テーマとアドリブをもっとシンプルに
もっとストレートに演奏して欲しかったと思うのは
僕だけではないだろう
"A DELICATE BALANCE"
KENNY WERNER(p), DAVE HOLLAND(b), JACK DeJOHNETTE(ds) 1997年スタジオ録音 (BMG 74321-51694-2)

先ず、メンバーが凄い。ベースに DAVE HOLLAND、太鼓にJACK DeJOHNETTE。これだけで何かが起きるに違いない、起こして欲しいと願わずにいられない。
HOLLANDは逞しく力強いベース・ラインを身上としているし、DeJOHNETTEの太鼓は繊細にして大胆なドラミングを身上としている。これで何かが起きない訳がないと思うのは僕だけではないだろう。
そしてピアニスト・KENNY WERNERはアレンジャーやプロデューサーとして名を馳せているらしい。僕にとっては初めて聴くピアニストだ。

結果はどうか。残念ながら、「凝り過ぎ」なのだ。何故こうも凝り過ぎるのか。テーマをいじりすぎだし、アレンジも凝りすぎ。もっと、シンプルにストレートに演奏できないものか。これはもったいない!そういう点ではCICK COREAの"PAST,PRESENT & FUTURES"
(JAZZ批評 5.)に良く似ている。

全8曲のうちA以外の7曲がKENNY WERNERのオリジナル。初めて聴く曲ばかりの上にテーマもいじりすぎで、どの曲もテーマが良く分からない。結局、素材そのものの良し悪しさえよく分からないというのが現実だ。
ANAT ADDERLEYの傑作"WORK SONG"。これもアレンジのし過ぎで素材の良さが吹っ飛んでしまっている。そんな中でHOLLANDのベース・ソロは一条の光だ。
B"IVORONICS"。テーマは詰まらないがアドリブに入ってからのJACK DeJOHNETTEのドラミングが凄い。ベースのウォーキングもソロもイケル。この曲はアップ・テンポで躍動感がある。
C、D、Eとどれもテーマに美しさがないし面白みに欠ける。
F"LORRAINE"。全8曲の中で唯一のスロー・バラード。ピアノのソロで始まるが、最後まで躍動感が生まれない。ベターッとした甘いだけのスローで終わっている。どんなスローであってもジャズには躍動感が必要だと僕は思っている。

全体を通した印象としてはテーマが美しさに欠けるし、奇を衒うあまりに無機的な印象が強い。
これだけの最強サイドメンを従えているのだから、本来のテーマとアドリブをもっとシンプルに、もっとストレートに演奏して欲しかったと思うのは僕だけではないだろう。   (2002.09.25)


KENNY WERNER

独断的JAZZ批評 98.