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『地平線から来た男』(Support Your Local Gunfighter)['71] 『弾丸を噛め』(Bite The Bullet)['75] | |||||
監督 バート・ケネディ 監督・脚本 リチャード・ブルックス | |||||
先に観た『地平線から来た男』は、なんとも緩く他愛のない西部劇コメディで、役者を楽しむ作品だったように思う。その名も皮肉な短気で切れやすいペイシェンス(我慢)を演じたスザンヌ・プレシェットが、最初の全く閉口するほかない“じゃじゃ馬”ぶりから次第に変貌していくさまが目を惹いた。やはり抜きん出た美人だったんだなと改めて思った。 作品的には、謎のガンマンと思しきラティゴ・スミス(ジェームズ・ガーナー)が凄腕を窺わせながら、結局、最後まで決して腕に物を言わせることなく終わった顛末に意表を突かれ、ありがちな西部劇のヒーロースタイルとは程遠い、博奕にも女にもだらしなく弱い厭戦家を貫いていたことに感心した。時代性を考え併せても、単なるパロディ的逆張りではなかったような気がする。 だが、何と言っても、本作で最も意表を突かれたのは、圧巻の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』のオープニングでも強烈な印象を残していたジャック・イーラムだった。実に風采の上がらないジャグ・メイを演じて強面を封印しつつ、100ドル札の恩義を忘れない義理堅い男の味わい深さを発揮していた。やられたと思ったのが主要人物のその後を語る最後の場面で、自身について「俺はマカロニのビッグスターさ」と言い放って締めたラストに、思わずニンマリとした。 また、先頃『ソイレント・グリーン』で見掛けたばかりのチャック・コナーズが今度は護衛ではなく、名うてのガンマン、早撃ちスウィフティ・モーガンに扮しながら、被った帽子を取ってツルッ禿の頭を見せたり、思わぬ爆発の震動で自らの足を誤射する役回りを演じていたことも目を惹いた。 五日ほど経って観た『弾丸を噛め』は、公開時に劇場観賞をしているつもりだったのだが、勘違いだったようだ。ル・マンのような自動車ではなく、馬による耐久レースの映画だとは思い掛けなかった。こちらのほうも実に緩い作品で、役者を楽しむよりほかない映画だったように思う。どうやら我慢を意味するらしい「弾丸を噛め」の心境で観ていたのだが、いくら耐久レース映画とはいえ、だらだらし過ぎていて辛抱しかねた。 話の運びようがまるで訳が分からず、タイトルに直結するメキシカン(マリオ・アルティーガ)の歯痛にしても、マシューズ(ジェームズ・コバーン)が襲われる熊のエピソードにしても、結局のところ、故意か過失かも判らぬままだった毒薬をクレイトン(ジーン・ハックマン)が飲まされ、瀕死になったり快癒したり実は堪えているふうだったりしていた件にしても、若造(ジャン=マイケル・ヴィンセント)の不埒と改心の豹変ぶりにしても、何の効果を狙ってなのか訳の分からないスローモーション場面にしても、取って付けたように露わにされたケイト・ジョーンズ(キャンディス・バーゲン)のどう考えても愚策以下でしかないレース参加の真の目的にしても、ケイトの恋人囚人のろくでなしぶりにしても、ただただ呆気にとられるよりほかなく、最後のゴールインの顛末に至っては、もはや予算が尽きたかのような貧相な場面設えに加えて、いくら何でもの痛み分けぶりに唖然とした。振り返ってみれば、誰よりも弾丸を噛んでいたのは、吹き出た汗の乾いた白い結晶に全身が包まれていた馬たちだったような気がする。 それにしても、まるで競っている感じがなく、緊迫感のないレースだった。数多あるレース映画のなかでも、その締まりのなさにおいては他の追随を許さないのではないかと思えるほどだった。だが、一年ほど娼婦をやっていたと告白していたミス・ジョーンズを演じていたキャンディス・バーゲンは、三十路前の程よい年頃で、ジーン・ハックマンも後年のような曲者感がなく程のよさを感じた。ジェームズ・コバーンは相変わらず渋く、本作が未見だったらしいことに動揺して、十代の時分にテレビ視聴しているはずの『夕陽のギャングたち』を観て、確かめたい気持ちになってきた。 すると、高校時分の映画部の部長が公開当時に観た記憶の印象から、十年ほど前に選出した西部劇のマイベストテンに選出した作品だというコメントを寄せてくれた。異色と言えば、かなり異色の西部劇ということにはなるから、そこが目を惹いたのか、ジーン・ハックマンらしからぬ善人キャラのクレイトンを素直にカッコいいと感じられたのか、キャンディス・バーゲンの騎馬姿に痺れたのか、高校生の部長がどこに惚れ込んだのか判らないけれど、けっこう名高い作品だったような覚えはある。観てもいないのに既見だと錯覚するくらいに名が知れているということだから、僕らの世代においては、きっと著名作に違いない。 | |||||
by ヤマ '24. 6.22. BSプレミアムシアター録画 '24. 6.27. BSプレミアムシアター録画 | |||||
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