RAINER BOEHM
あくまでも、テーマあってのアドリブなのだ
"RED LINE"
RAINER BOEHM(p), AIDAN O'DONNELL(b), JEFF HIRSHFIELD(ds)
2008年6月 スタジオ録音 (JAZZ4EVER : J4E 4796)


ピアノのRAINER BOEHMのアルバムとしては2006年録音の"OUT OF STANDARDS"(JAZZ批評 451. このアルバムではBOHMとなっていた)を紹介している。聞き古されたスタンダード・ナンバーばかりを集めたアルバムで、タイトルに示すように一部の曲では"OUT"した展開が面白かった。全体を通した感想としては意外に真っ当な演奏だったと書いた。
それに対して、今回のアルバムは全てをオリジナルで固めている。更には、前作からメンバーが一新された。さて、どんな味付けがなされたのであろうか?
このBOEHMのトリオも、最近、何かと話題になることの多いドイツのグループだ。

@"IF" 
少し牧歌的な匂いのするテーマとアドリブ。どこかで聴いたことがあるような・・・?そういえば、デンマークのピアニスト・PETER ROSENDALの"LIVE AT COPENHAGEN JAZZHOUSE"(JAZZ批評 162.)あたりに雰囲気が似ているかなあ?牧歌的な雰囲気と美しさの両方が味わえる。太いベース、センシティブなブラッシュに乗ってピアノが歌っている。時折見せる力強い左手のアタックが印象的。この演奏はとても面白いと思う。
A"INTERLUDE : WHAT'S THAT?! " 
抽象的色彩の1分間の間奏。
B"RED LINE" 
テーマにもうひとつ親しみやすさがないせいか、アドリブもすっきりしないままに終わってしまう。
C"CARILLO" 
内省的な演奏で始まり2分過ぎからインテンポになる。ブラッシュ・ワーク主体の演奏で4ビートを刻んでいく。シンプルにスティックでチンチカ、チンチカとシンバルを刻んだ方が良かったのではないか?
D"BEING SAFE?" 
後半部に同じリフを繰り返しそれをバックにドラムスがソロを執るが、リフそのものがリズミカルでなくて少々ダレル。
E"INTERLUDE : KLEINER LUSTIGER LECKERBISSEN" 
同じく抽象的色彩の間奏。まあ、敢えて2度までも入れる必要もなかったとおもうが・・・。
F"XY" 
全体にもいえることだが、どの楽曲も面白くない。何年経とうがスタンダードには成りえないだろう。曲が詰まらないとアドリブも活き活きとしてこない。「いいテーマにいいアドリブあり」と僕は常々思っている。
G"UNTITLED" 
テーマを奏でる思い切りの良いO'ONNELLのアルコがいいね。アルコの高まりとともにピアノが昂揚感を増してくる。
H"IF (REPRISE)" 
@と同じ曲をスタイルを変えて演奏している。テンポを少し速くしており、ドラムスはスティックを使用している。最後はフェード・アウト。
I"UNSTET" 
全体に地味な曲が多いし、ド派手なインタープレイなどもなく実に落ち着いた雰囲気だ。その分物足りないと思ったり、メリハリに欠けると思うリスナーも多いかもしれない。

全ての曲がメンバーのオリジナルという点で、これが良かったのかどうか?@とGは面白いと思うが、それ以外の楽曲が概して詰まらない。テーマ自体にメロディアスな部分が少なくて、とても口ずさめるものではない。これではねえ・・・。全曲をオリジナルで占めた意欲は買うが、結果が伴わない。やはり、数曲スタンダードを入れたほうが無難だったかもしれない。
いかにアドリブ重視のジャズとは言え、アドリブは所詮、テーマの発展系だ。そのテーマが詰まらなければアドリブも推して知るべし・・・と僕は思っている。決して、アドリブ、先にありきではないと思っている。あくまでも、テーマあってのアドリブなのだ。   (2009.09.19)

試聴サイト : http://www.myspace.com/rainerboehm



独断的JAZZ批評 582.