独断的JAZZ批評 866.

CARSTEN DAHL
躍動感のないフリー・ジャズ
"UNDER THE RAINBOW"
CARSTEN DAHL(p), ARILD ANDERSEN(b), JON CHRISTENSEN(ds)
2013年4月 スタジオ録音 (STORYVILLE : 101 4287)


CARSTEN DAHLは好きなピアニストだ。最近は体調を崩して療養生活を送っていたと聞く。それによって、音楽的に大きな変化をもたらしたという。
今までに11枚のアルバムを紹介してきた。2005年には来日公演もあって武蔵野スイング・ホールに聴きに行っている。背が高く美男子でいかにも北欧のカッコいいピアニストだった。

DAHLには2つの顔がある。
一つは即興演奏を主体にした2003年録音の"MOON WATER"(JAZZ批評 246.)に代表されるアルバム。因みに、ベースは本アルバムと同じARILD ANDERSENだった。
もう一つはハード・バップに根差した2004年録音の"BLUE TRAIN"(JAZZ批評 267.)に代表されるアルバム。どちらもDAHLの顔であり、どちらが良いかは聴く人の好みに依るだろう。僕はどちらの演奏も好きで星5つを献上しているが、どちらかというとDAHLがやりたい音楽は"MOON WATER"の方ではないかと思っていた。そこには手を触れると切れてしまうのではないかというほどの鋭さと緊迫感、そして、美しさがあった。
翻って、本アルバムはインプロヴィゼーションを主体にした演奏だ。目指す方向は"MOON WATER"だろうか?

@"UNDER THE RAINBOW #1" おおっ!いきなりのアブストラクト!フリー・テンポのインプロヴィゼーション!"MOON WATER"のようなアプローチを期待していたのだが、ちょっと違った。
A"UNDER THE RAINBOW #2" 
ひとつのモチーフを発展させていくというスタイルか?
B"UNDER THE RAINBOW #3" 
C"KOLONI PA YDERKANTEN" 
タイトルが変わり曲想も美しいバラードに変化。フリー・テンポであることは変わらず。
D"UNDER THE RAINBOW #4" 
初めてイン・テンポになった。ドラムスの音が聞こえない。デュオか?
E"UNDER THE RAINBOW #5" 
元に戻ってフリー・テンポのインプロ。このアルバム、ドラムスの音がオフ気味に録られていて存在感が薄い。
F"UNDER THE RAINBOW #6" 
G"TWO GEESE IN THE SKY" 
静謐で美しい。ただ、それだけ。
H"UNDER THE RAINBOW #7" 
I"UNDER THE RAINBOW #8"
 

正直に言うと、非常にがっかりした。"MOON WATER"のような美しさと研ぎ澄まされた緊迫感みたいなものを期待していたのであるが、本アルバムはどの曲もフリー・テンポが主体のインプロになっていて、一番大事な躍動感に欠ける。
各曲も一つのモチーフを8つの演奏に展開したということで,、どれも似たような演奏になってしまった。詰まるところ、躍動感のないフリー・ジャズという印象だ。まあ、やっている当人たちは楽しいのかもしれないけど・・・。
ここ数年のDAHLのアルバムは評価が落ちるばかりで、今回こそはと期待していたが、結果的には拍車を掛ける形になってしまった。
これを買うなら、やはり"MOON WATER"(JAZZ批評 246.)にすべきでしょう。バップ・スタイルならMADZ VINDING名義の"SIX HANDS THREE MINDS ONE HEART"(JAZZ批評 322.)がいいでしょう。   (2014.04.06)

試聴サイト :
 https://www.youtube.com/watch?v=oUsLjbGPAM4
          
ここでは各曲1分ずつ連続して試聴できる。



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