こんなに素晴らしいピアノ・ソロが聴けるなら、全編、ソロの方が良かったように思うが、どうだろう?
"NEW YORK SKETCH BOOK"
秋吉 敏子(p), PETER WASHINGTON(b), KENNY WASHINGTON(ds)
2003年8月 スタジオ録音 (NINETY-ONE CRCJ-9159) 


30年間にわたりビッグ・バンドを率いてきた秋吉敏子が「本当はもっともっとをピアノが弾きたい」と言ってビッグ・バンドを解散したのが2003年。その想いと遂げて作ったアルバムがこのピアノ・トリオのアルバム。

秋吉敏子と言えば、日本人ジャズ・ピアニストとして海外に活動の拠点を移して活躍した先鞭ともなる人で、AKIKO GRACEや山中千尋など今でこそ世界を股に駆けて活躍する日本人プレイヤーも少なくないが、その影にはこの人の影響が大きいだろう。

@"FIVE SPOT AFTER DARK" BENNY GOLSONの書いたあまりにも有名なブルース。ノリが良くないというか、もうひとつ醒めた感じがしてしまう。
A"52ND ST. THEME" この曲ももうひとつだなあ・・・。長めのベースのウォーキングがあるけど、ガッツとドライブ感に欠けている。JAZZ批評 44.におけるRICHARD DAVISのスピード感とドライブ感溢れるウォーキングとついつい比較してしまう。

B"SKATING IN CENTRAL PARK" JOHN LEWISの書いたワルツ。長めのドラムスのソロで始まる。演奏がばらついた感じ。
C"UP TOWN STROLL" 秋吉のオリジナル。
D"DROP ME OFF IN HARLEM" D. ELLINGTONの曲。この曲も含めて、明るく軽快な曲想の曲が多い。

E"NEW YORK STATE OF MIND" BILLY JOELの曲。これが実に良いんだなあ。聴く度に、いつも自然と指が鳴っている。唯一のピアノ・ソロ。ナチュラルにしてシンプル。少ない音で感動を呼び寄せる演奏。左手のシンプルなバッキングも良いし、シングルトーンの右手も良い。このアルバムのベストだと僕は思う。こんなに素晴らしいピアノ・ソロが聴けるなら全編、ソロの方が良かったように思うが、どうだろう?。

F"CENTRAL PARK WEST" JOHN COLTRANEの曲。
G"LADY LIBERTY" 高速4ビートに挑戦。この速さに良くついて行ってる(?)とは思うけど、あまり面白いとは思わない。無機的で余裕を感じない。
H"TAKE ME OUT TO THE BALL GAME" 邦題「私を野球に連れて行って」。野球の実況中継も挿入されて楽しげではある。

長年住み慣れたNEW YORKに題材を求めて、ピアノでスケッチブックを描いてみたのがこのアルバム。秋吉はリズム陣に気を使ったのか、結構多くのソロをとらせているが、このリズム陣があまりでしゃばらないというか、地味で遠慮がちなのだ。全体を通しても、丁々発止の緊迫感というのはどちらかというと希薄だ。僕にはその辺が物足りない。
結論としては、Eのピアノ・ソロが一番良かったということになる。肩の力の抜けたナチュラルな印象のアルバムではあるが、グループとしての完成度が今ひとつか。   (2004.05.09)



TOSHIKO AKIYOSHI

独断的JAZZ批評 195.