独断的JAZZ批評 376.

EDWARD SIMON
どちらかというと控え目に,
主張すべきところを主張したという感じのアルバムだ
"UNICITY"
EDWARD SIMON(p), JOHN PATITUCCI(b, electric bass), BRIAN BLADE(ds)
2006年2月 スタジオ録音 (CAM JAZZ CAM 5019)

松山のジャズ友からEDWARD SIMON / SIMPLICITYを推薦された
折り良くこの"UNICITY"が新譜として発売になったので、こちらをゲット
メンバーにPATITUCCIとBLADEというツワモノが揃った         
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EDWARD SIMONというピアニストは初登場である。メンバーにPATITUCCIとBLADEが入っていれば、これは期待するのが道理というものだ。
しかし・・・・である。このアルバム、一筋縄には行かない。じっくりと聴き込んで、その良さがホンワカと分かってくる・・・そういうアルバムなのだ。僕の場合、一聴して、即、「良いねえ」とはならなかった。ホンノリと少しずつ身体に沁み込んでくると言ったらよいのだろうか。「これは良いかも!」と思い始めたのが5日目あたりからだった。覚悟を決めてじっくりと聴き倒して欲しいアルバムだ。
アドバイスをするとすれば、Fの"PATHLESS PATH"から聴くといいかも知れない。

F"PATHLESS PATH" というわけで、このアルバムの7番目の曲から紹介していこう。陰影のある定型パターンのイントロから躍動感がじわじわと湧いてくる。緊迫感とともに湧き上がる躍動感がビシビシと心に響く。SIMONというピアニストはどちらかというと地味である。一気呵成にドドーッと来るタイプではない。少しずつ琴線を弾いていくタイプだ。
G"EVOLUTION" 何故かこの曲だけにギターが参加している。このギターはこのアルバムの中では結構、重要な役割を果たしていると思うのだが、ライナーノーツには何の説明もない。まさかPATITUCCIがギターを弾いているとも思えないのだが・・・。待てよ、PATITUCCIはベースでは相当のテクニシャン。ひょっとしてこの推測はあり得るかも・・・。ライナーノーツによればPATITUCCIは"bass,electric bass"の二つを弾いていることになっているが"electric bass"のそれらしき演奏がない。ひょっとして"electric guitar"の間違いではないかと思っているのだが、真相は不明だ。なお、この曲ではBLADEのドラムが思いっきり炸裂するので、これも聴き所のひとつ。このアルバムの白眉。・・・

・・・と、ここまで書いて、これから書くのは、その翌日のこと。どうもスッキリしないのでネット検索をしていたら、PATITUCCIのアルバムにギターを抱えた写真があった!ホーム・ページを覘いてみると、それはギターでなくて6弦ベースとある。YAMAHA製のエレクトリック・6弦ベース!そもそも、その存在すら知らない僕はビックリ!そして、全ての謎が解けた。CHICK COREAのELERCTRIC BANDでも既に6弦ベースで演奏しているらしい。僕は6弦ベースの音色を知らないが、多分、状況証拠からいって6弦ベースに間違いないだろう。・・・でも、この音色はアコースティックな音色だなあ!?ああ〜っ!もう、分からん!

H"EASTERN" この曲でも定型パターを繰り返すが、このピアニストはこういうスタイルが良く似合っている。3者のインプロヴィゼーションに賭けるというよりも、ピアニストが堅実なサポートの上に乗って自由にアドリブを執るというスタイルが合っているようだ。徐々にテンションが高まっていくとBLADEもPATITUCCIも本来の姿を遺憾なく発揮し始める。BLADEの躍動するドラミングを楽しみたい。
I"ABIDING UNICITY (REPRISE)" Bの焼き直しだが、こちらの方がずっと良い。このアルバムに一貫して流れている哀愁を帯びたテーマに味わいがある。

とここまでの4曲が特にお奨めだ。

@"INVOCATION" ほとんどイントロ。
A"THE MESSENGER" PATITUCCIのオリジナルで、このアルバムの中では珍しく4ビートを刻んでいく。控え目なピアノ・プレイではある。
B"ABIDING UNICITY" ベースのアルコで始まる。音程の悪いアルコだけは虫唾が走るものだが、ここではその心配はない。
C"GEVRIASOLAS" 定型パターを繰り返すワルツ。サビの部分でテンポが変わる。
D"THE MIDST OF CHAOS"
 アップテンポの4ビートを刻むが、BLADEのドラミングが鋭さを増してきた。
E"PRELUDE N.9" 


EDWARD SIMONというピアニストはツワモノのサイドメンを向こうに回してギンギンギラギラでピアノを引き倒すというタイプではないようだ。どちらかというと控え目に、主張すべきところを主張したという感じのアルバムだ。二人のサイドメンも配慮の利いた好演振りである。コケオドシ的なプレイは微塵もなくて、内省的でジンワリと身体に沁みてくるという印象だ。その分、じっくりと腰を据えて掛かって欲しいアルバムである。   (2006.11.17)



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