『PLAN 75』
監督 早川千絵

 まるで楢山節考のような話だったが、それだけに、戻りかねないともいうことだ。

 まさにコロナ禍におけるマスク着用のごとく、「強制」ではない体裁でも、確実に追い込んでいける日本社会の仕組みの恐ろしさ、哀しさに暗澹たる気分になった。満75歳から生死の選択権を与える制度<プラン75>に携わる人々が業務として、おろらくはマニュアルどおりに優しく丁寧な言葉遣いと対応によって高齢者を屠殺へと導いていく姿が遣り切れなかった。

 僕自身は<プラン75>まで、まだ十年というか、後十年という位置にいるけれども、78歳独居老人でもきちんと自活していた角谷ミチ(倍賞千恵子)が<プラン75>に申し込む直接の契機になっていたように思われる、孤独な夜間交通整理員に転職した姿を捉えたショットの苛烈さに胸が塞がれた。夜間ではあまり見かけた覚えがないけれども、昼間であれば、かなりの高齢者と思しき交通整理員やガードマンを男性だとよく見かける。あまり考えたことがなかったが、彼らが独居ではないことを願うばかりだ。人と親しむ場のないことが最も生きる気力を奪うのだろう。画面も暗くて陰気だったし、実に寂しさが堪えてくる映画だったように思う。

 倍賞千恵子も大方斐紗子も、こんなに老けていたのかと驚く姿で現れていたが、それなりのメイクを施さなければ、もうそういう歳なのだろうと思いつつも、敢えて老けメイクを施していたのではないかと思ったほどだった。それでも♪林檎の樹の下で♪を歌う彼女の声質は、往年程には無論ないけれども、綺麗で透明感のある嘗ての歌声を偲ばせていて感慨深かった。

 それにしても、屠畜以下の産廃処理扱いの闇利権ネタは、あのような形で単に触れるだけで済ませるのであれば、さすがに遣り過ぎではないかと思った。当の<プラン75>以上に、強烈だった。遺体ではなく、廃棄物としてゴミと一緒に埋められる処理に対して、旧知の映友女性が「アウシュビッツ関連の描写のさらにその先」とのコメントを寄せてくれたが、その通りだと思う。触れて済ませられるような話ではないはずだ。それもあって、安直にショッキングに走る描き方をしているように感じられる点に少々難があるような気がした。




推薦テクスト:「ケイケイの映画日記」より
http://www.enpitu.ne.jp/usr1/bin/day?id=10442&pg=20220714
by ヤマ

'23. 3.13. あたご劇場



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