独断的JAZZ批評 864.

ART PEPPER AND GEORGE CABLES
ホッとしたいときに聴きたくなるアルバム
"GOING HOME"
ART PEPPER(as, cl:@,B,D,F), GEORGE CABLES(p)
1982年5月 スタジオ録音 (GALAXY : OJCCD-679-2)


ART PEPPERが脳溢血で亡くなったのは1982年の6月だから、このレコーディングの1ヶ月後だ。まさか、このレコーディングの時には1ヶ月後に死ぬとは思っていなかっただろう。
似た例としては、1991年に亡くなったSTAN GETZがあげられる。しかし、この場合は肝臓癌を患っていて余命わずかと宣告されていた。死の3ヶ月前にレコーディングしたのがKENNY BARRONとの傑作デュオ・アルバム"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)だ。併せて、聴いてほしいアルバムだ。
本アルバムの共演者はART BLAKEYとの共演歴もあるGEORGE CABLES(p)で、同じくピアノとサックス(クラリネット)とのデュオだ。
奇しくも、PEPPERもGETZも麻薬に溺れたという苦い経験を持っている。

@"GOIN' HOME" クラリネットによる演奏だ。柔らかな音色が「家路」のテーマに良く馴染んでいて、とても切ない。
"GOIN' HOME"と言えば、BILL MAYSの"GOING HOME"(JAZZ批評 130.)も併せて紹介しておきたい。

A"SAMBA MOM MOM" 
今度はアルト・サックスに持ち替えている。わずかにCABLESの口ずさむ声が聴ける。時々、PEPPERの演奏にミス・トーンが混じっているが、ご愛嬌!ご愛嬌!。
B"IN A MELLOTONE" 
柔らかくて優しげなクラリネットの音色と配慮の利いたピアノの伴奏がいいね。
C"DON'T LET THE SUN CATCH YOU CRYIN'" 
アルトの方が音色に鋭さと力強さがあり、やはり、ジャズ向きと言えるのではないだろうか?
D"ISN'T SHE LOVELY" 
最初はクラリネットを奏で、後半はアルト。ピアノがベース・ラインをシングル・トーンで奏でていくがこれがご機嫌!
E"BILLIE'S BOUNCE" 
C.PAKERの書いたブルースを元気よく!
F"LOVER MAN (OH WHERE CAN YOU BE ?) " 
メランコリーな曲調にクラリネットがピッタリだ。
G"THE SWEETEST SOUNDS" 
R. RODGERSの佳曲。CABLESの歯切れの良いピアノ・タッチも聴きどころだ。
H"DON'T LET THE SUN CATCH YOU CRYN' (ALTERNATE A)" 
I"YOU GO TO MY HEAD"
 スタンダード・ナンバー。直訳すると「あなたは私の頭に行きます」となってしまうが、ここは「あなたが頭に浮かんでくる」と訳すらしい。なるほどね!恋歌だし、「頭にくる」では怒りの表現になってしまうからね。

先に紹介したSTAN GETZの"PEOPLE TIME"(JAZZ批評 231.)は、丁度、蝋燭の炎が消える寸前に激しく炎をたぎらせるような輝きを放っている。更には悲壮感さえも感じさせる鬼気迫る演奏であった。
対して、本アルバムでは、むしろ、穏やかな枯れた演奏だ。僕はデュオというフォーマットが好きだが、こういう枯れたベテランの会話というのは和むなあ!ホッとしたいときに聴きたくなるアルバムだ。   (2014.03.31)

試聴サイト :
 http://www.youtube.com/watch?v=nHBA6Ee5htc



.