独断的JAZZ批評 601.

GARY PEACOCK / MARC COPLAND
デュオに拘らないのならB. STEWARTの参加した"MODINHA"の方をお勧めしたい
"INSIGHT"
MARC COPLAND(p), GARY PEACOCK(b)
2005年5月 & 2007年10月 スタジオ録音 (PIROUET : PIT3041)

このアルバムは2005年の5月と2007年の10月、2度にわたって録音されたPEACOCKとCOPLANDのデュオ・アルバムだ。
このPEACOCKとCOPLANDという組み合わせはトリオでもあり、それにはドラムスとしてBILL STEWARTが参加した傑作、"MODINHA"(JAZZ批評 396.)がある。そこではBILL STEWARTが万華鏡のような多彩なドラミングを披露している。この"MODINHA"は2006年3月の録音であるから、この"INSIGHT"の録音の合間に録音されており、同一の流れの中で録音されたアルバムだと見て良いだろう。

@"ALL BLUES" 
録音当時69歳(今年74歳)になるPEACOCKのベース・ワークが素晴らしい。老いてますます盛んとはこういうのを言うのだろう。しかし、凄いねえ!こんなに力強いベースを70歳になっても弾けるのだから!
A"THE WANDERER" 
二人の共作。
B"BLUE IN GREEN" 
M. DAVISの曲ともB. EVANSの曲とも、共作ともいわれている曲。「神秘的な」と表現したくなる静謐な音楽ではあるが徐々に高揚感を増していく。
C"RUSH HOUR" 
共作。
D"RIVER'S RUN" COPLANDのオリジナル。ストーレートにいかにないもどかしさがある。同じリフを繰り返すがこれが観念的に聞こえる。
E"MATTERHORN" 
共作。決して燃え上がることのない冷徹な演奏。
F"THE POND" 
PEACOCKのオリジナル。これも観念的な暗いテーマ。
G"GOES OUT COMES IN" 
共作。延々と続く暗い演奏。いつになったらスカッとさせてくれるのかと思ってしまう。丁々発止のインタープレイがあるわけでもなく心をゆする美しさに溢れているわけでもない。終わり2分はイン・テンポになって面白い。
H"LATE NIGHT" 
共作。
I"CAVATINA" 
美しいテーマ。やはり曲が良いとアドリブも良いが、あくまでも内省的だ。
J"IN YOUR OWN SWEET WAY" 
D. BRUBECKの明るいテーマ。何かホッとするなあ。こういう明るさがどの曲にも欲しくなる。こういう躍動する演奏なら指でも鳴らしたくなるというものだ。PEACOCKのベース・ワークは力強く歌っている。未だその意気衰えず。
K"BENEDICTION" 
共作。このデュオはお見事。二つの歯車がきっちりと噛み合わさっている。
L"SWEET AND LOVELY"
 スタンダード・ナンバー。テーマを生かしたアドリブだ。それにつけても69歳のPEACOCKのベースは音色といい、奏でるフレーズといい、これは素晴らしい。まあ、このベースを聴けただけでも価値ありだ。

PEACOCKとCOPLANDの書くオリジナル曲はどの曲も暗くて内省的。共作と書いた曲はGを除いて、どれも2分〜3分という演奏時間。曲を書いたというよりは、すべて即興のインタープレイかもしれない。
全体を通しての印象は内省的なテーマが多くほどほどに疲れ、飽きる。特に二人のオリジナルで占めたC〜Hは中だるみ。前半の3曲と後半の4曲は良いと思う。
明るいキャラクターのBILL STEWARTが参加したトリオの方がずっと聴き易いし演奏自体も生き生きとしている。デュオに拘らないのならB. STEWARTの参加した"MODINHA"(JAZZ批評 396.)の方をお勧めしたい。   (2010.01.16)

試聴サイト : http://www.pirouetrecords.com/home/album.php?release=PIT3041