『エンドロールのつづき』(Last Film Show)['21]
監督・脚本 パン・ナリン

 インド版ニュー・シネマ・パラダイス['88]かと思いながら観ていたら、祭りの準備['75]だったように思う。急行列車も止まらない田舎町のチャララを発つサマイ(バヴィン・ラバリ)の物語は、監督・脚本を担ったパン・ナリン自身がモデルになっているそうだ。

 カースト制度(むかし習った記憶では、バラモン・クシャトリア・バイシャ・スードラの四層だった気がする)の最上位の出身ながら、日銭稼ぎのチャイ売りに落ちぶれている父親の手伝いをしながら、映画と出会い、夢に向かって歩みを始める少年の姿がひと昔の時代ではなく、現代の物語として描かれていることに感銘を受けた。作り手の映画小僧ぶりがいかんなく発揮されている作品で、映画好きなら観過ごせないエピソードが満載だった。

 驚いたのは、今やインドでもカーストの四層ではなくて、英語のできる層とできない層の二層によって人生が分たれるという台詞が出てきたことで、非常に印象深かった。日本も早晩そうなっていくのかもしれない。

 観賞後に、表の掲示板に貼り出されていたプレス・シートを眺めていたら、本編の最初と最後とに分けて名を挙げられていた“先人”が書き出されていた。パン・ナリン監督が道を照らしてくれた人々に感謝を込めてと挙げていたのは、リュミエール兄弟、エドワード・マイブリッジ、デヴィッド・リーン、スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、マンモーハン・デサイ、シャー・ルク・カーン、アミターブ・バッチャン、アーミル・カーン、サルマーン・カーン、ラジニカーント、グル・ダット、カマール・アムローヒー、サタジット・レイ、ミケランジェロ・アントニオーニ、チャールズ・チャップリン、マヤ・デレン、ジャン=リュック・ゴダール、フランシス・フォード・コッポラ、キン・フー、アルフレッド・ヒッチコック、勅使河原宏、イングマール・ベルイマン、フェデリコ・フェリーニ、チャン・イーモウ、小津安二郎、スティーヴン・スピルバーグ、スパイク・リー、ジェーン・カンピオン、クリス・マルケル、ヴェラ・ヒティロヴァ、クエンティン・タランティーノ、黒澤明、リナ・ウェルトミューラー、キャスリン・ビグロー、アレハンドロ・ホドロフスキーの三十六人。なかなか興味深い人選だ。このうち三人(マンモーハン・デサイ、カマール・アムローヒー、サタジット・レイ)の作品だけ観逃しているので、いずれ片付けたいものだと思った。それにしても、日本の映画人からの三人に勅使河原宏の名前があって驚いた。
by ヤマ

'23. 6. 7. あたご劇場



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