独断的JAZZ批評 375.

HAKUEI KIM
だから、今回は慌てて5つ星にはしない
もっともっと光り輝く時がくることを確信できるから
"HOME BEYOND THE CLOUD"
HAKUEI KIM(p), BEN "DONNY" WAPLES(b), DAVE GOODMAN(ds)
2006年5月 スタジオ録音 (DIW RECORDS DIW-633)

ハクエイ・キム・トリオのDIW RECORDSの第2弾
GUIDO MAUSARDI TRIO と IVAN PADUART TRIOを店頭で試聴してこの1枚を採った
宣伝帯に「初っ端からのけぞってください」とあったが・・・
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ライナーノーツとKIMのホーム・ページによれば、KIMは1975年の京都生まれである。高校卒業後オーストラリアのシドニー大学音楽院でMIKE NOCKに4年間師事したという。11年にわたる滞在生活から帰国し、2005年にデビュー・アルバム"OPEN THE GREEN DOOR"(2004年2月録音)を発表。そして、このアルバムが第2弾ということになる。
僕は前作を全く聴いていないので、これが初聴きである。店頭で試聴してみて、これは刺激的で面白そうだと思った。個性豊かなアイデンティティを感じさせるアルバムになっていると思った。
前掲のGENE DINOVIのレビューがスタンダード・ナンバー中心で聞き古された演奏スタイルだっただけに、新鮮さとアイデンティティの強さが印象に残った。@、A、E以外の5曲は全てKIMのオリジナル。
メンバーはオーストラリア時代の旧友二人で2年ぶりの再会後、3日間のリハーサルを経て録音したそうだ。因みに、第1弾も同じメンバーだったらしい。

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"YOU'D BE SO NICE TO COME HOME TO" ウ〜ン、これは少しくらいのけぞっても良いかも!急速調の演奏にもこのプレイヤーのアイデンティティが生きている。ベースが太い4ビートを刻み、ドラムスが塩梅の良いおかずを入れていく。その上を右手が軽妙に鍵盤を転がっていくのだ。
A"HONEYSUCKLE ROSE" 変拍子。7拍子だという。ウン、確かに。しかし、プロは何故にこういう変拍子をいとも簡単にやっつけてしまうのだろう?
B"NEWTOWN" 今度はワルツだ。付かず離れずのサポートが良い。

C"THE MARKET PART.1" フリーな演奏スタイルで始まる。やがて、イン・テンポに。その後、ドラムスとベースの躍動をバックにピアノが前衛的なアプローチを施す。
D"THE MARKET PART.2" 5拍子の定型パターンで始まる。変拍子の面白さが表現できていると思う。途中から4拍子にテンポ・アップする。
E"CARAVAN" 言わずと知れた、D. ELLINGTONの曲。これもアレンジに凝った印象は否めないが、充分に消化されている。タイトル通り、キャラバンの隊列が目に浮かぶ。

F"THE MARKET PART.3" 長めのベース・ソロが挿入されている。まさにウッド・ベースの音色。良い音だ。エンディングに向けて高揚感がドンドン増していく。やがて、クライマックスへ。3人がひとつの方向へ向かってまっしぐらに進んでいくという感じ。いいねえ!
G"HOME BEYOND THE CLOUD" 一転してバラード。こういうしっとりバラードを演奏すると本当の実力というのが良く分かる。このピアニストはいいね。訴える"何か"を持っている。10分を超える長尺だが、飽きることはない。「間」というよりも「空間的な広がり」を感じさせる演奏だ。面構えといい、なかなか楽しみな若手ピアニストが出てきたという印象だ。最後の曲で僕は「のけぞった!」

全編を通して、根底に東洋的な雰囲気を感じさせる。どこかその辺から拾ってきたコピーではない。ピアニスト・KIMとしてのアイデンティティを感じさせるところがいい。と同時に、こういうアルバムを作らせたレコード会社の度量の大きさにも拍手したい。次の第3弾への期待が高まるアルバムだ。
恐らく、このピアニストは今後、何枚もの5つ星アルバムを世に送り出すに違いない。だから、今回は慌てて5つ星にはしない。もっともっと光り輝く時がくることを確信できるから。   (2006.11.09)