OLIVIER ANTUNES
もし何かが欠けているのだとしたら、それはミュージシャンとリスナーがエモーションを共有しているという一体感かもしれない
"LIVE IN JAPAN"
OLIVIER ANTUNES(p), JESPER BODILSEN(b), MORTEN LUND(ds)
2008年10月 武蔵野スイングホール・ライヴ録音 (MARSHMALLOW RECORDS : MMEX-129-CD)
6月26日のMAGNUS HJORTH, PETTER ELDH, 池長一美トリオの御茶ノ水「ナル」でのライヴの興奮が未だ覚めやらぬ。つくづくと「ジャズを聴くならライヴだ!」と思った。プレイヤーと時間と空間を、それに加えてエモーションを共有しているという一体感があった。70〜80名くらい収容のライヴ・ハウスでは、リスナーもプレイヤーの一人という一体感が共有できるのが嬉しい。
翻って、このアルバムであるが、武蔵野スイングホールでのライヴ盤である。今までに何回も足を運んだ180名収容のミニ・ホールである。かつてCARSTEN
DAHLやGIOVANNI MIRABASSI, KASPER VILLAUME, STEVE KUHNなどをここで聴いている。
この2008年のANTUNESのライヴはチケットをゲットできなかった。電話予約の早いもの順という原始的(?)予約システム、しかも、受付日が平日という悪条件で運悪く入手できなかった。確か、このときは数日後の横浜杉田劇場のチケットが手に入って出掛けた記憶がある。サポート陣が共通でピアノにANTUNESとHENRIK
GUNDEの二人が出演する2ステージ制だった。
@"ALL OF ME" 先ずはミディアム・テンポの快い4ビートで始まる。BODILSENの野太いウォーキングがいいね。磐石のサポートに乗ってANTUNESが楽しげに歌っている。ベースとドラムスの録音バランスもとても良い。この武蔵野スイングホールは場所柄というべきか品の良い中年客が多いので実に生真面目な声援の仕方だ。あの雰囲気ではそうそう大声で声援を送るわけにも行くまい。
A"YOU AND NIGHT AND THE MUSIC" LUNDのシンバル音が実にいい音だ。ここではANTUNESが少々饒舌といえるほどのピアノ・プレイを見せている。8小節交換ではLUNDが多彩なドラミングを見せるが拍手がまばら。このホールではハーフタイムの休憩時に発泡酒を1本無料配布することが多いが、もっと盛り上げるためには2〜3本は必要だね。
B"HI LILI HI LO" ANTUNESらしい非常にリリカルな演奏。軽いブラッシュ・ワークに乗って3拍子を刻んでいく。BODILSENのソロがいいねえ。アコースティックないい音している。このベーシストは常にポーカーフェースだけど、時に感情を剥き出したほうが迫力あっていいと思うのだけど・・・。
C"MILESTONES" アップ・テンポでコロコロと突き進むがピアノのアタックがもっと強くてもいいのでは?LUNDのドラム・ソロを経てテーマに戻る。LUNDのドラミングは以前に比べると大分逞しくなった。リスナーも大分盛り上がってきた。
D"NATURE BOY" この曲はきっとANTUNESの十八番とも言える曲になるだろう。最もプレイ・スタイルに合致した曲ではないだろうか。遡ること半年前の2008年4月録音のアルバム"ALICE
IN WONDERLAND"(JAZZ批評 504.)でも素晴らしい演奏を披露しているが、この曲は、是非、STEFANO BOLLANI "MI
RITORNI IN MENTE"(JAZZ批評 210.)の演奏と比較していただくと面白いと思う。サポート陣はいずれもBODILSENとLUNDで、ピアノが変わると演奏もこんなに変わるという好例。
E"WHEN LIGHTS ARE LOW" 最後もミディアム・テンポのスタンダード。3人が大らかに歌っていていいね。
近頃ではコンサート・ホールでもアルコールの販売が珍しくない。ワインやウィスキーまでも用意されている。この武蔵野スイングホールは公共性の高いホールなのだろうが、缶ビールの無料配布が出来るくらいならアルコール類の販売をしても良いのでは?
ジャズみたいな音楽は乗りが大事だから、熱気を醸成するためにもアルコール販売を実施しても良いと思う。
このアルバム、3人はなかなか好演していると思う。もし何かが欠けているのだとしたら、それはミュージシャンとリスナーがエモーションを共有しているという一体感かもしれない。もしかしたら、ライヴ録音をするということでリスナーも緊張していたかもしれない。 (2009.07.04)
試聴サイト : http://www.marshmallow-records.com/