『Winny』
監督 松本優作

 ウィニーによるファイル共有と掲示板を同期させるアイデアについて、東大大学院の特任助手を辞職させられた開発者の金子勇(東出昌大)と彼の弁護団の中心になっていた、サイバー事情に明るい壇俊光弁護士(三浦貴大)が興奮気味に盛り上がっていた場面や、程なくして現れた「YouTube」登場の件を映し出していた点からは、この事件がなければ、日本発で「YouTube」に替わるツール開発が成し遂げられていた可能性を作中で訴えている気がした。

 目を惹いたのは、ポチの告白上映会で当地に来県したこともある、愛媛県警の裏金問題を告発した仙波敏郎元巡査部長(吉岡秀隆)の件にも、併せて焦点を合わせていたことだった。確かに当時、国会質問にもなったウィニーによる警察文書の流出があった。著作権侵害の蔓延ならぬ“満えん”以上の大問題だったように思う。

 作り手としては、業界団体の要請を受けてこじ付け逮捕を行ったと思しき京都府警も、必要悪を口実に組織的な公金横領をしていた愛媛県警(に留まらない警察組織)も、末端警察組織の問題ではない警察権力自体の抱えている暗部という認識があるのだろう。

 金子勇が逮捕されたのは二十年前のことだが、警察による逮捕というものが上層部から恣意的に左右されるものであることがあからさまにされた、八年前の警視庁刑事部長による逮捕状の執行停止事件のことを想起すれば、それこそ脈々と“満えん”しているのだろう。宿命的ともされる権力の腐敗をチェックする機能というものは、社会の何によって果たせるのだろうと思わずにいられなかった。

 僕自身は、作中で壇弁護士が言っていたように金子さんは技術者として、そこに登るべき『山』があるから登っただけだとは思っていないところがあるが、開発者責任が問われて刑事罰が科せられるのは筋違いだと思っている。法治が損なわれ、人治が引き起こした恥ずべき逮捕だったと言う外ない気がする。
by ヤマ

'23. 3.17. TOHOシネマズ9



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