BRAD MEHLDAU
美しさ、躍動感、緊密感に溢れ、さらには、静かに熱いインテリジェンスに包まれている
ジャズとかクラシックとかの垣根を越えた音楽
気宇壮大なオーケストレーションでもある
"HIGHWAY RIDER"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JEFF BALLARD, MATT CHAMBERLAIN(ds)
JOSHUA REDMAN(sax), Orchestra
2009年2月 スタジオ録音 (NONESUCH : 518655-2)

僕があるネット・ショップにこのアルバムの予約注文を入れたのが2月4日。そしてそのアルバムが届いたのが3月16日。予約注文を入れたときのCD価格が1792円だった。ほかのサイトでは3500円なんていう価格もあったので2枚組みと1枚CDの2種類が発売されるのだろうと思っていた。着いたアルバムを開いて見るとなんと2枚組みだった。何故、かくも値段が違うのだろう?ひとつには輸入盤と国内盤の違いがある。因みに、国内盤にはボーナス・トラックが付いているらしい。しかし、僕が1792円でゲットした輸入盤は今では2190円だ。これじゃあ、まるで「クロマグロ!」だね。時価ってやつだ。まあ、安いことに文句をつけるつもりはないけど、この価格差には驚くね。

このアルバムはBRAD MEHLDAUが2002年発表の"LARGO"の延長線として世に送り出したアルバムだ。前回の"LARGO"と同様プロデュースはJON BRIONだ。あれから8年。今回はどんな音楽を聴けるのかという期待感と格安価格で注文のボタンを押した。
各曲ごとの編成を書いてみた。オーケストラ参加の曲が7曲と多い。ここで言うオーケストラとはクラシックにおけるオーケストラを想像して欲しい。決して、ジャズにおけるビッグバンドではない。

DISK ONE

@"JOHN BOY" 
ベースレス・トリオ+オーケストラ。多ビートで始まるBALLARDのパーカッションがこれから奏でられる音楽の方向性を予感させる。既成の枠に捉われないような・・・。
A"DON'T BE SAD" 
5人+オーケストラ。どこにでも転がっていそうな曲だけど、これがとてもいい曲だ。「憎いなあ!」なんて思ってしまう。MELDAUが奏でるオルガンも味がある。さあ皆さん、これから始まるREDMANのテナー・サックスに酔い痴れましょう!
B"AT THE TOLLBOOTH" 
ピアノ・ソロ。
C"HIGHWAY RIDER" 
MATT CHAMBERLAIN(ds)とのトリオ。CHAMBERLAINの叩き出す多ビートが実に心地よい。ここではヤマハのシンセサイザーも使用されているらしい。
D"THE FALCON WILL FLY AGAIN" 
ベースレス・カルテット+大合唱。REDMANのソプラノ・サックスがぴかりと光る。最後は子供を含めたラ・ラ・ラの大合唱で終わる。
E"NOW YOU MUST CLIMB ALONE" 
オーケストラ。
F"WALKING THE PEAK" 
5人+オーケストラ。前曲から切れ目なしに連続して入る。壮大な音宇宙に一条の光を照らすREDMANのテナー・サックスとMEHLDAUのピアノが素晴らしい。

DISK TWO

@"WE'LL CROSS THE RIVER TOGETHER" 
5人+オーケストラ。12分を超える壮大なオケーストレーション。
A"CAPRICCIO" 
GRENADIERを除く4人+手拍子。パーカッションと手拍子をバックに踊るピアノとソプラノ・サックスが素晴らしい。
B"SKY TURNING GREY (FOR ELLIOTT SMITH)" 
CHAMBERLAINがドラムスに入ったカルテット。曲のよさがきらりと光る。16ビートでスイングしている。シンプルにして乗りの良い演奏に花丸。こいつぁ、良いねえ。このアルバムのベストかな?
C"INTO THE CITY" 
オリジナル・トリオ。最初はピアノとドラムスのデュオで定型パターンを繰り返す。それにベースが加わり分厚い演奏になっていく。圧巻はBALLARDのドラミング。
D"OLD WEST" 
REDMANとMEHLDAUのデュオ。フリー・テンポのインタープレイで始まり、イン・テンポに。二人の心通う会話が素晴らしい。REDMANのソプラノ・サックスが良い音色だ。続くMEHLDAUのソロには背筋がゾクゾクしくる。この演奏もこのアルバムの一押しに挙げたい。
E"COME WITH ME" 
オリジナル・トリオ+REDMAN。少し抽象画的な色彩を帯びながらも迫りくる躍動感と昂揚感。
F"ALWAYS DEPARTING" 
オーケストラ。圧倒する重厚なアンサンブル。
G"ALWAYS RETURNING"
 5人+オーケストラ。前曲から切れ目なしに5人の演奏が加わる。さらに圧倒的な迫力と昂揚感が醸成されていく。まさにオーケストレーションのクライマックスが実現する。

全曲、MEHLDAUのオリジナルだというが、まず、曲のよさが光る。
ピアノ・ソロからデュオ、トリオ、カルテット、クインテット、さらにプラス・オーケストラというあらゆる編成を楽しみながらもひとつのストーリーとして繋がっている。
美しさ、躍動感、緊密感に溢れ、さらには、静かで熱いインテリジェンスに包まれている。ジャズとかクラシックとかの垣根を越えた音楽。気宇壮大なオーケストレーションでもある。聴けば聴くほど、聴き込めば聴き込んだほど味わい尽くすことの出来るアルバムということで、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
そういえば、僕はこのアルバムを聴きながらMILES DAVISとGIL EVANSの"SKETCHES OF SPAIN"を思い出していた。   (2010.03.26)


試聴サイト : http://www.youtube.com/watch?v=6X4zJDS_teg&feature=related



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独断的JAZZ批評 615.