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『ホテルローヤル』['20] | |||||
監督 武正晴
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珍しくも原作小説のほうを先に読んでいる未見の映画化作品を無料配信で視聴した。小説を読んで「哀切というような切迫感はない哀感漂うさまに、うらぶれ朽ちているような静けさがあって何とも物哀しい作品集だった。」と記していた感じは、余さず映画化されているように感じた。 両親がラブホテルを経営する元で育って家業を継いだ雅代(波瑠)と、出入りの宝屋酒店の若者と出奔した先代である母るり子(夏川結衣)が贔屓にしていたアダルトグッズ会社の営業マン宮川(松山ケンイチ)とに、哀感漂う透明感があって悪くなかったように思う。『えっち屋』に「雅代のつぶやきを宮川の体が覆った。男の身体の重みなど、覚えていない。他人の皮膚は思ったよりずっと冷たかった。唇はもっと冷たい。首筋から肩へと下りてゆく。胸の先へ届いても、男の唇は温まらなかった。 シーツの上にある彼の右手を腰のほうへと誘った。ためらいを更につよく引き寄せる。指先がへその下を滑り亀裂のそばへと近づいた。つよく目を瞑る。体の位置をずらす。シーツが体温を吸い込んでゆく。男の指先に意識を集中させると、全身が柔らかく変化する。 指先――。体がうねった。吐息に音が混じる。こんな、まさか――。 雅代の声と同時に、男の動きが止まった。亀裂を割ったまま、電池が切れたように動かない。あまりに長いこと黙っているので、思い切って彼のトランクスに手を伸ばした。」(P78~P79)と綴られている場面がきちんと描出されず、ほとんど身体接触がないままに「ここであと戻りするくらいみじめなことはない。男が動きを止めた理由を想像してみた。手に触れるゆらゆらと力ないものを、どうすることもできなかった。漏れた声が悔しかった」(P79)と綴られていた雅代の想いも窺えない形のなかで「奥さんのこと、考えたでしょう」(P79)との台詞に移り、身繕いを調えていたのは物足りなかったが、原作にはない「今ちゃんと胸が痛んだ」という台詞を「安心して。期待どおりでした」(P80)との台詞に添えていたのが利いているように感じた。 原作では僅かに六室だったホテルローヤルは、201号室~212号室の十室になっていて休憩3,800円、宿泊5,800円だったが、時代設定は、いつ頃だったのだろう。七話あったエピソードのうち『本日開店』を除く六話が盛り込まれていた。 十七歳の佐倉まりあと教師の野島広之という二人の行き場のない寄り添いが味わい深かった『せんせぇ』を基にした、佐倉まりあ(伊藤沙莉)と野島亮介(岡山天音)のエピソードよりも、正名僕蔵と内田慈が本間夫妻を演じた『バブルバス』からのエピソードのほうに惹かれた。そして、最後に流れるLeolaの歌った柴田まゆみの♪白いページの中に♪が沁みてきた。ラブホテルのバックヤードを描いた作品として印象深く残っている『さよなら歌舞伎町』['14]とは、かなりテイストが異なるものの、味わい深く観ることができた。 公開当時のチラシによれば、原作者の桜木紫乃の実家がラブホテルを経営していたらしい。雅代には自身を重ねる部分もあったのだろう。「エンドロールで泣いてしまうという失態。悔しかった。―桜木紫乃」と記されているのが目を惹いた。原作者にもLeolaの歌声が響いてきていたのだなと得心した。 | |||||
by ヤマ '25. 1. 7. ABEMA配信動画 | |||||
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