JOEL ZELNIK
今頃、日本の良いお客さんが12年も前の音源を買ってCDまで発売してくれて良かったとニヤついているかもしれない
"LIVE AT STEINWAY PIANO GALLERY"
JOEL ZELNIK(p), HARRY MAX(b), RICK CUTLER(ds)
1998年10月 ライヴ録音 (THINK ! RECORDS : THCD-137)

宣伝文句はこうである。「MOVEから42年、ジョエル・ゼルニック奇跡の新録」 
奇跡の新録とは何ぞや?新録といいながら、実際の録音は1998年の10月。何と12年も前の「新録」なのである。確かに、発売日は今年の7月らしいが・・・?何でも、"MOVE"はまぼろしのピアノ・トリオとして復刻され、話題をさらったそうである。僕は、この手の「幻の名盤」では、本当の「名盤」に出会ったことがないので、その"MOVE"を買ってみようという気にはならなかった。むしろ、「奇跡の新録」があるならば、それを聴いてみたいと思った次第だ。果たして、一体何が「奇跡」なのだろうか?これを検証してみたいと思った。

@"THE OPENER" 
これがSTEINWAYサウンドなのかしらん?少し硬質で研ぎ澄まされたサウンドという感じがする。ピアノはこれで良しとして、問題はベースである。僕の耳にはどうしてもエレキ・ベースの音にしか聞えないのであるが・・・。かつてCHRISTIAN JACOBの"LIVE IN JAPAN"(JAZZ批評 495.)でエレキだろうと書いたら、いやあれはアコースティック・ベースだったとライヴに居合わせた方からメールをもらったことがある。アコースティック・ベースでもエレキ・ベースのような音色に録音することが出来るとその時知った。だから、このアルバムのベース音とてエレキだと断言できないのだ。ビート感というかアタック感のないベースの音色が僕は嫌いだ。興が醒めるのだ。
A"OLD/NEW WALTZ" 
左手をスライドさせるときに弦を擦る音が入っているが、これはエレキ・ギターでは良くある音だ。だから間違いなくエレキ・ベースだと思うのだが、どうだろう?
B"HEY OLD FRIEND" 
僕にはピアノの演奏よりもベースのボゴボゴとした音色が気になってしょうがない。困ったことだ。
C"YOU'VE CHANGED" 
D"I HEAR A RHAPSODY" 
明朗快活なピアノだ。饒舌多弁に弾き倒すタイプだ。
E"HOW DEEP IS THE OCEAN" 
スローバラードも徐々に闊達なピアノに変化していく。
F"SO MANY STARS" 
G"DREAM DANCING" 
H"TURN OUT THE STARS"
 

「奇跡の新録」の意味が僕には理解できなかった。何が「奇跡」なのだろうかと首を捻るばかりだ。まあ、ありふれたピアノ・トリオであると思う。
「"MOVE"から42年ぶりの新録がこのアルバムということで、しかも、ディスクユニオンからのオファーに応えてお気に入りの音源を引っ張り出してきたのだろうか」とライナー・ノーツにも書いてあるので、そういう意味では「奇跡の新録」なのかもしれない。何と!オファーがあってから録音したのではなくて、今まで保管していた音源を引っ張り出してきて、それをCD化まで漕ぎ着けたらしいというのだ。これは「奇跡」に近いかも。
演奏はといえば、実に、アメリカ的な陽気でハイテンションのピアニストということが出来ると思うが、それだけのことだ。今頃、日本の良いお客さんが12年も前の音源を買ってCDまで発売してくれて良かったとニヤついているかもしれない。   (2010.07.24)

試聴サイト : 
http://diskunion.net/jazz/ct/detail/THCD137



独断的JAZZ批評 638.