AKIKO GRACE
美しさと、凛とした強さがある
"PIANORIUM"
AKIKO GRACE(p)
2007年5月〜2008年4月 スタジオ録音 (SAVOY : COCB-53787)
このアルバムは、AKIKO GRACEのデビュー5周年記念企画として2007年5月から毎月1曲ずつオリジナルを紹介するというジャズ界初の配信プロジェクトで生まれたという。四季折々の心象風景が盛り込まれた、まさに、書下ろしとも呼ぶべき作品集である。
先に発売された"GRACEFUL VISION"(JAZZ批評 493.)は「切れる女」から「大人になった」AKIKO GRACEの一面を見せてくれた。この"GRACEFUL
VISION"からHとKの2曲がピックアップされている。トリオ演奏とソロを聴き比べてみるのも面白い。
@"SPACETIME WATER" 「真空の水」 美しくて清々しいピアノの音色で始まる。まるで環境音楽のようでもある。すると一転して、激しいパッセージが飛んでくる。そして、強く、激しく躍動し始めるのだ。低音部から中音部への音の充実度はまるでBRAD
MEHLDAUのようでもある。ああー!素晴らしい!とため息の出る7分と11秒。
A"AERIAL GARDEN" 「空中庭園」
B"IN REMINISCENCE WHEN SUMMER IS ENDING" 「夏の終わりの海の沙汰」
C"MUSICA SPUMANTE"
D"WALTZ OF SUNFLOWER, THE FIRMAMENT RESONATES WITH" 「ひまわりのワルツ」
E"HOP, HOP, RAINDROP" 「雨上がりに」 雨の雫が飛び跳ねるようだ。透明な空気感や瑞々しさが伝わってくる。ジャズの躍動感が息づいている小品の2分と57秒。
F"MIYABIYAKA" 「雅やか」
G"MAPLE LEAF TRAVELS" 「紅葉舞う、景色広く」
H"SILVER MOON" 「白銀の月」 美しさに加え、壮大なる音宇宙を構築してみせた4分と13秒。
I"FAIRY OF SOUNDLAND" 「おとぎの国の音使い」
J"QUIET SNOW" 「ちら雪」
K"EVANESCENCE OF SAKURA" 「桜は夢」 "GRACEFUL VISION"でも演奏されていた曲。美しいテーマ。桜を愛でる日本人にしか作れないような曲想が良い。花びらが風に舞うその姿が美しいと思える4分と59秒。
このアルバムはAKIKO GRACEが真っ白なキャンバスに想いのままを想いのままに描いた絵でもあるし、静かに詠ったポエムでもある。筆を、あるいは、ペンをピアノに持ち替えただけなのだ。
各曲に日本語のタイトルがついているが、いずれも日本の季節に合わせた心象風景を歌ったものだろう。全ての演奏に美しさと、凛とした強さがある。
このアルバム、ジャズというジャンルで括ろうとするとジャズらしくない。クラシックともとれるし、環境音楽ともとれる。やはり、ジャンルを超越した音楽として捉えたら方が良いと思う。同時に、聴きこむほどに味わい深いアルバムだと思うのだ。そして、日本人の琴線を刺激するアルバムだと思う。
このアルバムはピアノ・ソロであること、そして、日本の四季折々を表現したという点で多分に叙情的であるが、そこに女性的なひ弱さはない。むしろ、芯の強い頑固なまでのひたむきさを感じさせる。まさにAKIKOワールドとも呼べるものだ。
特に、@とE、HとKはジャズとしての醍醐味が加味されており、少なからず感動させてくれるに違いない。僕はこの4曲をもって、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加したいと思った。 (2009.02.06)
試聴サイト : http://listen.jp/store/album_cocb53787.htm