『肉体犯罪海岸-ピラニアの群れ-』['73]
江戸艶笑夜話 蛸と赤貝』['74]
くいこみ海女 乱れ貝』['82]
トルコ110番 悶絶くらげ』['78]
監督 西村昭五郎
監督 藤浦敦
監督 藤浦敦
監督 近藤幸彦

 特集テーマが「シーフード」とディスクに印字されていた「#116 第105回」の『みうらじゅんのグレイト余生映画ショー in 日活ロマンポルノ』の四作品は、「肉体犯罪海岸-ピラニアの群れ-【梢ひとみ】、江戸艶笑夜話 蛸と赤貝【小川節子】、くいこみ海女 乱れ貝【渡辺良子】、トルコ110番 悶絶くらげ【原悦子】」だ。

 カーセックスならぬ洋上のモーターボートセックスの連発で始まり、洋上のヨットセックスで終える『肉体犯罪海岸-ピラニアの群れ-』は、海辺の別荘族が地元の不良チンピラ族の餌食にされるのをシーフードに見立ててのセレクションだった。

 グラビアで覚えがあるものの出演作は、東宝版『青春の門 自立篇['77]しか観ていない気がする梢ひとみは、ラストショットを決める主演扱いながらも、ポルノ映画で肝心の濡れ場であまり引き立つ場面がなかったような気がした。チンピラ四人組のリーダー信二(中村良二)の情婦でサブリーダー格の女を演じていたが、役名すら印象に残らないままに終わっていたようで、些か残念だった。

 ボディでも筋立てでも目立っていたのは、別荘族の令嬢今日子を演じていた潤ますみのほうだったように思うけれども、今日子の人物像と信二との行き掛りが不得要領で、作品的にはあまり冴えない出来栄えだったような気がする。チンピラたちが別荘襲撃に際して行う扮装が定番の目出し帽ではなく、顔の白塗りだったことが間が抜けていて可笑しかった。信二と今日子の関係も不可解だったが、娘の今日子の婚約者萩原(髙橋弘信)と関係の出来ていた南部富子(絵沢萠子)も不可解な存在だった。後妻だったのだろうか。


 三日後に観た江戸艶笑夜話 蛸と赤貝』はタイトル以外まるでシーフードとは関係のない江戸もの喜劇だったが、冒頭の鼠小僧もどきの盗賊の出現場面から若旦那(柳家かゑる)が従者の半太郎(ケーシー高峰)を撒こうと連れションに誘い込んで、振りだけで駆け出して逃げるなかで盗賊一味が女であることを目撃する序章の、軽妙でなかなか達者な運びに大いに感心させられた。だが、お話自体は、若旦那の妄執と妄想を主軸とした、かなり素っ頓狂な代物だったような気がする。

 しかし、まだまだ若々しいケーシー高峰やら歌奴で馴染んだ三遊亭圓歌らの持ちネタのパロディーを懐かしく楽しみ、名前にしか覚えのなかった小川節子【お艶】の役名どおりの綺麗で色香の漂う面立ちと身体に観惚れた。若旦那が風呂屋の番台で見初めて妄想を抱く女を演じたひろみ摩耶は、グラビアなどでの見覚えがあったものの、およそ時代劇向きではない印象だったので、却って目を惹き、意外性の面白さがあったように思う。

 それにしても、いったい何人の女性のおっぱいが映し出されたのだろう。なかなかの物量だったように思うが、それは蛸でも赤貝でもないじゃないかと可笑しかった。また、おっぱいだけではなく、噺家と思しき出演者の数もかなり目立っていたような気がする。


 その後に観たくいこみ海女 乱れ貝』は、『江戸艶笑夜話 蛸と赤貝』と同じく藤浦監督作品だが、同作と同じ物量作戦がおっぱいの数だけでなく、絡みシーンの多さにも昂進していて呆気に取られた。時間当たりの濡れ場回数はロマンポルノ作品のなかでもトップクラスなのではなかろうか。まさに乱れ貝だったような気がする。

 オープニングの磯辺で快活に猥談を交わす海女たちの健康的なまでの開放感を基調とする開けっ広げなセックス賛歌の終盤に、何ゆえ心中話を持ち込んだのか不可解だったが、信州の地主の家に生まれながら身を持ち崩したという紐稼業の長谷部(佐竹一男)のキャラクターは悪くない気がした。網元の家の息子に生まれたモテ男の源太郎(鶴岡修)と納まる帆奈美を演じていたクレジットトップの渡辺良子よりも、東京で自分に惚れ込んだ彼を追って島にまで訪れる結婚詐欺師の由紀を演じた風間舞子のほうが目立っていたような気がする。

 海女に相応しい引き締まった若々しい肢体の渡辺良子と、水は水でもどっぷりと水商売に浸かった風情の漂う風間舞子の熟れた肢体の対照が目を惹いた。確かめてみると、当時、風間舞子は二十代半ばとのことで驚いた。ふとした表情に思わぬ若さを覗かせていたのも道理だと感心した。


 最後に観たトルコ110番 悶絶くらげ』もまた、タイトルのほかシーフードとは縁も所縁もない作品だったが、高倉健の唐獅子牡丹に心酔しているトルコ風呂の客引き三浦牧夫(星野暁一)の人物造形に味があり、地元の顔役ヤクザの島谷(益富信孝)の少々間の抜けた滑稽味が可笑しくて、悪くない出来栄えのロマンポルノだったように思う。

 主役のチョマこと千代間智子を演じた原悦子は、僕の書棚にサイン入りの写真集がある唯一の女優だが、これは彼女のファンだった学友から、新宿紀伊国屋書店でのサイン会('80.7.20.)に付き合えと頼まれて、そういうものに足を運んだことがなかったので、見物がてら行ったときの証拠品だ。『写真集 原悦子 海の歌がきこえる』【壱番館書房 1,000yen】となっている。

 本作では、三年トルコ嬢をやって金を貯め、恋人の中沢則夫(藤野弘)と店を出すと、則夫を引っ張って関西から吉原のトルコ街に上京してきた十七歳の智子を演じていたが、当時二十二歳ながら、あどけない明るい可愛らしさが人気を博していた覚えがある。出演作を観たのは初めてのように思うが、芯の強さと屈託のなさを体現していて、人気を集めていたのも判るような気がした。

 タイトルにある110番もくらげも本編に全く関係なかったが、悶絶は確かにあって、うち、指で弄われるのはあんまり好かん、はよ入れてとチョマから言われてショックを受けた島谷が、宝石店で買ってきた真珠四個を埋め込んでひいひい言わせてやると挑んだ際に、その強い締め付けに真珠玉で自分の性器が痛み、ひいひい言って悶絶していたのだった。三浦と馴染みの不良サラリーマン夏目(小見山玉樹)から斡旋を受けた由紀(吉沢由起)を覚醒剤中毒者に仕立て上げて苦界に沈めたり、チョマへの執心から則夫や三浦を痛めつけて吉原から追い出した島谷に、性戯を装って最後にチョマの与えていた折檻が、綿棒にたっぷり掬い取ったサロメチールを尻の穴に塗り込めて悲鳴を上げた島谷の肛門にビニールチューブを挿し込んで緑色のバスボンシャンプーを注入するという荒業で、またしてもひいひい言いながら尻にチューブを挿し込んだまま素っ裸でトルコ風呂の個室から飛び出した島谷をチョマが哄笑するなか、中島みゆきの歌う♪あほう鳥♪が流れるラストショットになっていた。

 すると、学友がこれ確か荒井晴彦の脚本ですよね。封切りで観ました。恋人と別れる時、それまで貯めてたお金を原悦子が半分に分けようとすると、男は「お前が体で稼いだ金だ」と言って受け取らない。そこで原悦子が「うちのために、ようけ客引いてくれたやんか」と応じるのが、とても印象的でした。個人的に、『天使のはらわた 赤い教室』の「俺はお前のことを3年間探し続けたんだ」「わたしがあなたのことを待ってたのは、たった3時間よ」とともに、ロマンポルノの名シーンだと思ってます。と寄せてくれた。封切時と言えば、僕らが大学三回生の時分だ。木谷恭介原作、荒井晴彦脚本による本作のその場面は、確かになかなかいい場面だ。チョマはあんたの取り分やと言って渡そうとし、則夫は一緒に吉原を出ようと誘う。だが、もはや彼女の心に則夫はおらず、吉原の街を悪く言う則夫の横っ面を引っ叩いていた。そして、三浦も去った今、チョマは「唐獅子牡丹」のドーナツ盤を川に投げ捨てながら、もう、誰ともタダはせえへんと呟いていた。
by ヤマ

'23.12. 3,6,14,16. スカパー衛星劇場録画



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