これだけの実力者、
ストレートにもっと力を抜いた演奏ができたら、
さらに感動を呼ぶアルバムに仕上がったに違いない
"MADRIGAL"
山中 千尋(p), LARRY GRENADIER(b),RODNEY GREEN(ds-@BC), JEFF BALLARD(ds-ADEFGH) 2004年2月 スタジオ録音 (ATELIER SAWANO AS038) 

まあ、なんと趣味の悪いジャケットではないか。勘違いしてもらっては困るけど、CHIHIROさんの容姿を言っているのではありません。レコード会社も一体、何考えているんだろうか?このジャケットからはディスクから流れ出る音楽の質の高さもエネルギッシュな演奏の片鱗も感じさせないではないか!これは罪だね。ジャケットが全てではないが、これでは食指が動かない。少なくてもサルのぬいぐるみはないんじゃない。まさか、こんなジャケットになるとは分かってはいませんよね?CHIHIROさん!
AKIKO GRACEの最近作"TOKYO"もそうだった。あのジャケットはないでしょう!もう、最悪。AKIKOのファンを自認しているだけに、本当にがっくり。おまけに「おぼろ月夜」や「島唄」なんかも入っていて、一気に購入する意欲が萎えてしまった。

余談が過ぎてしまった。以下、本題に戻ろう。                
@"ANTONIO'S JOKE" A・A'・B・A'形式の典型的な32小節の歌もの。ブルース・フィーリングを持った山中のオリジナル。ガリガリゴリゴリ弾きまくる。
A"LIVING TIME EVENT V" 8ビート。これは単純すぎるくらい単純だ。
B"MADRIGAL" うん、これは素晴らしい。最もCHIHIROの「らしさ」がでた曲だと思う。美しい曲を甘さに流されず、時に激しく、時に切なく歌い上げた。GRENADIERのベースはいつ聴いても良い。強いビートはベースの命だ。山中のピアノも力みが消えており、曲の良さと相俟って本アルバムのベストと言えるだろう。

C"OJOS DE ROJO" アップテンポで刻む4ビートに乗って、気持ちよく、そして激しく、鍵盤を高音部から低音部まで駆け巡った。
D"SCHOOL DAYS" 力強いベースのウォーキングの上をピアノは中低音部のシングル・トーンで迫る。ブロック・コードは全く使用していない。虚飾を排した演奏。最後の邦題「学生時代」のテーマは不要だった。わざと音程を外して「受け」を狙うコメディアンではあるまいし。
E"SALVE SALGUEIRO" ボサノバ調。と言っても、全然、安っぽくない。流石だ。

F"CARAVAN" こういう聞き古されたスタンダード・ナンバーにあっては、プロとして、人と違う解釈を、あるいは、新しいチャレンジを披露したいという気持ちは分かる。だが、これはプロの陥る罠だと言わねばなるまい。実力のある人は実力のままに素直に表現すればすれば良かった。
好敵手、AKIKO GRACEが"NEW YORK STYLE"(JAZZ批評 144.)で同じ曲をストレート・アヘッドに演奏をしているので比較してみるのも面白い。奇しくも、ベースは同じGRENADIERが弾いている。僕としては山中のストレート・アヘッドな演奏で比較してみたかったが。

G"LESSON 51" 多重録音。そうか、こんなこともやってみたかったのか!これはこれで結構楽しいが・・・。
H"TAKE FIVE" これもFと同じで、素直には弾きたくないのだろう。

非常に意欲的なアルバムとなったが、反面、FやHのように随所に力みが見える。ゴルフでは、目一杯力を入れてクラブを振るよりは、肩の力を抜いて振るほうがヘッド・スピードが速くなり飛距離が伸びるという。これって、ジャズの世界でも通用するのではないか?これだけの実力者、ストレートにもっと力を抜いた演奏ができたら、さらに感動を呼ぶアルバムに仕上がったに違いない。   (2004.05.23)



CHIHIRO YAMANAKA

独断的JAZZ批評 199.