DIRK BALTHAUS
何回も繰り返し聴いているうちに嵌り込んでしまうような良さを持っている
"ON CHILDREN'S GROUND"
DIRK BALTHAUS(p), JACKO SCHOONDERWOERD(b), JOHN ENGELS(ds)
2002年7月 スタジオ録音 (MUNICH RECORDS : BMCD 338)
DIRK BALTHAUSは1965年のドイツ生まれという。現在42歳。このアルバムは37歳の時の録音となる。今はオランダのアムステルダムを活動の拠点としているらしい。
全11曲のうちBALTHAUSのオリジナルは@、A、D、E、I、Jの6曲。
@"HYMN" ヨーロッパとアメリカのジャズの中間を行くようなスタイル。過度に甘すぎず、過度に泥臭くもない。
A"WHOLE TONE TUNE" 面白いテーマだと思う。アドリブでは4ビートをミディアム・テンポで刻んでいく。小気味の良いタッチで3者のバランスも良い。このピアニストがあちこちで引っ張り凧というのも分かるような気がする。ピアノに続くベースとドラムスのインタープレイも楽しめる。
B"CLUBLIED" ベースのソロでスタート。テーマはさっぱりとした美しい佳曲。透明感のあるピアノタッチであるが冷たさは感じない。
C"THE SONG IS YOU" JEROME KERNの書いた曲。いきなりアドリブから始まる。テーマは最後のワンコーラスで出てくる。切れのあるアップ・テンポが実に心地良い。粒立ちの良い右手に味付けの良い左手のバッキング。躍動するベースの4ビートに力強さと小気味よさをミックスしたドラミング。これはいいね。知らず知らずのうちに両手がリズムを刻んでいる筈。
D"ON CHILDREN'S GROUND" 澄み切った高原の空気のように爽やかなテーマ。続いてベースがソロを執るが、ピアノのバッキングがお洒落でセンスの良さを感じる。ドラムスのJOHN
ENGELSはなかなか良いプレイヤーだ。ブラッシュ・ワークといいシンバリングといい弱過ぎず、強過ぎずで絶妙なバランスを保っている。オランダの重鎮とも言われ、2006年には横浜ジャズプロムナードに主演もしている。ピアノ・トリオにはこういった配慮の利いたドラマーが欠かせない。ジャケットの写真を見る限り、サポートの二人はベテランに見える。最後にリズム・チェンジして終わる。
E"NO RED MOON" スロー・バラードでありながらも静かに躍動しているのが良い。ベース・ソロではアルペジオ風に細かな指使いをみせるが、これはご愛嬌だ。
F"LENNIE'S PENNIE'S" 頭から軽快な4ビートで始まる。BALTHAUSのアドリブではシングル・トーンのピアノ・プレイをみせる。徐々に高揚感が増してきて切れのあるプレイと左手のバッキングも加わった演奏にシフトしていく。ベースとドラムスの8小節〜4小節交換を経てテーマに戻る。
G"MY IDEAL" 9/4で演奏されている。いつも4/4で聞いているこの曲を変拍子にしただけでまるで印象が違う。テーマでは何か多すぎるような足りないような違和感が付きまとうのだが、アドリブに入るとこの違和感がなくなる。こういう難しい演奏をこともなげに演ってしまうプロというのは流石だ。そして、これは悪い演奏ではない。
H"BITTERSWEET" ベースとピアノのユニゾンで始まるグルーヴィなテーマ。ここでは3者が強いアタック感を前面に出して演奏している。
I"MEL & CHOLIE" チンチカチンチカと刻むシンバリングとベースのウォーキングに乗ってピアノが気持ち良く跳ねる。
J"THE GENTLE GIANT" 美しいバラード。
このアルバム、真面目なアルバム作りで好感が持てる。大向こうを唸らせるようなところは微塵もない。非常にオーソドックスであるが飽きのこないアルバムと言えるのではないだろうか。何回も繰り返し聴いているうちに嵌り込んでしまうような良さを持っている。1回だけ聴くというのではなく、5回、10回と繰り返し聴いて欲しいアルバムだ。ジンワリとその良さが浮き出てくるのがこのピアニストのスタイルなのかもしれない。透明感のある粒立ちのくっきりした音色で良く歌っているし、ベースもドラムスも配慮が利いて申し分のないサポート振りである。ピアノ・トリオとして必要な条件は全て揃っている。
前掲(JAZZ批評 428.)のMICHEL BISCEGLIAと同様、このアルバムも派手さはないが好感の持てるアルバムで、こういうアルバムにも光を当てて行きたいと思いつつ、「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。 (2007.08.01)