HANK JONES (THE GREAT JAZZ TRIO)
お手軽ピアノ・トリオ、極まれり!
国内プロデュースのアルバムにはユーザー視点に立つ、あるいは、プレイヤー視点に立つという最も基本的なことが軽視されているように思えてならない
"'S WONDERFUL"
HANK JONES(p), JOHN PATITUCCI(b), JACK DEJOHNETTE(ds)
2004年6月 スタジオ録音 (EIGHTY-EIGHT'S VRCL 18822) 

全てスタンダード・ナンバー。オリジナル曲は1曲もない。
@"'S WONDERFUL" 
A"SWEET LORRAINE" 
B"MOANIN'" 
C"THE DAYS OF WINE AND ROSES" 
D"TAKE FIVE" 
E"I SURRENDER DEAR" 
F"NIGHT TRAIN" 
G"LOVER COME BACK TO ME" 
H"GREEN SLEEVES" 
ここではミュージシャンのオリジナリティは全く無視されている。昔の名前のHANK JONESを迎えて当たり障りのないつまらないアルバムに仕上がった。

この時期に店頭を見た限り、この手のスタンダード・ナンバー集と言える国内盤が3つ発売された。ひとつがこのアルバム。残る2つがヴィーナス・レコードから発売になった以下の2枚。
@EDDIE HIGGINS "IF DREAMS COME TRUE"
AKENNY BARRON "SUPER STANDARD"

これら3枚に共通しているのはスタンダード・ナンバー・オンリーの国内盤であること。
で、この中から1枚をゲットしてみようかと思ったが、僕にはヴィーナス・レコードという選択肢は最初からないので必然的にHANK JONESとあいなった。もうひとつ、今までに230回のCDレビューを書いてきたが、その中にHANK JONESのアルバムが1枚もなかったことも選択理由のひとつである。

その感想であるが、国内盤のCD制作に疑問を呈すると同時に、将来のリスナー離れを危惧するものである。以前から国内プロデュース作品の制作コンセプトそのものに疑問を感じていたし、安直な復刻盤、再発盤の乱発にも疑問を持っていた。今回のこのアルバムも全編スタンダード・ナンバーというお手軽なCD作りが大いに不満だ。ここには作る側の論理と意図しか見えないのだ。名手 DEJOHNETTEを呼んでも刺激的な作品には仕上がっていないし、PATITUCCIにいたっては昔の悪い面、即ち、独りよがりの弾き過ぎという面が出ている。
3人のプレイヤーが本当に緊張感を持って演った演奏とは思えないのだ。お手軽ピアノ・トリオという印象を拭えない。「昔の名前で出ています」的なアルバム作りはもう止めるべきだと思うけど、いかがだろう?
更に悪いことにこのアルバムはSJ誌のゴールド・ディスクと来たもんだ!これが!?
言ってみれば、天に唾するようなもので、こういうことの繰り返しが自分で自分の首を絞めることになるのだろう。
ヴィーナス盤について言えば、「KENNY BARRONよ、おまえもか!」という心境なのだ。こういう軟弱な企画は断るくらいの気概を示して欲しいと思った。我が敬愛するBARRONがこんな作品に参加していることが残念でならない。(言うに事欠いて、「スーパー・トリオのスーパー・スタンダード」だって!)BARRONのことだからそこそこのアルバムには仕上げるだろうけど、とても買う気になれない。

その点、輸入盤には優れたコンセプトでJAZZの楽しさや奥深さを堪能させてくれるアルバムが数多い。図らずも、僕が2004年のベスト・アルバム(独断的JAZZ批評 237.)としてピックアップした4枚は全て輸入盤である。これらのアルバムを聴いていると録音した後のプレイヤーの楽しそうな顔や笑顔が目に浮かんでくるのだ。そこにはひとつの仕事をやり遂げた達成感や満足感というものが感じられるのだ。
もうひとつ、輸入盤のメリットは価格が安いということ。国内盤に比して実勢価格で2〜3割は安いというのが実態だ。内容が良くて価格も安ければ、勢い輸入盤に流れるというのが世の道理。しかも注文した翌日には送料無料で着荷ということも有り得る。ネット販売が急激に進む中、この価格差は絶対的なものだ。「気がついたときは時遅し」とならぬよう国内レコード会社の方はアンテナをピンと立てて危機感を募らせて欲しい。
また、ベスト・アルバムの中で「推薦盤」として選んだ3枚はいずれも国内盤ではあるが、何よりもプレイヤーが刺激に満ちた演奏を繰り広げていることが選択の理由だ。

要はリスナーを釘付けするような素晴らしいアルバムを作れるかどうかなのだ。また購入したくなるような満足感を与えてくれるかどうかなのだ。
国内プロデュースのアルバムにはユーザー視点に立つ、あるいは、プレイヤー視点に立つという最も基本的なことが軽視されているように思えてならない。この精神を忘れて、将来の繁栄はないと肝に銘じるべきだと思う。どうもレコード会社視点、雑誌社視点というアルバム作りが多いように思う。こういうのを、昔、僕らはコマーシャル主義を文字って「シャレコマ」と言ったものだ。  

蛇足ながら、この年末に僕がゲットした、もしくは、到着待ちのアルバムは以下の通り。全て、輸入盤。これも偶然だが、全てがヨーロッパのジャズとなってしまった。アメリカのジャズの衰退がこんなところにも現れているのか?
・KAI BUSSENIUS TRIO "THIS TOWN"
・STEFANO BOLLANI "SMAT SMAT"
・JAN LUNDGREN TRIO "FOR LISTENERS ONLY"
・JANCSI KOROSSY TRIO "KOROSSY"
・KASPER VILLAUME TRIO "117DITMAS AVENUE"
・FRANCK AMSALLEM TRIO "OUT A DAY"
・TIM RICHARDS TRIO "THE OTHER SIDE"
・CARSTEN DAHL TRIO "MOON WATER"
・CHRISTIAN JACOB TRIO "STYNE & MINE"
・VIT SVEC TRIO "KEPORKAK"
新年からこれらのアルバムを順次紹介していきたいと思っている。

今年はこれが最後のアップとなります。またのご訪問をお待ちしております。
皆さん、良いお年を。   (2004.12.30)



独断的JAZZ批評 239.