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『入国審査』(Upon Entry)['25] | |||||
監督・脚本 アレハンドロ・ロハス &フアン・セバスティアン・バスケス | |||||
なかなか強烈だった。僕自身は両方とも未経験だが、リストラ面談というのもこれと同じようなものなのだろう。要は、審査・面談に名を借りた嫌がらせというか、諦念の促しを図るプロフェッショナルな試技というわけだ。日本でバブルが弾けた頃、某超有名企業にいた大学のゼミ友が、久しぶりに再会したときに出向先でリストラ業務に携わっていて、これが物凄いストレスなんだとぼやいていた。 それについては、『こんにちは、母さん』の日誌で触れたこともあるが、そのとき皆が面白がって「リストラ面談というのは、どんなふうにやるんだ?」と実演してもらったことがある。そのときの質問の繰り出し方とそっくりな気がした。回答そのものを重視しているのではなく、質問に音を上げるのを待っているわけだ。 現に本作におけるディエゴ(アルベルト・アンマン)とエレナ(ブルーナ・クッシ)も、何に合格したの?との怪訝な面持ちで「ようこそ、アメリカへ」とパスしたことを告げられていた。要は「もう諦めます」と退散しなかったというだけだったように思う。 本作は、チラシの記載によればアメリカの入国審査ではなく、作り手がディエゴと同じ「故郷のベネズエラからスペインに移住した時の実体験」からインスピレーションを得たものらしいから、アメリカに限らず、入国審査とはこうしたものなのだろう。この入国審査を「もっと厳しくしろ」と騒ぎ立てているネトウヨたちは、この作品を観て何を思うのだろう。やれやれ!もっとやれ!と快哉を挙げるのだろうか。ぞっとするような感性だ。しかも、この手の嫌がらせ的手続きは、より厳しくしても、訓練を受けて魂胆を持った連中には通用しないだろうし、審査官を上回るタフさをメンタル的に蓄えた悪意ある者どもにも通用しない気がする。それなら、より厳しくした入国審査とは、どのようなものを彼らは想定しているのか。おそらくは具体的な実務手続きについてノープランの感情的鬱憤なのだろう。その声に押されて、今以上に入管手続きが非人道的になるのは実に罪深いことだと思う。 リストラ面談をしていた友人たちのぼやきを嘗て聞いていたからか、ディエゴとエレナのカップル以上に、男女それぞれの入管審査官たちのいかにも機械的で冷たいマニュアル型の審問光景のほうが目を惹いた。わずかでも疵を持っていると徹底的にいたぶられるわけだが、審問官たちを決してサディスティックな人物には描いていないところが本作の秀作たる所以だと思った。 | |||||
by ヤマ '25.10. 8. キネマM | |||||
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