このアルバム、ピアノの音が特筆ものだと思う
タッチの美しさと録音の良さで極上のピアノ・トリオが堪能できる
"IT'S JUST BEGINNING"
辛島 文雄(p), 井上 陽介(b), 奥平 真吾(ds)
2003年6月 スタジオ録音 (VIDEOARTS MUSIC INC.VACM-1240) 

久しぶりに日本人男性ピアニストの登場。女性陣はなかなか元気が良くて賑やかだけど、男性陣の活躍が目立たなくて残念に思っていたところに、このアルバム。
ではでは・・・。

@"YOU AND THE NIGHT AND THE MUSIC" 手始めにスタンダードナンバーから。先ず、気がつくのがピアノの音が綺麗!とってもいい音だ。生々しいドラムの音も冴え渡っているし、ベースのウォーキングは太くて逞しい。殊に、中盤あたりから3者のアンサンブルが冴えてくる。勿論、辛島のピアノも活き活きとしていて弾んでいる。
A"ALL OF YOU" ベースによるテーマ演奏。良く歌っているが、贅沢を言わせてもらうとソロのときのピチカートのビートが、少し、遠慮気味。もっと、バシバシ弾いて欲しいところだ。トリオ演奏のときはゴリゴリ弾いているので、こちらはGOODだ。

B"HAUNTED HEART" 美しいテーマだが、アドリブに入ってからの躍動感が実に心地よい。こういう美しさと躍動感に溢れる演奏は聴くものの心をウキウキワクワクさせてくれて、心底気持ちよくなるんだなあ。EVANSのそれ(JAZZ批評 158.)にも勝るとも劣らない演奏。奥平の配慮の利いたドラミングも素晴らしい。繰り返し、聴きたくなる。

C"TILL THEN" ボサノバのリズムに乗ってピアノが軽やかに歌う。
D"MR. P.C." J. COLTRANEがベーシスト、PAUL CHAMBERSに捧げたブルース。ここでは高速の4ビートで、ドライブ感たっぷりの演奏を披露している。ぐいぐい引っ張るベースのウォーキング、チンチカチンチカとシンバルを刻むドラム、バリバリ弾きまくるピアノ。全てがドライブ感に収斂していく。これだけの演奏でも、まだ余裕を感じさせるところが流石だ。
E"MOTHER OF EARL" スローの美しい曲。これもイン・テンポになってから、躍動感が溢れて来る。ベース・ソロ、そして、そのバックを取るピアノのバッキングが良いね。3者の緊密感と一体感を体感できる、ご機嫌な1曲。

F"IT'S JUST BEGINNING" 辛島のオリジナル。このタイトルは、今は亡き名ドラマー・ELVIN JONESとのツアーで行き詰ったときに、ELVINに励まされた言葉だという。
G"COMRADE" 8ビート。
H"MY FUNNY VALENTINE" バラードの定番。辛島のピアノは寡黙過ぎず、饒舌過ぎずでバランスが良い。加えて、説得力がある。こうしたスローなバラードにおいても、必ず躍動感のある演奏へとシフトしていくので、これが嬉しい。
I"RAIN" 辛島のオリジナル・ワルツ。
J"UN POCO LOCO" BUD POWELLの曲。奥平のドラミングはメリハリのある演奏で良い。最後のドラム・ソロは圧巻だ。

最近の日本人女性のピアノ・トリオはこれが女性のタッチ??と思うほどのハード・タッチ。まさに男勝りのハード・タッチなのだけど、そこに、肩肘張った力みや気負いを感じてしまう。「もっと、力を抜けばいいものを!」と思ってしまうのだが、流石、男性のそれは余裕がある。安心して聴いていられる。
このアルバム、ピアノの音が特筆ものだと思う。タッチの美しさと録音の良さで極上のピアノ・トリオが堪能できる。美しさと躍動感、プラス、緊密感を感じさせる良いアルバムだ。納得の1枚。「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。   (2004.07.03)



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FUMIO KARASHIMA

独断的JAZZ批評 206.