『バティモン5 望まれざる者』(Batiment 5)
監督・脚本 ラジ・リ

 元々望んで市長職に就いたわけではないピエール・フォルジュ(アレクシ・マナンティ)がどんどん強権的になっていく姿を観ながら、権力が人を蝕む力の凄さに恐れ入るとともに、ロジカル頭で想像力を欠いた生真面目さというものの罪深さに暗澹たる想いが湧いた。いま全国の人々を呆れさせている兵庫県知事も、きっとピエールの辿った道を歩んできたのだろう。

 裏切り者呼ばわりされていた黒人副市長ロジェ・ロシュ(スティーヴ・ティアンチュー)の苦衷は想像に難くなかったけれども、彼こそがキーマンで、かような事態に至るまでに本来、果たせる役割があったのではないかという気がしてならなかった。

 四年前に観たレ・ミゼラブルが痛烈だった、監督・脚本を担ったラジ・リがこの映画は誰かをヒーロー(ヒロイン)に仕立て、誰かを非難しようというものではない。われわれは誰もが誰かにとっては望ましくない存在なのではないか、と問うている。そして市議選への立候補を決意するアビーを通し、少しの希望を吹き込もうとした。と話していると、地元紙に掲載された紹介記事で読んだが、いまや絶望的なまでの政治家の質の低下を招いている我が国の状況下において、リ監督の話しているようなことが少しの希望に繋がるとも思えない気のすることが悲しくてならない。

 日本の政治状況をここまで劣化させた最大の要因は、小選挙区制の施行以上に、長年にわたる公教育における愛国の名の下での管理教育強化による“考えようとしない権威忖度型の損得勘定・勝馬便乗志向人間の拡大再生産”と、商業メディアの“市場競争による報道水準の低下とスポンサー及び視聴率至上主義”にあると思っているが、デスクすら持たないようなネットメディアにおいて、閲覧稼ぎによる利得を企図した煽情的な流言飛語が氾濫するに至って、衆愚政治が避け難いものになってきている気がしている。
by ヤマ

'24. 9.18. あたご劇場



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