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『正体』 | |||||
監督 藤井道人 | |||||
ヤマのMixi日記 2024年12月17日00:03 原作小説は例によって未読だが、事件から六十年近く経って再審無罪判決が確定し、静岡県警本部長が元死刑囚に直接謝罪に赴くに至った袴田事件や、連続企業爆破事件の被疑者として全国に指名手配されてから半世紀にわたって身を隠し通した桐島容疑者、元担当捜査官の警視庁捜査一課警部補OBが未決の怪死事件の再々捜査を警察上層部が封じた可能性を公の場で証言した近年の事件など、警察権力にまつわる最近の目立った出来事の数々を自ずと想起させてくれる、なかなか力のある作品だったように思う。 いわゆる誤認逮捕をされてしまったら、殆ど逃れる術はないように思われるなか改めて、強い力を持つ警察権力や世論の動向における無責任な非情さに対する遣り切れない思いが湧いた。かつて社会派映画と呼ばれていた作品に通じる社会正義を訴える形の本作には、そういう反権力的立ち位置を取る人々に苛立ちを覚える向きが至って増えてきたように感じられる昨今、実録でもないのに細部における非現実性をあげつらう批判が加えられそうに思うが、主要人物のキャラクターや能力、行動に関して常軌を逸する出来事が現に存在するからこそ、数々の現実に起きた事件を想起させるのだと思う。 横浜流星の演じた鏑木慶一の味わった絶望と棄てなかった希望、その苦衷に対して観る者の想像力を喚起させるに足る十分な力を持った映画だった。弁護士である父親(田中哲司)が見舞われた事件での冤罪を信じる娘の雑誌記者、安藤沙耶香を演じた吉岡里帆が十八番の役処を得て、相変わらず好かったように感じた。 *【コメント談義】2024年12月18日 10:26~12月23日 17:24 2024年12月18日 10:26 ヤマ(管理人) ケイケイさん、お薦めに従い、観てきましたよ~。(まぁ、薦められずとも観に行くつもりをしていた作品ではありますが。)なかなか力の入った映画でしたねー。映画日記も拝読。 「私が痛感したのは、彼の飛びぬけた優秀さと生真面目さ。そして高潔。」 同感です。この、高潔ってのがいいよねー。真逆のものが横行するなか、画面越しながら実に鮮烈でした。と同時に、昨今ほどこれが描かれなくなった時代はないようにも感じ、痺れました。 紗耶香の「あなたを信じる」との言葉に慶一が涙する場面に、僕も心打たれました。焼き鳥でもそうだけど、変哲もないはずのものが稀有のものとして響いてくる過酷な状況というものが沁みてきます。あれだけのハンバーグを作れる慶一だから、焼き鳥そのものの味ではなく、こういう心持ちでの食卓というか食事をしたことがなかったということですよね。食事の美味さを決定づけるのは実は味そのものではないというのは、僕らも経験則のなかで知っていることだけど、比較にならない程に温い人生を過ごしている僕には、慶一が味わったような格別の美味さに涙しながら食することはできない気がしますね、幸いにも。 ラストは恐らく原作とは違うはずとの印象、同感です。敢えて無音にして拍手でもって勝訴を示していたシーンの非現実感は、それが現実から遊離した、慶一の願いでしかないことを仄めかしているようでもあったけれども、その願いが叶った場面として観たいと僕も思っています。 2024年12月18日 22:02 (ケイケイさん) ヤマさん、好評で何よりですわーい(嬉しい顔) >同感です。この、高潔ってのがいいよねー。 観客が彼を「信じる」気持ちになったのは、この高潔さですよね。優秀だから高潔なのではなく、別物ですね。 >昨今ほどこれが描かれなくなった時代はないようにも感じ、痺れました。 高潔はとても尊い言葉だと思います。昨今では何でもかんでも緩くなって、逆に努力とか高潔とか真面目とか、本来なら長所であるのに、軽んじられるどころか、疎んじられている感が世の中にあって、嘆かわしいと思っています。 ほのかに恋心を寄せている女性との食事は、初めての経験だったんでしょうね。紗耶香と同居後は、もう二度と砂を嚙むような食事はしたくないと、決意するに充分だったと思います。これ以降も、一つ一つの経験が、鏑木を成長させる様子を見ながら、この積み重ねこそが人生なんだな、一つも無駄にしていない彼に、敬意すら感じました。 ラストの無音は、私も一瞬、これは夢なのかと感じました。彼は、あの老人施設で死んだと思いましたし(原作はそうらしいです)。三人の殺人刑の再審が、あんなに早いわけないとも思いましたし。でもヤマさんと同じで、無罪を勝ち取ったと素直に取る方が、私自身が嬉しいですからね。 2024年12月18日 22:28 ヤマ(管理人) 優秀だから高潔どころか、近頃の風潮からすれば、むしろ優秀さと高潔さを併せ持つことのほうが困難なくらいです。「本来なら長所であるのに、軽んじられるどころか、疎んじられている感」が蔓延してますもんね。加えて「空気を読む」ことの同調圧力を受けながら育てば、頭脳の出来が良い者ほど高潔さを遠ざけてしまいそう。ほんとうに情けない世の中になってきました。上に立つはずの人々がこぞって、かような有様ですもんねぇ。 だからこそ、逆境のなかで「一つも無駄にしていない彼に、敬意すら感じ」るんだろうな。眩しいほどやったね。そうか、原作小説では射殺されるのか。されば、慶一との面会に赴く又貫(山田孝之)の場面もなければ、慶一の逃亡理由も明かされないわけだな。それだと、映画化作品のほうがずっと好いような気がします。ん?もしかすると、射殺される施設での遣り取りのなかで明かされるのかもしれないな。 2024年12月19日 22:18 (ケイケイさん) >優秀だから高潔どころか、近頃の風潮からすれば、むしろ優秀さと高潔さを併せ持つことのほうが困難なくらいです。ほんとうに情けない世の中になってきました。上に立つはずの人々がこぞって、かような有様ですもんねぇ。 そう!私は昔より今が断然良い派ですが、人間力や人間味という点では、断然昔ですね。昔は優秀で高潔な人がたくさんいましたよね。それは人としての美徳だと、世の中が思っていたから、それを目標にする人がいたからだと思います。ヤマさんの仰るように、空気を読むという形の、同調圧力が作用されていると、私も思います。空気を読むと、協調性は、これも別物です。一緒くたになっていますよね、今は。 >だからこそ、逆境のなかで「一つも無駄にしていない彼に、敬意すら感じ」るんだろうな。眩しいほどやったね。 ここが充分に伝わったから、又貫との会話での「信じたいと思った」という答えが、観客に刺さったんだと思います。 >原作小説では射殺されるのか。されば、慶一との面会に赴く又貫(山田孝之)の場面もなければ、慶一の逃亡理由も明かされないわけだな。それだと、映画化作品のほうがずっと好いような気がします。ん?もしかすると、射殺される施設での遣り取りのなかで明かされるのかもしれないな。 うん、又貫の横にいた刑事に射殺されたそうです。天羽鈴さんに教えて貰いました。そこで、紗耶香、舞、和也の三人が、慶一の無罪の裁判を起こして、勝訴したそうです。だから、逃亡の様子も語られたのじゃないかと思います。又貫はどうしたのかな? 私は正直に証言したと思います。これはこれで、残念ですが、後を引く締め方だと思います。映画は希望を促し、小説は権力への警鐘を鳴らすと感じます。 2024年12月20日 00:14 ヤマ(管理人) >紗耶香、舞、和也の三人が、慶一の無罪の裁判を起こして、勝訴 これは驚きだなぁ。死んだ慶一の無罪を遺族でもなんでもない三人が訴えたりできるのかしら。でもって、慶一が綺麗な目で「世の中を信じたいと思った」と答えた脱獄理由を聴くことないままに又貫が翻意して、正直に証言するようになるのかね、原作小説では。それなら、映画化作品のほうが数段良いような気がするなぁ。 2024年12月20日 21:49 (ケイケイさん) でもほら、今話題の兵庫県知事の件だって、弁護士や大学教授の告発で、検察も警察も動き始めたでしょう? この件とは違うの? >でもって、慶一が綺麗な目で「世の中を信じたいと思った」と答えた脱獄理由を聴くことないままに又貫が翻意して、正直に証言するようになるのかね、原作小説では。それなら、映画化作品のほうが数段良いような気がするなぁ。 ここは全く同感です。慶一の綺麗な目とお書きですが、こちらの心まで洗われるような、美しい目でしたね。私は又貫との会話で、すごく泣いたんですよ。慶一の平易な言葉に、生きる意味や価値が、いっぱい詰まっていたと思います。原作あたってみたくなりますね。 2024年12月21日 22:23 ヤマ(管理人) 慶一の場合、殺人による死刑だから、刑事案件よね。で、刑事訴訟法だと再審請求権者は第439条に規定されてて、「有罪の言渡を受けた者が死亡し、又は心神喪失の状態に在る場合には、その配偶者、直系の親族及び兄弟姉妹」となってるから、紗耶香、舞、和也の三人は該当しないんじゃないかな。こういうのもあったよ。 又貫にしてみれば「世の中を信じたいと思った」という答えは、全くの想定外やったろうね。さぞかし痺れたろうね。あれ抜きでの彼の変心は考えにくいんで、原作、当たってみたくなるよね~。 2024年12月22日 22:21 (ケイケイさん) リンク拝読しました。そうなんですね。でも小説でも重要ポイントだし、それほど雑な扱いではないと思うんですよ。どういう経緯で裁判が叶ったのか、興味がありますね。 >又貫にしてみれば「世の中を信じたいと思った」という答えは、全くの想定外やったろうね。さぞかし痺れたろうね。あれ抜きでの彼の変心は考えにくいんで、原作、当たってみたくなるよね~。 あの対面は感動しました。この作品の一番の要だと思います。三男によると今公開している『推しの子』も、原作は暗いんですって。映画はそこを脚色して、ハッピーな作りになっていて、原作ファンに好評なんだとか。原作より映画が超える事は、難しいのが定説でしたが、これからは一概に言えない時代になるかもですね。 2024年12月23日 08:12 ヤマ(管理人) 『かくしごと』の原作を読んで、改めて映画化作品の潤色ぶりの見事さに感心したことを思い出した。原作の『嘘』も映画化作品の『かくしごと』も共に読み応え観応えのある作品だったなぁ。 2024年12月23日 17:24 (ケイケイさん) 『かくしごと』未見です。アマプラで始まったら、観ますね。短編は映画化すると、枝葉が充実するので原作より良かったりしますよね。 | |||||
編集採録 by ヤマ '24.12.16. TOHOシネマズ4 | |||||
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