『ララミーから来た男』(The Man from Laramie)['55]
『男の出発』(The Culpepper Cattle Co.)['72]
監督 アンソニー・マン
監督 ディック・リチャーズ

 先に観たのは『ララミーから来た男』。思いのほか響いてこなかったのは、やや疲労気味のなかで観たせいかもしれないが、ジェームズ・スチュアート扮する謎の男ウィル・ロックハートが人々から一目置かれる理由が、町のボスであるアレックス(ドナルド・クリスプ)の不遜で横暴な息子デイヴ・ワゴマン(アレックス・ニコル)にやられっ放しにならず、真っ向から反撃したからではあったにしても、僕には然程の人物には映ってこなかった点が大きく作用してきた感じの作品だった。

 ウィルを主人公にするよりも、ワゴマン父子に対して葛藤を抱いていた牧童頭ヴィック・ハンスボロ(アーサー・ケネディ)を軸に描いた物語のほうが目を惹いた気がした。また、デイヴの従妹バーバラを演じたキャシー・オドネルはなかなかの美形で悪くなかったから、もう少し活かせなかったものかという気がしてならなかった。アレックスと因縁のあるハーフムーン牧場の女主人ケイト(アリーン・マクマホン)の貫録は、女傑としてなかなかのものだったように思う。

 全長102分だったし、連発銃横流しというか先住民への禁売破りという他ではあまり観たことのない話で目を惹いたけれど、どうも冴えないロックハートで残念だった。


 『男の出発』は、ティーンによるモーターレースならぬ馬車レースの場面から始まるビルドゥングスロマン西部劇だったが、カウボーイになるのが夢なんですと頼み込んで、原題のカルペッパーキャトルに雇ってもらったベン(ゲイリー・グライムズ)が、カルペッパー(ビリー・グリーン・ブッシュ)からロクな夢じゃないぞと刺された釘が思い切り効いてくるシリアス劇だった。

 ヤクザに憧れる少年が思わぬ抗争に見舞われて目を覚ます映画として、邦画でも製作された同工異曲の映画があるのではないかという気がした。それだけ普遍性があるということだろうが、男の出発ならぬ男子の本懐的ヒロイズムが描かれがちな西部劇にあって、まさに最後はそのように換骨奪胎してあるところがなかなかのものだったように思う。

 一行の料理人補助として雇ってもらい、リトル・メアリーという女性名で呼ばれつつ、ときどき牧童業務にも加えて貰いながら失敗を重ねて、厳しさに晒されるベンの姿が綴られる。経験と力の不足による失態は、本人の責のみならず用命した側にも応分の責があると言わんばかりに、懲罰も叱責もしないカルペッパーの態度が好い。飲酒や女性経験も含めて、ベンが身の丈を越えようと背伸びをしながら、なかなか上手く決められないままに銃殺人だけは果たしてしまう苦さが痛烈だ。

 大地主ピアース(ジョン・マクリアム)の尊大な自己利益極大化の強欲姿勢は、まさに今に通じるトラディショナルなアメリカンスピリットだなと苦々しく観つつも、彼らがラス・コールドウェル(ジェフリー・ルイス)たちによって成敗されても、ありがちな西部劇とは違って何らカタルシスが湧かないうえに、彼らに助力を求めたくせに流血の惨劇を目の当たりにして、彼らが命を賭して守ってくれたはずの土地を血に汚れているなどと言って見限り、遺体の埋葬すらせずに立ち去ろうとする敬虔を装った信仰者団体にも失望し、銃も信仰も捨て去って、独り帰還の途に着くベンの姿が印象深い。夢から醒めて苦さを知って生き始めることこそが「男の出発」なのだろう。
by ヤマ

'24. 9.13. BSプレミアムシアター録画
'24. 9.21. BSプレミアムシネマ録画



ご意見ご感想お待ちしています。 ― ヤマ ―

<<< インデックスへ戻る >>>