TOM HARRELL / DADO MORONI
ジャズっていいなあと思える瞬間だ!
"HUMANITY"
TOM HARRELL(tp, flugelhorn), DADO MORONI(p),
2007年4月 スタジオ録音 (ABEAT RECORDS : AB JZ 051)
トランペットとピアノのデュオ・アルバムというと、ENRICO RAVAとSTEFANO BOLLANIの"TATI"(JAZZ批評 308.)を2年前に紹介しているが、これは僕の性には合わなかった。デュオではないが変則トリオのG.
MIRABASSI(p)、FLAVIO BOLTRO(tp)とGLENN FERRIS(tb)の"AIR"(JAZZ批評 164.)は躍動感と高揚感に満ちたすばらしいアルバムだった。
トランペットではないがアルトサックスのGEORGE ROBERTとKENNY BARRONのデュオ"PEACE"(JAZZ批評 147.)も素晴らしいアルバムで、このDADO MORONIもこのアルバムの影響を受けているのではないかと思うほどだ。
@"INTRO" 二人の会話が入り、試し弾きのやり取りが収録されている。こういう入り方を聞くとMILES
DAVISの"RELAXING"を思い浮かべるね。
A"THE NEARNESS OF YOU" 何とも切ないHARRELLのホーン、そっと寄り添うMORONIのピアノ。ジャズっていいなあと思える瞬間だ!MORONIのピアノは多少饒舌気味だが、ベースとドラムスの穴を埋めるにはこのくらい弾かないといけないだろう。フレージングなんかにもKENNY
BARRONの影響が見て取れる。MORONIのピアノはある時は程よく跳ねて、ある時はしっとりと歌って、そして、ある時はガツンと重低音が炸裂して、こいつぁ、いいね。8分と50秒。
B"LOVER" R. RODGERSの曲。8分と20秒
C"I HEAR A RHAPSODY" 曲は違うが、先に紹介したKENNY BARRONの"PEACE"に収録されている"SOFTLY
AS IN A SUNRISE"の演奏をも彷彿とさせる。MORONIのピアノが躍動し乗りまくっている。重低音の左手と右手の妙が味わえて、硬質でメリハリの利いた6分と20秒。
D"HUMANITY" タイトル曲にもなっているE. MORONIのオリジナル。(E. MORONIって誰だか分からない。で、ネットで調べてみた。実は、EDGARDO
DADO MORONIが正式名のようだ。従って、E. MORONIとなる。)フリー・テンポからミディアム・テンポに移ると同時にHARRELLのペットがテーマを奏でる。ナチュラルで優しさを内包した演奏が心を暖める。6分と20秒。
E"DARN THAT DREAM" J. VAN HEUSENの名曲をしっとりと歌い上げる。ここではMORONIのバッキングに注目いただきたい。ソロイストを活かしつつ、自己主張もしっかりする。そして、音の隙間をきっちりと埋めていく・・・そんなピアノだ。8分と40秒。
F"POINCIANA" グルーヴ感のある定型パターンで始まる。ホーンは1曲丸ごと全部吹いているわけではないから、それ以外はピアノ・ソロってこと。だから、ソロを弾きこなすだけの力量がないと成り立たない。その点、このMORONIは素晴らしいピアニストでソロでも飽きさせることがない。加えて、バッキングの引き出しも一杯あるので言うことがない。ピアノが圧倒する8分と30秒。
デュオの割りには1曲あたりの演奏時間が長い。どの曲も6分以上9分以内だ。これだけの演奏時間をホーンとのデュオで埋め尽くすというのは、それだけの力量がないと埋めきれないものだ。その点、この二人は絶妙なインタープレイで飽きさせることがない。
このアルバムのライナー・ノーツには、ENRICO PIERANUNZIが賛辞のコメントを寄せているが、けだし尤もだ。 次にはMORONIのピアノ・トリオを聴いてみたいと思いつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。
因みに、MORONIは1962年のイタリア生まれというから今年45歳になっている。丁度、脂ののっている頃かも知れない。
余談だが、OSCAR PETERSONが23日、腎不全のため他界したという。享年、82歳だったという。また一人、ジャズの巨人が世を去った。冥福を祈りたい。合掌。 (2007.12.26)