INAKI SANDOVAL
「こんなことも出来ます」的なアルバムになってしまった
"USAQUEN"
INAKI SANDOVAL(p), HORACIO FUMERO(b), DAVID XIRGU(ds)
2008年8月 スタジオ録音 (AYVA MUSIC : AYVA 044)

昨年の丁度、今の時期、「2007年 ピアノ・トリオ・ベスト 3」の選定をしていた。その3枚の中にINAKI SANDOVALの"SAUSOLITO"(JAZZ批評 401.)を入れた。あれから1年。
このアルバムはわずか4日ほど前に入荷したばかりで、今年、2008年のベスト・アルバム選定の時期には間に合わなかった。
前作から待ちわびていたアルバムでもある。前作では、何といってもその瑞々しい歌心に感銘を受けた。
今回のアルバムは前回からドラムスのメンバーが替わった。PEER WYBORISからDAVID XIRGUへの変更だ。PEER WYBORISは先の"SAUSOLITO"のレコーディングの数日後に亡くなっている。
Jはその彼に捧げた曲だという。
一方、前作のキーマンだったベースのHORASIO FUMEROは今回も堅実なプレイを披露している。

@"KAIZEN" 
ちょっと変わったタイトル。まさか「カイゼン」、「改善」ではないよね?リリシズム溢れる演奏でSANDOVALらしいといえば、らしいけど・・・。
A"THE JEWEL" 
これもリリシズム溢れる曲だが、アドリブでは4ビートを刻みだす。3者のコンビネーションという点でもうひとつという気もする。ドラマーが交代したことによるためなのか、未だ不明ではあるが・・・。
B"HOTEL EXISTENCE" 
4拍子かと思いきや半拍足りなくて裏に入ったり、やはり、変拍子?一体どうなっているのか譜面を見てみたい。このことばかりが強く印象に残り、頭から離れない。
C"DON'T FORGET TO SMELL THE ROSES" 
何か足りないような変拍子?サビの部分は4ビートだけど、良く分からん!ただ、どうしても何か足りないような不快感が残ってしまう。「隔靴掻痒」とはこういう曲にぴったりだ。派手目なドラミングは無駄に手数が多いという感じでスカッとしない。
D"TORCACITA" 
ジャズ風ど演歌。
E"CABURE" 
カリプソ風のリズムに乗った暗くて明るい変な演奏。
F"ALEJO'S PUB" 
珍しく元気の良いテーマだけど、荒っぽい印象を拭えない。
G"USAQUEN" 
これもBと同様に半拍足らないので裏に入ったりする。長年ジャズを聴いてきた習慣でついつい拍子をとってしまうのだが、これは止めたほうがいい。頭がそっちの方ばかり向いて純粋に演奏を楽しむという体勢にならないから。
H"COPLA PARA ALBERTO" 
I"EL DETECTIVE FUMERO" 
J"PEEWY" 今は亡き前ドラマーPEER WYBORISへのトリビュート。やはり、ドラマーはWYBORISの方がピタッと嵌っている。
K"INVENCION A 3 VOCES" 
L"LUNA LLENA" 
前アルバムにも入っていた曲。瑞々しさがまるで違う。勿論、"SAUSOLITO"の演奏がお勧め!
M"USAQUEN - PIANO SOLO" 


その瑞々しい演奏で世間を「あっ!」と言わせた"SAUSOLITO"に比べて、楽曲から演奏まで凝りに凝った印象。新しいINAKI SANDOVALを聴かせたいと思ったのだろうか?結果的に「瑞々しさ」、「間」、「歌心」という長所を打ち消し、アルバム全体の瑞々しさも失った。もっと普通に単純明快にやれば、それが一番良かったと思うのだが、「こんなことも出来ます」的なアルバムになってしまった。捨ててしまうほどではないが、期待していただけに非常に残念。
初めてINAKI SANDOVALを買おうという方には迷わず、"SAUSOLITO"(JAZZ批評 401.)をお勧めしたい。
    (2008.12.21)

試聴サイト : http://www.myspace.com/inakisandoval



独断的JAZZ批評 520.