABDULLAH IBRAHIM)を思い浮かべるが、このKYLE SHEPHERDもその人の影響を受けているらしい。余談だが、KENNY BARRONの"PEACE"(JAZZ批評 147.)の中には何回聴いても聴き飽きることのない"SONG FOR ABUDULLAH"という美しい曲があるが、このABDULLAH IBRAHIMに捧げたものなのだろうか?
本題に戻ろう。このアルバムは音楽大学のホールでライヴ録音されたものだという。

@"A HYMN FOR US (MOVEMENT 2)" 
ピアノ・ソロによる美しいイントロ。ゴスペルと牧歌的雰囲気の混ざった演奏で、KYLEの独創性を感じさせる。
A"BIBLIOGRAPHY OF BONDAGE" 
連続して演奏に入る。内省的な演奏である。ブラシが多ビートを刻み、ピアノが一音ずつを丁寧に紡いでいく。そして、心地よいスイング感に満たされる。
B"BIOLOGICAL WARFARE (FRAGMENT)" 
同じく連続して突入していく。組曲みたいな仕上がりを狙っているのかも知れない。
C"SWEET ZIM SUITE" 
(僕には初めて聞く名前だが)南アフリカのテナーサックス奏者でありフルート奏者でもあるZIM NGQAWANAに捧げたチューン。ピアノ、ベースとドラムスの静かで緊密な会話が始まる。ライヴだというのに拍手ひとつ聞えない。空間に流れる静謐な空気の中に埋没していくような感じ。すると昂揚感が沸々と沸いてきて大きなうねりとなって襲ってくる。太い音色で野生を感じさせるCOOPERとのコンビネーションが良い。
D"COLINE'S ROSE" 
途切れなく演奏が続いていく。1989年7月23日にアスローンで、爆弾の爆発で死んだCOLINE WILLIAMSとROBBIE WATERWITCHに捧げた曲だという。おなじリフが何回となく繰り返されていく。違和感のない変拍子。
E"JAMO" 
これはピアニスト、JASON MORANに捧げた曲。やや抽象的な演奏が、突然、4ビートを刻む演奏にシフトする。1曲目からここまでは連続した演奏となっているようだ。
F"OS'SE MENSE" 
継ぎ目なしだけど、突然、演奏が変化するので、これはあえて継ぎ目なしでマスタリングされたものだろう。
G"ZIMOLOGY" 
H"DARK CITIES" 
内省的な陰影の深さがズシリ。
I"DIE GOEMA"
 最後は陽気にカーニバル。メンバー紹介のMCが入り、拍手が沸き起こって初めてライヴ演奏だと分かる。

このアルバムは内省的、思索的な印象が強い。ジャケットから受ける印象も含めて陰影が深い。こういう陰影の深さは聴く人を選ぶかもしれない。逆に言えば、これがKYLE SHEPHERDの個性であり、独創性なのだろう。タイプとしてはフランスのピアニスト、EDOUARD BINEAU(JAZZ批評 314.)に近いかもしれない。
このアルバムでは曲間のスペースが全くない。連続して次の曲に入っていくのと、曲想に大きな変化がないので全部を通して1曲という感じ。組曲みたいな扱いになっているのかもしれない。
そして、このアルバムではB(ZIM NGQAWANAのオリジナル)を除く全ての曲がKYLEのオリジナルだ。このピアニストは、スタンダード・ナンバーは一体どんな風に弾くのだろうか?聴いてみたい。
未だ23歳という若さを考えると更なる飛躍が楽しみ・・・ということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2010.10.19)

試聴サイト : http://www.kyleshepherd.co.za/



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