| |||||
『本日公休』(Day Off)['23] | |||||
監督・脚本 フー・ティエンユー
| |||||
単に生活を立てるためだけのものではない“生業”を得ている人の幸いを思った。自分が大変な時期に世話になった常連顧客の病床を訪ねていって理髪を行なう場面は、本作のハイライトシーンだと思うが、いわゆるコスパ、タイパに囚われる生活に嫌気が差して企業を辞めて農業に転職した青年(チェン・ボーリン)と主人公の理髪師アールイ(ルー・シャオフェン)が出会う場面も印象深い。彼の淹れた茶の美味さと彼女の刈った髪の美しさが沁みてきた。 なにかと気掛かりな心配の先立つ三人の子供たちよりも、まさに性格の不一致に他ならないような行き掛りで離婚した美容師の次女リン(ファン・ジーヨウ)の元夫チュアン(フー・モンボー)のほうに気が休まる様子だと感じられた義理の関係性がとても好もしく映った。そして、自己都合より顧客や友人の都合を優先して割を食っているようにしか見えない夫に苛立ち、「ノーの言えない人」と嘆くと同時に「あなたはいい人だけど、あなたといると、自分がおカネのことばかり考えている嫌な人間に思えてきて辛い」と零していたリンの哀れが心に残った。 可笑しかったのが、行方不明になった母親を案じつつ、自分の恋人が浮気中にしでかした交通違反切符が車の所有者である実家に送られていたことに驚愕し、それを知らされていなかったことに憤慨しているスタイリストの長女シン(アニー・チェン)がフリーターの弟ナン(シー・ミンシュアイ)から「今、それを言う?」と咎められた傍から、ふらっと入ってきた常連客から「恋人とは、別れたほうがいいよ」と声を掛けられていた場面だった。 歳末に加え、あたご劇場の暫くの休館を新聞が報じたこともあってか、最終日となるこの日は人出も多く、幾人もの顔見知りと出会った。再開予定日も次の番組の告知もないなか、今後どうなっていくのだろう。年単位で休館しながら再開したキネマMのように復活してくれることを願っている。地方都市でもチェーン店が蔓延し、馴染みの店と常連客という関係が乏しくなってきているなか、僕が常連客として何十年来、通っている数少ない場所だ。そのようなこともあってか「これだけ廃れゆく映画に対する愛情の溢れる映画には心動かされずにいられない。単に映画愛を謳い上げるだけでなく、一所懸命に生きる人の姿を讃えている点が好い。」と記した『侍タイムスリッパー』(監督・脚本 安田淳一)にも通じる感慨を覚えた。同作の「映画」を「個人営業」に置き換えられる気がしたわけだ。 それにしても、店舗なのにショーウィンドウに「家庭理髪」と書いていた意味は何なのだろう。また、学生頭と並んで山本頭と記されていた刈り方は何だろうと不思議に思った。台湾事情に疎くて、まるで意味不明だった。 | |||||
by ヤマ '24.12.29. あたご劇場 | |||||
ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―
|