3人の豊かなイマジネーションと
インテグレーテッドされた構築物たる音楽を聴け!
"ART OF THE TRIO 4  BACK AT THE VANGUARD"
BRAD MEHLDAU(p), LARRY GRENADIER(b), JORGE ROSSY(ds)
1999年ライヴ録音(WANER BROS. WPCR-10533)

前ページのJAZZ批評 127.で紹介したFRED HERSCHの10曲目に入っている"I'LL BE SEEING YOU"を聴いたときに、「どこかで聴いた曲だ!そうだ、BRAD MEHLDAUだ!」と思い出した。しばらく戸棚の片隅に置き忘れていた1枚を引っ張り出して聴き比べをしてみた。結果、圧倒的に軍配はMEHLDAUの方に上がった。正直に言ってレベルが数段違うと思った。

僕はBRAD MEHLDAUのファンの一人と自認している。特に、JAZZ批評 2.で書いた2枚が好きだ。その後のアルバムに対してはもうひとつ満足も納得もしていなかった。特に最近の2年間、"ART OF THE TRIO VOL 5."以降は「今ひとつ」という印象であった。本音は「原点に戻って欲しいな」と思い続けている。
今回、上記の曲を聴いてみて、素晴らしさを改めて再認識した次第だ。ピアノニスト自身の資質といい、グループとしてのレベルの高さといい圧倒的なものを認めざるを得ない。ベースのLARRY GRENADIAの強いビート感とドライブ感は特筆に価する。「ピチカート奏法はこうあるべし」の手本のようだ。いまやジャズ・ベース界の第一人者といって良いだろう。

@"ALL THE THINGS YOU ARE" 最近、色々なプレイヤーが取り上げることの多いスタンダード・ナンバー。ピアノのイントロからしてゾクゾクワクワクで「凄い!」の一言。3者が一斉になだれ込む時には躍動感と緊張感が溢れんばかりになる。「どうだ!」と言わんばかりの力演。13分もの長尺ものだが、その長さを感じさせない。GRENADIERのベース・ソロも文句なく素晴らしい。勿論、ドラムスのROSSYもスリリングなドラミングを展開。録音も悪くない。圧倒的な存在感を示した1曲である。

A"SEHNSUCHT" MEHLDAUのオリジナル。
B"NICE PASS" グルービーなMEHLDAUのオリジナル。 
C"SOLAR" MILES DAVISの作。
D"LONDON BLUES" MEHLDAUのオリジナル。

E"I'LL BE SEEING YOU" なんてお洒落で小粋な演奏なのだろう!こういうの聴いていると指が勝手に踊りだしてしまう。3者の紡ぎ出す音の一つ一つが更にお互いを鼓舞していく。1+1+1=4にも5にもなる瞬間である。そしてまた、素晴らしきテーマに戻る。3者のインタープレイが素晴らしく、聴く者を幸せな気分にしてくれる。こういうのは理屈ぬきに楽しめれば最高だ。FRED HERSCH TRIOとの違いを見せ付けた1曲。
F"EXIT MUSIC (FOR A FILM)" VOL 3.で背筋をぞくっとさせた名曲がライヴで甦る。切ないほどに、哀しいほどに心に響く曲。

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"I'LL BE SEEING YOU"の比較から端を発したこのCDの再発見は僕にとっても驚きの出来事だった。これなら、もう1枚"LIVE AT THE VILLAGE VANGUARD -THE ART OF THE TRIO VOLUME 2"を聴き直さねばなるまい。
遅ればせながら「manaの厳選"PIANO & α"」に追加した。(2003.03.22)



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BRAD MEHLDAU

独断的JAZZ批評 128.