県立美術館開館30周年記念 “大木裕之 監督作品上映

『エクスタシーの涙 恥淫』['95] 62分 R18+
近作集
『みつめつつユみ 藁工mix』['11-12] 7分
『カンシー/レキシー/テレパシー』['16] 13分
『トシ シ』['20] 12分
『meta dramatic 最新mix』['23] 40分
『M・I 2023』['00-23]

 初期の頃とは違ってカメラが動き回るし、大木監督の映画は集中力が要るので、もうその持続力に自信がなくなっているうえに、トータル12時間近い作品のうち半分ほどは既に観ていることから、見送るつもりだったが、奇しくも三日前にひろめ市場で大木監督に遭遇した奇遇により赴くことにしたものだ。

 プログラムトップの『七月の思想家』は、三十年前の開館時に美術館の職員だった僕のところに、その二年前の山形国際ドキュメンタリー映画祭'91で知り合った大木監督が訪ねてきて、いま撮っている作品を美術館の開館に合わせて上映してもらえないかと言うので、単品上映ではなく、もう少し企画を膨らませてくれたら検討してみようと返したところ、昨年亡くなった鈴木志郎康さんの『あじさいならい』とのカップリング上映に加えて、対談をセットするということでどうかというので、それなら個人映画という表現に係る開館記念イベントにできると思い、「アーティストとしての映像作家の表現」と題して、急遽追加して実施した、個人的にも思い出深い作品だ。ちょうど16mm映写機を使った催しがなかったことに託けることができたのも幸いした覚えがある。それ以来、観ていなかったのだが、四年前に収蔵作品になっているらしい。

 続くHEAVEN-6-BOX 天国の6つの箱は、『七月の思想家』を上映したことで関心を寄せた松本教仁学芸員が企画した美術館製作映画だが、ベルリン映画祭にも出品され、ネットパック賞特別賞を受賞した作品で、'95年3月、'96年3月と二回観ている。

 どうせ観に行くことにしたのだから、朝一番から行くつもりだったのだが、いろいろ雑用をしているうちに出るタイミングを逸したので、未見作である『エクスタシーの涙 恥淫』に合わせて午後から出向いた。成人指定作品だとは知っていたが、三十年前に観た『あなたが好きです、大好きです』と同じくゲイフィルムだと思っていたら、国映製作のピンク映画だった。

 ワンカット1分で撮られた60分余の作品は、必ずしもワンシーンワンカットとは思えなかったが、キューナンバーをナレーションで入れていっていたのが、いかにも異化効果を目論んだ実験映画的なスタイルで、ピンク映画らしからぬ様相を呈していたように思う。どこまで規則正しく続けるか注目していたら、案の定、キューナンバー15で途切れ、No.16はノーカウントになったから、そんなものだろうと思ったら、No.17からは再開されて意表を突かれた。少なくとも40番台までは続いていた気がするが、最後までではなかったけれども、どこで途切れたか聴き落としてしまった。僕の集中力のほうが先に途切れたようだ。

 ドラマ的には全くのトンデモ映画で、唐突に語られる来世だの、ファシストだの、宇宙人だの、地球への性的欲望(字幕には「sexual desire for earth」と記されていた)だのといった話に呆気に取られるが、もしかすると吉田大八監督による映画化作品を六年前に観た三島の『美しい星』を意識していたのかもしれないと思ったりした。また、裸体や性交、自慰場面はふんだんに出てくるけれども官能性は皆無で、ピンク映画としてもトンデモ映画だと思った。だが、そのぶんドラマとは、官能とは、を問い掛けてくる形にはなっていたようには思うものの、それってATGがさんざんやってきたことではないかとの思いも同時に湧いた。

 そして、キューナンバーのコールとともに1カットで撮る規律性に『遊泳禁止』を想起しつつ、併せて既にこの時期からオーバーラッピングを始めていたことを改めて確認したような気になった。

 次の『心の中』は、'97年11月と'99年11月の二度に渡って観ていたし、ゼロ年代ビデオ作品のうち『メイ』シリーズ第1作090522mixは、まさしくその日に、今や閉じられたシネマトグラフで観ていたので、開館30周年記念展「そして船は行くの観覧のほうに回った。

 18:40からの近作集5本は、この『メイ』以降、大木作品を観る機会を得ていなかったことからすれば、貴重な機会ではあったが、基本的に二十六年前に観た3+1』の日誌に記したことをその後もずっと続けていることに感心する思いが湧いた。映画と言葉とライブが彼の関心の核心部分にあるというようなことを上映に合わせたトーク/パフォーマンスのなかで告げていた。



公式サイト高知県立美術館

by ヤマ

'23.11. 4. 美術館ホール



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