MICHEL CAMILO
ソロ・ピアノであるが故に、際立つドライブ感がないと単なるムード音楽で終わってしまう
"SOLO"
MICHEL CAMILO(p)
2004年5月 スタジオ録音 (TELARC CD-83613) 

余談だが、'04年週間文春ミステリーベストテン・第1位という触れ込みの雫井脩介の「犯人に告ぐ」を読んだ。この作家、なかなか良いテンポのストリーを書く人で、以前には「火の粉」とか「虚貌」を読んだことがある。「犯人に告ぐ」は単行本で2段組、367ページにわたる読み応えのある長編だった。何十年も前は松本清張とか森村誠一とかを好んで読んだものだが、今は時代が違う。テンポの速い、所謂、ドライブ感のあるエンターテイメントが流行りだ。これも時代の空気を吸っているからだろう。この小説も前へ前へとグイグイ引っ張るドライブ感がある。ジャズで言えば「躍動感がある」ということだろうか。それと、緊迫感。躍動感とか緊迫感はジャズやミステリーには絶対欠かせない要素と思うのだが、いかがだろう。
                             
翻って、このアルバム。購入したポイントは3曲目の"OUR LOVE IS HERE TO STAY"だ。この曲を試聴して購入を決めた。大いに胸躍らせて買ってきたのではあるが、それ以外の曲が・・・。

@"A DREAM" 
A"MINHA" 
B"OUR LOVE IS HERE TO STAY" 
試聴するときは自分の知っているスタンダードを中心に聴くことにしているが、このアルバムの場合はそれがこの曲。さわりを聴いただけで「これはイケル」と思った。ドライブ感や躍動感が堪らない。また、小粋でお洒落である。
C"REFLECTIONS" 
D"LUIZA" 
E"'ROUND MIDNIGHT" 
この曲もリズミックで楽しい。
F"ATRAS DA PORTA" 
G"SOMEONE TO WATCH OVER ME" 
この曲は、最近ではBRAD MEHLDAUがJAZZ批評 219."SOLO PIANO LIVE IN TOKYO"の中で演奏している。奥深いMEHLDAUの演奏とCAMILOの親しみやすい演奏と、どちらを取るかは貴方の好みによるだろう。
H"UN SON" 
I"THE FRIM FRAM SAUCE" 
J"CORCOVADO" 
K"SUNTAN" 

Bのような躍動感のある素晴らしいソロがある一方で、少し冗漫で叙情に流された演奏が多いのも事実。正直言って、ちょっと勿体ない感じがした。このMICHEL CAMILOの力量を充分に伝えたアルバムとは言い難いのではないか。ソロ・ピアノであるが故に、際立つドライブ感がないと単なるムード音楽で終わってしまう。   (2005.03.06)



独断的JAZZ批評 256.