CHICK COREA
中国雑技団のアクロバットを見ているようだ
"DR. JOE"
CHICK COREA(p), JOHN PATITUCCI(b), ANTONIO SANCHEZ(ds)
2007年4月 スタジオ録音 (STRETCH : UCCJ-3017)

昨年の12月に発売になったアルバムで単品売りと同時にボックス売りでも販売し、日本のジャズ・ファンの顰蹙を買ったアルバムでもある。なにしろ、その"FIVE TRIO BOX"にはそのボックス買いでしか手に入らないアルバムが最後の最後に用意されていたというのだから、1枚でもばら売りで買ったユーザーはダブルで買う羽目になり、それは怒って当たり前のことだろう。まあ、こういうあざとい商法がまかり通るのだからジャズ・ファンもなめられたものだ。この5枚のCDの中でも比較的評判が高かったのがこのアルバムで、このシリーズの第1弾にもあたる。僕は、当初からボックスを買うつもりがなかったので、その被害は免れた。
しかし、CHICK COREA という人は次から次と趣旨換えして、いろいろなアルバムを出すものだ。COREAは僕のジャズ・ライフを決定付けた人だからあまり文句を言いたくはないが、最初が一番よかった。若かりしころのCOREAのピアノは今、聴いても瑞々しい。"NOW HE SINGS , NOW HE SOBS"(JAZZ批評 1.)がその代表作だ。一方で、このアルバムを未だに超えられないというジレンマを持っている。

@"ILLUSION" ピアノのイントロを聴いた瞬間、これはいいなあと思った。次いで、3者が合流する。しかし、進むにしたがって、難しいジャズになっていく。テーマが凝りに凝っており、単純明快とはいかない。それでもCHICKのピアノがソロを取って4ビートを刻んでいる間はそれなりにいいのであるが、ベース・ソロのあたりから怪しい雰囲気になってくる。後半にはリフを繰り返している間、ドラムスのソロとなるがこの繰り返しが必要以上にしつこい。で、終わるころは出だしのいいなあという思いは完全に消滅している。とにかく、テーマが難しくて凝り過ぎなのだ。アレンジのし過ぎともいえるだろう。そういう難しいアレンジを難なく弾いている3者の力量は凄いと思うが、凄いと思うけどいいなあとは思わない。感動もしない。人間くささというか暖かさというか、そういうものが足りない。無機質のにおいなのだ。
A"DOCTOR JOE" 以降、聴くのが苦痛だ。
B"MYSTIC RIVER" 
C"ZIG ZAG" 
D"BLUES FOR DALI" 
E"CREPUSCULE WITH NELLIE" 
F"1% MANTECA" 
G"PROMISE" 
H"M. M." 
I"FOURTEEN"
 

世間では、あるいは、ネット上ではこのアルバムの評価はそれなりに高いようだ。僕はこのアルバムを時々出しては聴いてきた。しかし、いつも途中で頓挫してしまう。やはり、楽しくないのだ。心がワクワクしてこないのだ。そんな状態だから、2ヶ月も経ってもレビューを書こうという気にはならなかった。とにかく、購入したアルバムは良いと悪いとに限らず全てレビューを書くと決めているので、自らを奮い立たせて書き始めた次第だ。
全てにわたって、手を変え品を変えの類で、結果的にそのことがCOREA自身のアイデンティティのなさを露呈してしまっている。繰り返すが、音楽的にこういう「技」は凄いのだと思う。技術的には世の平均的ピアノ・トリオを凌駕圧倒しているのだろう。例えは悪いかもしれないが、ちょうど、中国雑技団のアクロバットを見ているようだ。
前回のレビュー、"SUPER TRIO"(JAZZ批評 331.)に続いて、今回も同じような印象を持った。「凄い!とは思うけど、感動した!、美しい!という賛辞は献上し難い」。テクニシャンに待ち構える大きな陥穽。そういう印象なのだ。   (2008.02.09)



独断的JAZZ批評 466.